2.インターネットの利用
1)インターネットのサービス
第7章でみてきたように、インターネット(the Internet) は、学内LANや地域ネッ
トワーク、バックボーンなどがIPプロトコルによって接続され、その全体があたかも巨
大な生き物のように協調的に動作することのできるネットワークのネットワークである。
インターネットが学術情報の流通にもたらしたインパクトにははかり知れないものがあ
るが、そこでサービスされる内容については、今もなお一層の充実と発展が図られつつあ
る。
現在のところ、インターネットを通じて受けることのできるサービスには次のように多
岐にわたっている12) 。
・基本サービス:ファイル転送、電子メール、遠隔ログインなど遠隔コンピュータの利
用
・メールサービス:メーリングリスト、電子掲示板など個人の情報発信
・対話型情報配送サービス:Gopher,WWW,WAIS など個人の情報検索
・ディレクトリサービス:Whois など人やサービスの発見
・インデックスサービス:Archieなど情報の発見
・能動エージェントサービス:Knouwbotなどの情報の自動収拾
・ネットワークマネージメント:ネットワークとネットワーク機器のモニタと制御
・商用電子データサービス:企業の用いる商用帳票はレコードの交換
・応用暗号サービス:秘密メールや財産、金融に関連するトランザクション
・マルチメディアサービス:マルチキャスト型の統合型メディア配送
・移動通信サービス:小型コンピュータやPDAによる連続接続機能
ここでは、インターネットの代表的なサービスである電子メール、電子ニュース、電子
掲示版、ファイル転送、リモートログインなどについて述べる。
1 電子メール(e-mail)
電子メールは、今日インターネット上で最もよく利用されるアプリケーションである。
このメールではテキストを送るのが普通だが、グラフィック・イメージのようなものを送
ることも可能であり、このための規格としてMIME(Multimedia Internet Mail
Extention)がある。
電子メールを送るためには、相手のメール・アドレスを知らなければならないが、その
ためには相手の名刺に記載されているメールアドレスを確認するのが一番の早道である。
インターネットには、電話番号を探すような仕組みの包括的なオンライン検索サービスは
現在のところ存在しないが、もし相手の職場がわかっているなら、person-name@domain-
name で電子メールを送れば、多くの組織のネットワークでは正しく配送してくれるはず
である。
また、この電子メール機能には、インターネットとBITNET(後述)などのアウタ
ーネットとの間をやり取りすることもできる。
例えば、
morley%TV60MIN.BITNET@cunyvm.cuny.edu
宛の電子メールは、cunyvm.cuny.edu のゲートウェイを通じてBITNETのTV60MIN
ノードのmorleyに届けられる13) 。
2 電子ニュース、電子掲示板(BBS:Bulltin Board System)
電子ニュースとは世界的規模の電子掲示板(BBS)システムと考えてよい。このシス
テムを利用して、多数のコンピュータ間でアーティクル(電子ニュースでは1つのメッセ
ージをアーティクルと呼んでいる)を交換するのである。
例えば、「初めてマッターホルンに行くのに、装備などはどうしたらよいか」といった
ことから、「多巻もので各巻が固有のタイトルをもっていないもののローカルシステムで
の扱い」といったこと、さらにコンピュータのことにいたるまで、自分の疑問について意
見を交換したいと思った時などにこれを利用すると便利である。つまり、一般の電子掲示
板システムは、ある1つのコンピュータ上で稼働する蓄積交換型のメッセージ交換システ
ムであり、そのコンピュータのユーザが掲示板(実体はファイル)で読み書きするための
インタフェイス・プログラムを用いて実行するのである。
また、この電子ニュースにはもう1つの長所がある。それはブラウジングしながら情報
を得るには最適の手段であるということであり、多くの場合、それにコミットメントする
必要もないことである。
現在、インターネットで見られるネットワーク・ニュース、つまりUSNET(User's Net-
work)は、この電子ニュースを交換している論理的なネットワークとそのシステムの名称
からなり、このニュース・システムを“NetNews ”と呼んでいる。このNetNews には、現
在約 5,000のニュース・グループが存在していると言われ、そのカテゴリは、“comp”
(コンピュータ関係)から“rec ”(レクリエーション・芸術等)や“talk”(議論の交
換)にいたるまで多岐にわたっている14) 。中には、日本語によるニュース・グループも
存在している。図*に日本語の電子ニュース(電子掲示板)の一部を掲出した。これには
