4.その他の広域ネットワーク
 
  以下においては、現在稼働しているインターネット以外のアメリカと日本の広域ネット ワーク(WAN)についてその概要を紹介しておく。
 
1)アメリカの広域ネットワーク
 
1 NSFnet(National Science Foundation network)
 
 1985年に全米科学財団(NSF:National Science Foundation )は、スーパーコンピ ュータの有効利用のため、プリンストン大学、コーネル大学、カーネギーメロン大学、イ リノイ大学、カリフォルニア大学にスーパーコンピュータ・センタを設立し、同時にこれ らのスーパーコンピュータを接続するNSFnet(全米科学財団ネットワーク)を構築 した。その後、1988年にこのNSFバックボーン・ネットワークは、T1リンクと呼ばれ る1.5Mbps の高速通信に改良され、NSFの援助によって13の地域ネットワークが実現し ている。これらの地域ネットワークを含めると600 以上の大学・研究所がこのネットワー クで結ばれ、スーパーコンピュータを直接利用できるようになった。なお、このネットワ ークの通信プロトコルにはT1リンクでTCP/IPが採用されている。さらに、1990年 末以降、これまでのT1リンクに代わって、通信速度が45MbpsのT3リンクも稼働してい る。
  また、アメリカからアジア・オセアニア地域への国際接続のために、1989年にPACC OM(Pacific Communications Networking Project)がスタートし、オーストラリアの メルボルン大学、慶應義塾大学、東京大学に64Kbpsで、ニュージーランドのワイカト大学 へは19.2Kbpsでの接続が実現した。日本からは、東京大学理学部を中心とするTISN (Todai International Science Network)、慶應義塾大学のWIDE(Widely Distributed Environment)を経由してこのネットワークを利用できる33) 。
 
2 CSNET(Computer Science Network)
 
  全米科学財団(NSF)が計算機科学者にコンピュータネットワークサービスを提供す るために開発したものであり、インターネット環境を拡大するための大きな役割を果たし た。
 
3 BITNET(Because It's Time NETwork)
 
  BITNETは、ニューヨーク市立大学が開発したネットワークで、全米教育コンピュ ータ利用推進協会(EDUCOM)が運営している。このネットワークでは、主に電子メールの 交換が行われている34) 。わが国で利用する場合のノードは、東京理科大学にあり、東京 理科大学とニューヨーク市立大学間が56Kbpsで接続されている。また、東京理科大学をノ ードとして、韓国、香港とも結ばれている。なお、わが国の学術情報ネットワークとは、 1989年に接続された。このネットワークの特徴は、論理的コンピュータ・ネットワークで あるCSNETと異なり専用回線をもっている点にある。
 
2)日本のコンピュータ・ネットワーク
 
  わが国の広域(地域)ネットワークには以下のようなものがあり、JUNET以外は、 TCP/IPプロトコルで稼働している。また、国内の回線速度は192Kbps が多いが、よ り速度の低い64Kbpsのものもあり、より高速な384Kbps から1.5Mbpsまでのものも使われ ている。現在の通信量の推移をみると、さらに高速な回線に移行していく傾向がみられる 35) 。
 
1 JUNET(Japanese UNIX Network)
 
  1984年当時、東京工業大学の村井純氏(現慶應義塾大学)らの研究グループは、大学間 のUNIXマシンを電話回線で結ぶコンピュータネットワークの開発をはじめた。その後、こ のネットワークの参加組織が大学以外の研究所などにも広がったこと、参加コンピュータ の上で使われる基本ソフトウェアがユニックス(UNIX)であることから、今日では、 Japanese UNIX Network(JUNET)と呼ばれる「ネットワークのネットワーク」に成 長した。これに現在何台のコンピュータがつながっているかのデータはないが、仮に1組 織が数10台、ないし数100台からなる学内ネットワーク(LAN)をもっているとすれば 、数万台のコンピュータが接続されていることになるという36) 。
 
