1.はじめに
筒井康隆のSF小説『時をかける少女』は、偶然にも自分の意思で時間や空間を移
動できる能力を身につけてしまった少女の不思議な体験に、思春期の甘酸っぱい慕情
を織りまぜて描いた傑作で、何度か映画・テレビ化もされ根強い人気がある。この物
語でヒロインがめぐりあう青年は西暦2600年の未来からやってきた大学生ということ
になっているのだが、彼の語るところによれば、その未来では、あまりにも高度に発
達してしまった科学文明についていくため学校教育の期間が際限なく延長され、最後
の学校を卒業するのは若くて38歳、場合によっては50歳近くになってしまうという驚
くべき高度学習社会が現出している。筒井がその解決策として睡眠学習のようなもの
を登場させているのはともかくとして、世の進歩につれ、後世に伝えるべき知識や情
報が果てしなく膨大・複雑なものとなっていくことに教育がどう対応していくかはた
しかに重要な課題ではあろう。
いま大学教育は大きな曲がり角を迎え変革が求められている。大学図書館における
視聴覚サービスも、そのような動きとあわせつつ、さらなる充実の求められる分野の
一つである。視聴覚メディアのもつ膨大な情報量によって効率よく具体的かつ多様な
知識を吸収できること、強い訴求力によって学習の動機づけとなり、自ら問題を発見
し洞察していく力が身につくことなどの効果は、多くの人々が認め期待するところで
あるからだ。