2.視聴覚サービスをめぐる大学図書館の状況

 大学図書館では、1950年代には、ごく一部の館でレコードや映画フィルムのライブ ラリー化が始まっていたが、VTR元年といわれる1975年頃からビデオブースによる サービス実施館が現れはじめ、1980年代には急速に普及した。AVブース設置館が全 体の半数に達したのはおそらく1989年頃のことで、当時の推計ではその利用者数の総 和は全国で年間約 100万人ということであった1)。
 JLA『図書館年鑑1993』2)によれば、大学図書館で視聴覚設備が有るのは 586館 (対象 1,024館の57.2%) 、視聴覚サービス実施館は 581館 (同56.7%)である。
設備の分布状況は、「ルーム」 354館、「コーナー」 262館(重複含む)となってい る。「コーナー」がAVブースの設置を指しているだろうことに対し、「ルーム」に はAVブースを並べた専用の部屋と、いわゆるAVホールという両方の意味がありそ うだが、サービスの形態を「セルフサービス」と回答している館が 500館あり、その 多くはセルフ式AVブースのことを指していると思われるし、「係員による」 112館 (重複含む)にも送出式AVブースの例が含まれるとすれば、現在、大学図書館の半 数強はAVブースによる館内視聴を主体とした視聴覚サービスを実施しているものと 考えられる。
 文部省の『平成5年度大学図書館実態調査結果報告』3)によれば、各館の機器保有 台数は、VTR 4,798台、テープレコーダー 3,511台、CD・LDプレーヤ 2,581台 など、資料所蔵数はレコード514,415 タイトル、ビデオテープ 284,683タイトル、C D・LD 255,236タイトルなどである。 以上のような普及状況からすれば、すでに 多くの大学図書館にとって、視聴覚サービスはごく一般的なものと言える。当初こそ 、それなりに機械にも詳しい担当者が設置や運用を担い、細かな利用規則等のもとで 特別なサービスを始めたという意識が強かったように思われるが、一般社会や家庭に VTRやCDが行き渡ると、これらが図書館にあるのもごく自然な感覚となり、その 運用も次第に開放的な手法がとられてきている。ジョブローテーションの中で館員の 多くがその業務に携わるようにもなって、特殊な資料・サービスという意識は薄らぎ 、ことさら客寄せの目玉などといった位置づけではなしに図書館に根をおろしてきた ことはたいへん幸いなことである。
 しかし一方では、目録の標準化、著作権問題、学内組織と業務分掌上の問題(視聴 覚センターなど学内他機関との関係)など、ある程度継続してこの分野に携わった者 でも、いまだに的確な対応の仕方がわからないでいる問題が多く積み残されている。
また、大学の学部・学科構成(医学系か芸術系か語学系かなどといった違い)や、資 料構成(劇映画かノンフィクションか、音楽資料か語学教材かなどの違い)の別によ ってもその取り組みには様々なことがあり、これらはある程度分けて考えていかなけ れば精密な議論は成り立たないのであろう。
 ただ、これらを細分化して分析すればするほど、各館事情の差異が浮き彫りになる 反面、いつまでたっても骨太な視聴覚サービス論の構築へ到らないといううらみもあ る。実際、幾つかの事例報告はなされていても、大学図書館における視聴覚サービス とは何かという命題は未だに漠としたままではないか。そのことが、各館の視聴覚担 当者の多くに、このサービスにある種の行きづまりのようなものを感じさせてもいる のではないか、というのが筆者の観測である。
 そこでつぎに、視聴覚資料の特性をいかに認識し、大学図書館においてどのように 意義づけることができるかについて、視聴覚教育の理論を援用しつつ若干の考察を試 みたい。