、次項でふれる“ゴーファー(gopher)”でリスト化されていないわが国の大学図書館の
オンライン閲覧用目録(OPAC)へのアクセス法も含まれていた。(図 日本語の電子ニュース)
3 ファイル転送(anonymous FTP)
FTP(File Transfer Protocol)は、インターネットでドキュメント・ファイル等を
やりとりする時に最もよく利用されるもので、正しい認証手続きをしてシステム側がそれ
を認めた場合、1秒間に5-10Kbps(英字で約625 〜1,250 文字)のスピードでファイルを
転送してくれる。また、ユーザがシステムのアカウントを持たない場合は、システムにユ
ーザ名として“匿名(anonymous)”、パスワードは自分の電子メールアドレスを使って
ログインすることにより、ディスク空間のあるエリアを設定できる機能を言う。
このanonymousで開設されたエリアはパブリックになっていて誰もがアクセスすること
ができる。インターネット上のすべてのコンピュータが、パブリック・ファイル・ストレ
ージを設けているわけではないが、少なくとも1,300のシステムが何ギガバイトもの情報
を公開していると言われ、中には電子書籍、パブリック・ドメイン・ソフトウェア(無料
で公開されているソフトウェア)、グラフィック・イメージなどの利用を可能にしている
と言われる15) 。
4 リモート・ログイン機能(telnet)
“telnet”コマンドを用いることによって、遠隔地にあるコンピュータにアクセスし、
それをあたかも自分のところのシステムのように利用することができる。例えば、マノア
にあるハワイ大学のUHCARL図書館の蔵書目録にアクセスするには、
telnet starmaster.uhcc.hawaii.edu
と入力し、次の画面でlibと入力、VT100 エミュレーションで‘5’を選択するという
手順でできる16) 。“telnet”コマンドは、先方のIPアドレスやドメイン名を知ってい
る場合に使用できるが、知らない場合は、次項で述べるgopherを利用するとよい。
2)情報へのアクセス手段
インターネット上にある情報の大部分は無料で利用できる。しかし、後述するように商
用データベースサービス会社もインターネットを通してサービスを開始しており、それら
を利用する場合には料金がかかる。インターネット上の無料でアクセスできる情報を入手
するには、電子ニュースを利用する他に、欲しいソフトウェアやドキュメント、さらには
図書館の所蔵目録などの情報を得るためのいくつかのサービスを利用することができる。
以下にそのいくつかを紹介しておく。
1 ソフトウェアを探すアーキイ(Archie)
アーキイ(Archie)とは、アーカイブス(archives)に由来したもので、ソフトウェア
・アーカイブはインターネット上のいろいろなところにある。Archieは、カナダのマージ
ル大学のグループによって開発されたもので、“anonymous FTP”で集められたソフトウ
ェアのデータベースでもある。ここにはAmiga、Apple II、Maci
ntosh、DOS、UNIX、X-windowsなどのパブリック・ドメインやシェアウェアが沢山集め
られている。日本からは“archie.wide.ad.ip”で世界中のアーキイ・サーバ(archie s
erver)の情報が検索可能である。また、このサーバで検索できるのはファイル名だけで
あるが、例えば、X-windowのクライラントであるxarchieを使うと、検索だけでなく、そ
のまま“Ftpコマンド”でファイルをコピーしてくることも可能である17) 。
2 リソースを調べるGopher
Gopher、正式には“The Internet Gopher”は、ミネソタ大学のキャンパス情報配付サ
ービスに端を発し、その語源は「ものを捜しに行く(go far)」に由来していると言われ
る。Gopherでは、メニューを使ってリソースをブラウジングすることができる。また、
Gopherの最初のメニューには、図書館以外にもコンピュータ・マニュアル等が用意されて
いる。
図はコロラド研究図書館連合(CARL:Colorado Alliance of Research Libra-
ries)へのアクセスを試みるためにゴーファを利用した時のものである。Gopherの図書館
メニューを利用すれば、CARLのドメイン名やIPアドレスを調べてtelnetする必要は
ない。メニューの中からエントリをみつけ、の表示のあるエントリを選択するだけ
で実行することができる。なお、図書館メニューは国別に分かれて表示されており、日本
のところを探したところ、早稲田大学図書館と筑波大学図書館の2館がリストアップされ
ていた18) 。
Gopherシステムにアクセスするためには、Gopherクライアント・プログラムをインター
ネットに開かれているコンピュータに搭載していることが必要である。
(図 Gopherの図書館リスト)