2 WIDEインターネット
 
  JUNETが運用を開始した後の5年間に、それぞれの研究・教育組織内でのキャンパ ス・ネットワークや学内LANは著しく向上した。そこで、JUNETの構築の経験を基 盤に、新しいコンピュータ環境のさまざまな側面についての研究・開発を「広域大規模分 散環境」というテーマにまとめて活動を開始したのがWIDEプロジェクトである。
  実際の研究活動は1988年から開始され、メンバは大学の教職員、大学院の学生、企業の 研究・開発に携わる研究者などで構成されている。また、1990年から研究活動はフェーズ *の段階に入り、実験基盤の確立、運用技術の確立などを目的としている。この実験基盤 でのネットワークをWIDEインターネット」と呼び、IPプロトコルで国際接続を実現 している。
  実際のバックボーンとしては、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)、WIDE 東京ネットワークオペレーションセンター、WIDE京都ネットワークオペレーションセ ンター、WIDE大阪オペレーションセンターがある37) 。
  ところで、わが国におけるこれら2つの研究用ネットワーク−JUNETとWIDEの 国際接続は、JUNETの場合、KDD研究所のUUCP接続と、東京大学から全米科学 財団(NSF)につながっている学術情報センターのサテライト回線を用いたIPプロト コルによっている。また、WIDEインターネットの場合は、太平洋の海底ケーブルであ るTPC-3(日本とハワイ大学間)とHAW-4(ハワイと米国西海岸間)などの回線を用いて 実現している。なお、この接続はPACCOMとの共同研究により実現したものである38) 。
 
3 地域ネットワークの現状
 
  ここ数年のうちに各地の大学で学内LANが構築される一方、それらを結ぶ地域ネット ワークもさまざまに構築されている39) 。「地域ネットワーク総覧」40) によると、わが 国の地域ネットワークは15にのぼる。そのいくつかの例を以下に掲げておく。
  ・東京地域アカデミックネットワーク(TRAIN : Tokyo Regional Academic InterNet- work)参加組織45
  ・北海道地域ネットワーク協議会(NORTH : Network Organization for Research and Technology in Hokkaido)参加組織24
  ・東北学術研究インターネット(TOPIC : Tohoku Open Internet Community)参加組織 22
  ・東海地域ネットワーク(TRENDY : Tokai REgional Network DYnamics)参加組織65 (企業体も参加)
  ・大阪地域大学間ネットワーク(ORIONS :Osaka Regional Information and Open Net- work System )参加組織59
  ・黒潮インターネット(仮称)参加組織9、和歌山県庁企画部情報システム課
  ・第5地区ネットワークコミュニティ(NAC5 : Network Community Area 5)参加組織 17、京都大学大型計算機センターが運営
  ・北陸地域情報ネットワーク(FITNet : Fukui-Ishikawa-Toyama Network)北陸地域学 術情報ネットワーク懇話会、1994年10月一部運用予定
  ・中国・四国インターネット協議会(CSI : Chugoku-Shikoku Internet Council)参加 組織22、中国・四国インターネット協議会が運用母体
  ・九州地域研究ネットワーク(KARRN : Kyushu Area Regional Research Network)参 参加組織62(各県の工業技術センターを通して、県レベルでの協調関係を維持)
  【図* わが国の地域ネットワーク】
 
  4 JOISのネットワーク
 
  わが国のアカデミックネットワークは、一部の地域ネットワークやWIDEインターネット などで企業等との協調関係がみられるが、どちらかというと大学などの研究者向けのネッ トワークである。これに対し、科学技術情報センター(JICST:Japan Information Center of Science and Tecnology)は、主として産業界向けに、オンライン情報検索シス テム(JOIS :JICST On-line Information System)を構築、提供している。科学技術 文献ファイル、国内医学文献ファイル、科学技術研究情報ファイル、公共資料ファイル、 日刊工業産業ファイル、のほか、海外から導入した13種のデータベースなどがこれによっ て利用できる。
  なお、このシステムは、サービス開始当初は特定回線接続のみであったが、1978年から は公衆回線サービスを開始し、NTTの電話回線を利用して全国に10カ所のノード(接続 拠点)を設け、ユーザからのアクセスを容易にしている。また、JOISは、企業に加え て、官公庁の専門図書館や大学図書館で、レファレンス業務の一環として利用されるケー スが多い。
  日本科学技術情報センター(JICST)の対外サービスとしては、1985年の日本語デ ータベースの海外への提供、1986年の英文データベース(JICST-E)の構築などがあり、 1987年には米国のChemical Abstract Services(CAS)、ドイツのFIZ Karlsruheと協力 してSTN Internationalを形成し、JICST-Eのオンライン提供のための基本的条件を整備 したことなどがあげられる41) 。