1.学内LANの活用

1)わが国の大学における学内LANの状況

  わが国の大学においては、ネットワークを構築する際の基盤となるキャンパス内、キャ ンパス間の光ファイバケーブルによる幹線、および建物内への支線の敷設、情報コンセン トの設置などの設備的な整備は遅れている。統計資料の分析によると、学内LANがある のは、国立大学の78%、公立大学で19%、私立大学で23%であった1)。
  文部省は、昭和62年度から国立大学に対して学内LANの整備のための資金を計画的に 予算化し、平成6年度予算で国立3大学の学内LANを整備することにした。この結果、 移転計画中の5大学を除き、すべての国立大学の学内LANが整備されることになる2)。
  私立大学の場合もそれぞれの大学の事情に応じ、文部省の助成も受けつつ学内LANの 整備を進めており、全体として3割程度の大学で整備が完了したと推定されるものの国立 大学との格差は大きい。立命館大学や慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスなどのように、光 ファイバを利用したFDDIを設置し、建物内にも情報ネットワークを張りめぐらした例 があるが、全般的にみると研究・教育に利用することを目的とした学内LANの整備は遅 いと言えよう。
  学内LANの利用計画やすでに実現されているものをみると、学術情報支援サービスに かかわるものとしては、
  ・研究室からのオンライン閲覧用目録(OPAC)の検索
  ・図書の発注状況の照会
  ・資料の購入請求
  ・資料の複写・提供
  ・コンテンツ・サービス
  ・電子メールによる参考質問の受付・回答
  ・構内の電子掲示板、図書館内電子掲示板および投書
  ・ネットワークサーバ・システムを利用したCD−ROM3)
  ・研究室などからの広域ネットワークへのアクセス(インターネットなどを利用した電 子メールによる国際的情報交換やオンライン商用データベース検索)
  などとなっている4)。
  多くの場合はオンライン閲覧用目録の提供にとどまっており、CD−ROMのネットワ ーク利用・検索、商用オンライン情報検索システムの利用、電子メール等の利用はまだ少 ないようである。なお一部の大学では、学内LANを利用して学生のレポート提出をはじ め、電子図書館を志向した実験の1つとして、雑誌の目次を光ディスクに入力し異なるキ ャンパスにある端末から検索しようとする試み5)等が行われている。
  また、一部の先進的な大学では、CAI(コンピュータ支援教育)、CAD−CAM( コンピュータ支援設計−製造)なども学内LANを利用して行われているが、学術情報支 援サービスや研究・教育の分野では、一般的には、学内における知の体系をどのように構 築し利用していくかについて、まだ具体的な構想を模索中と言える。
 
  2)海外の大学における学内LANの状況

アメリカの場合、わが国の多くの大学のように、ひとつのキャンパスにすべての学部や 大学院があるわけではなく、大学のキャンパスがかなり離れたところに分散している場合 が多いから、その間の連絡のためにはどうしても通信網を整備しなくてはならないといっ た事情もあり、さらに通信機能を日本に較べてかなり安く使えることもあって、学内LA Nが急速に整備され、発展したと言われている。
  学内LANを活用した学術情報支援サービスの内容も、オンライン閲覧用目録(OPAC) による図書・雑誌等の一次資料の所在情報の提供から発展し、情報提供サービスに付加価 値をつける意味で、フルテキスト(雑誌論文のすべて)のオンラインによる提供、ドキュ メント・デリバリ(論文等の電子的な送付)、学内の各種の案内情報等を統合した情報提 供サービスのために全学情報システム(CWIS:Campus Wide Information System)が 構築されている。
  例えば、カーネギー・メロン大学や南カリフォルニア大学など多くの大学が教職員録、 学生名簿へのオンラインによるアクセスを可能にしているほか、マイアミ大学では、図書 館が教員の著作物をデータベース化し頒布している6)。このように、教員の履歴、研究業 績・研究テーマ、著作物目録などをデータベース化し、オンライン情報検索サービスを提 供することは、大学図書館が行いえる学術情報支援サービスの格好の例となっている。
  また、大学図書館は、教職員や学生の個々の情報をまとめ上げるとともに、ローカルシ ステムとして提供して欲しいという利用者のニーズに応えようとしている例も報告されて いる。
  例えば、南カリフォルニア大学のUSCINFOシステムでは、高等教育の週刊情報誌 “The Chronicle of Higher Education”の全文を搭載するとともに、学術論文や電子ニ ュース、奨学金のお知らせ、求人広告、ソフトウェア・インフォメーション、学会の案内 などの情報提供サービスに加えて、講義案内、大学の日程表、キャンパス内の書店の在庫 情報も追加することを計画していると言われている。
  また、ジョージア工科大学では、“Commerce Business Diary(CBD)”に代わるものとし て、関心のある教員に対し、助成金情報、連邦政府各機関の様々なプロジェクトなどに関 する速報サービスも提供している。これは、毎日、利用者のプロファイルにしたがって、 CBDからの関連情報を加工し、電子メールで希望する宛て先に送るものである7)。
  これらのサービスに加えて、1980年代の後半から、多くの大学が様々な商用データーベ ース・ベンダ(提供業者)から使用許諾権を取得し、索引・抄録データベースをローカル システムに搭載することによって、オンライン目録を補完する形で、雑誌論文情報等への アクセスの機会を拡大した。これらも、大学図書館を中心にできる案内情報サービスの典 型的な例と言える。
  さらに、アメリカでは図書館とコンピュータ・センタが共同して、数年後には科学デー タおよび統計データを管理し、維持するという複雑な問題の解決に取り組んでいると報告 されており8)、雑誌論文の電子的配布(electronic document delivery)も日常的に行わ れている。例えば、カーネギーメロン大学のライブラリ・インフォメーション・システム とマーキュリー・プロジェクト(Mercury project )は、キャンパス上の幾つかの高機能 ワークステーションを活用できるユーザ・インタフェイスを備えて分散コンピューティン グ環境を利用できるように設計されており、高度な検索機能とビットマップ・イメージ( 紙面を画像情報として蓄積し提供する)による文献配布を可能にしている9)。
  また、イメージ・データ処理によるドキュメント・デリバリの例として、カリフォルニ ア大学(UC Berkeley)、カーネギー・メロン大学など9大学グループと、エルゼビア社お よびパーガモン社が、雑誌の講読契約を解除しないこと等を条件にして、TULIP (The University Licensing Program)計画を実現した。これは、両社が発行している材 料科学分野の雑誌を、電子形態でインターネットを利用して大学のファイルサーバに転送 し、全学情報システムをとおして、学内の利用者に提供する10) ものである。
  なお、これとは別に、UMI社が進めている文献提供システムやアドニス(ADONI S)11) が導入されている例もある。
  このように、アメリカの大学の学内LANは、わが国のそれと比べ格段に活用されてお り、今後の学術情報支援サービスの展開を検討する上での貴重な示唆を与えてくれる。