3 WAIS(Wide Area Information Server)
WAISは、分散型データベース検索システムで、データベースの共通検索コードのた
めの規格(Z39.50)19) をベースにしている。
前に紹介したアーキイ(archie)では、与えた名前をキーにして、どこにそのファイル
があるかを調べることはできるが、そのファイルの中に何があるかを探すことはできない
。こうした問題はこのWAISが解決してくれる。WAISは、Brewster Kahleが考案し
、Dow Jones, Thinking Machines, Apple Computer, KPMCとPeat Marwickの共同プロジェ
クトによって改良されたもので、サーバにあるデータベースを検索するものである。
世界中のサーバには、約400 のデータベースがあり、その分野は、分子生物学、ERIC(
教育関係のデータベース)、Rogetの百科事典、インターネットに関するドキュメント、
種々のUSENETニュースなど、多岐にわたる。このシステムを使うためには、WAISクラ
イアント・プログラムを搭載したコンピュータが必要である。
4 WWW(World Wide Web)
WWWは、World Wide Webの略称で、ダブリュスリーなどと呼ばれることもある。WW
Wは、インターネット上に分散している情報をリンク付けてハイパーテキスト化(第6章
参照)した情報検索システムで、HTML(HyperText Markup Language)という記述言語
が使用されている。リンク付けられる情報の種類としては、テキストのほか、ソフトウェ
アや画像、音声などがある。利用者は、織物(Web)のように複雑に交錯しているリンク
をナビゲーションしながら探索するのである。検索者は、何がどこにあるかを知る必要は
なく、多くの異なったサーバからの情報によって特別な検索ができる。
WWWのクライアントの一種であるMosaicを使って、ホームページと呼ばれるイ
メージ情報を駆使した画面へアクセスすることが可能である。大学や図書館の外観写真で
あるとか、館長の顔写真とともに声のメッセージも流れるなど楽しい利用法もある。
Mosaicの使い勝手や、ハイパーテキスト形式の優れた面については、谷口敏夫による紹
介がある20) 。
3)商用サービスの利用
インターネットは、もともとは学術研究機関等が有するLANとLANの相互接続をベ
ースとしたものであるが、現在では、LANに接続されていないユーザでも、端末からモ
デムなどでインターネットへアクセスできるような商用サービスも多数存在している。
これは、インターネットへアクセスできるホストコンピュータをサービス会社が用意し
、そこにアカウント(account =そのシステムがユーザに対して発行する課金用のUSER I
D 、computer accountig ID の略)21) を発行して、そのホストに対する端末アクセスを
提供するというものである。現在、こうしたサービスを手がけている企業で図書館などと
関連があるものを以下にあげておく22) 。
・America mail:電子メール
・CompuServe:電子メール、各種データベースほか
・BRS:各種データベース
・DIALOG:各種データベース
・STN International :データベース(CAS)
・Dow Jones :各種データベース、ニュース
・OCLC:書誌ユーティリティ、データベース、など
また、LANを設置している機関でも、これまでの専用回線によるアクセスと異なり、
インターネットを経由してこれらのサービスにアクセスすれば、必要な情報を複数のデー
タベースからリアルタイムに検索でき、より効率的にさまざまな形で利用することが可能
となる。
これまでは利用に関する制限(AUP:Acceptable Use Policy)によってインターネ
ットを利用した商業活動は制約されてきたが、実際には商業活動の一環としての学術情報
提供と純粋な商業活動との区別が困難なことから、制約も緩和されている。
各種の商用データベースの利用をはじめ、電子雑誌、電子新聞などの商用サービスがイ
ンターネット経由で活発に利用されることになることと思われる。
例えば、エルゼビア、パーガモン社とカリフォルニア大学などとの間で、いわゆる「電
子雑誌」を提供するTULIPプログラムが運用されている。これとは別に、OCLC(
Online Computer Library Center) もインターネットを利用した電子雑誌提供サービスを
開始している。これは、OCLCが電子雑誌を利用するためのソフト“Guidon”を講読者
に提供し、関係出版者が雑誌の全文を電子雑誌の形でオンラインで供給するものである。
現在このシステムで提供される電子雑誌は、“Applied Physics Letters online"
(American Institution of Physics)、“Electronics Letters online" (IEE :
Institution of Electrical Engineers)など4タイトルであるが、今後、次第にタイト
ル数を増やしていく予定とされている。また、OCLCは、TULIPプログラムとも提
携する計画をもっているようである。現在、研究図書館協会(ARC:American Reserch
Libraly asociation )は、インターネットを利用して提供される電子新聞、ニュースレ
ター、学問的な議論のリストを収録した辞典を発行している。
また商用ニュースサービスとしては、ClariNetという会社が、UPI通信サービスのニ
ュースをはじめ、各種専門分野のニュース、ビジネスニュース、新製品アナウンス、ロー
カルニュースなどを、Use netのファイル形式で供給する電子出版ネットワークサービス
を展開している23) 。
4)インターネットと図書館
これまでみてきたとおり、インターネットは、図書館などが学術情報支援サービスを展
開する上で大きな利用価値があることがわかる。特にKnowbotと呼ばれる一連の分散型テ
ータベースの一つであるWAIS、gopher、WWWをうまく活用できれば、その効果は大きい。
そこまでいかないとしても、当面の効用には以下のようなものが考えられる24) 。
第1は、海外の大学のオンライン閲覧用目録(OPAC)にアクセスできることである。海
外の主な大学は、大抵インターネットに接続しているから、例えば、文献の所在調査をし
たい時には、これによって最新の所在情報を得ることができ、相互貸借(ILL)に役立て
ることができる。ただし、オンライン閲覧用目録(OPAC)自体は、その大学内の限られた
ユーザの検索を前提に構築されたものであるから、検索方法も提供される情報の内容もま
ちまちであることは承知しておかねばならない。
第2に、DIALOG、 BRSなどの商用データベースや、アメリカのパソコンネットワーク
Compu Serve などがインターネットに窓口を設けているから、これらの商用データベース
の利用はインターネットを経由すると料金が安くなる。
第3に、電子ニュースや電子メールなどを活用することによって、情報を得たり、情報
交換に役立てられる。
第4に、出版情報を入手することができる。アメリカの出版社は、もともと通信販売を
比較的よく行っているが、電子メールによる新刊案内の配布や注文の受付をするところも
あり、gopherを利用してユーザが出版情報を自由に利用できるようなサービスを提供して
いるところもある。今後は、図書館等における図書の発注業務にもインターネットを利用
することができるようになるだろう25) 。最近、わが国においてもインターネットを利用
して大学図書館などから図書の発注を請け負う会社が誕生している26) 。
最後に、これまで紹介した情報へのアクセスの手段は、そのまま裏を返せば情報提供の
手段にもなることを指摘したい。
高速なインターネットでは、文字情報、画像、音声を送ることができるから、わが国の
大学図書館は、ネットワークを利用して海外からの情報を取り込むだけでなく、自らも情
報の提供者となるべきであろう。わが国の大学でもオンライン閲覧用目録(OPAC)が徐々
に整備されつつあるが、どちらかというとその利用を学内者に限定する傾向が見受けられ
る。これに対しアメリカでは、インターネットに接続してオンライン閲覧用目録(OPAC)
などを公開している大学は、全体の4分の1程度ある。やに格付け
されている大学はすべてインターネットに接続しており、オンライン閲覧用目録を公開す
ることが一般化している。また、インターネットでアクセスできるオンライン閲覧用目録
のディレクトリも編集されている27) 。
ちなみに、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校図書館の日本コレクション部門
から、インターネットを利用して早稲田大学図書館のオンライン閲覧用目録へアクセスし
た事例を図*にあげておく。アメリカにあるコンピュータでも漢字キットをインストール
すれば、実用上は殆ど支障のない程度の情報を得られることがわかる。
(図 Gopherから早稲田大学図書館システム(WINE)へ)
(図 インターネットで見た慶応の目録データ)
今日のようにネットワークが切れ目なく接続されている時代にあっては、わが国で時折
みられるオンライン目録の公開制限がどれほどの意味を持つのか疑問である。むしろ、こ
の目録を含め、公開できる学内情報は積極的に公開するような政策をとり、外国からのア
クセスを容易にするようにローカルシステムの一部を改善しておくことが必要であろう。
また、資料の相互貸借(ILL)については、アメリカの日本コレクション(Japanese
Collection)の連合体との間で、互恵の原則にもとづいた協定を取り決めるような方向
に動くべきであろう。