3.ビデオ

 シナリオと絵コンテ

 ビデオは、まずとりあげるテーマを絞り込み、ドラマ風か、ドキ ュメンタリー風かといった手法(番組のスタイル)と、起承転結の 構成をよく検討した上で、ナレーションを細かく決めたシナリオを 作る。プロがしばしば行うような、大まかなプロットだけで収録し、 編集段階で脚本を考えるような方法を真似ても成功しない。また各 シークエンスの画面を絵で表現した「絵コンテ」を必ず作成する。
 画面作りを忘れて言葉に頼ると、ナレーション過剰に陥る。絵を 描くかわりに、写真を撮って順番に台紙に貼ってみても良い。各カ ットには通し番号をふり、カット幾つをどうする、といった表現で 作業が進められるようにする。
[絵コンテの例]
絵コンテの例


 シナリオと絵コンテに従って、登場人物や小道具を洗い出して製 作スケジュールを組み、近い場所や似たような絵柄のカットをまと めて撮れるような収録手順を計画する。そのカットでは画面の中で 人物がセリフを喋るのか、画面の外から聞こえるのかといった区別、 音楽はどの間流れるのか、字幕や特殊効果をどう使うのかといった ことをすべて明確なものにする。出演者がセリフを暗記する必要が あれば、その練習期間もスケジュールに組む。人物の服装や季節感 に統一性をもたせることは言うまでもないが、例えば4月の新学期 に上映する作品で、いかにも夏服や冬服という登場人物を見るのは 案外に違和感の強いもので注意したほうが良い。細かい縞のある服 や赤い服もビデオには不向きである。
 またシナリオは、必ず出演者が声を出して読んでみて、喋り言葉 として自然に聞こえるように何度でも修正する。利用者が聞き慣れ ない単語は、チャートや字幕で補うことにも配慮する。
 シナリオと絵コンテができたら、ホームビデオカメラなどを使っ て、練習を兼ねた簡単なリハーサル番組を作り、検討・修正を重ね ると良い。この段階では、出演者も台本を手に持って読みながらの 気楽な収録(いわゆるドライ)ができる。この作業を通じて、完成 作品のイメージをよく掴んでから本番に臨むと、円滑な進行ができ る筈である。

 収録

 画質の良いビデオ番組を作るには、収録・編集作業の全ての過程 で、できるだけ性能の高い機材を使い、テープのダビングの回数が 最小となるように計画することである。普通は収録に用いる素材テ ープから、カットを順番通りに編集したマスターテープを作成し、 ここから上映用のテープを複製する。つまり孫(3世代目)のテー プが観客の前で再生される。4世代以上の複製は、途中で1インチテー プを使うのでもない限り好ましくない。
 素材テープとマスターテープ、或いはマスターテープだけでも、 できるだけUマチック(3/4 インチカセット)以上のものを使用する。 家庭用ではS−VHS、EDベータなどの高画質VTRもあるが、 収録に用いるVTRは、基本的にはあとで使う編集機材の規格に合 わせて決定されるべきものである。
 ビデオカメラは3管式とか3CCD式の、業務用といわれるもの を業者などから調達できれば最も良い。ただ、初心者では使いこな せないこともあるので、民生用でできるだけ性能の高いものを選ぶ ことになろう。三脚は頑丈で、首振りなどが安定して行えるもの、 できれば水準器がついて画面の水平をとり易いものがよい。ただし 首振り(左右方向をパン、上下をティルトという)や、ズーミング は、作品の中では使わず、固定した(フィックスという)画面だけ で収録するようにする。ある部分を拡大していきたい場合でもズー ムアップするのではなく、サイズの違う二つのカットを編集で繋げ て表現する。室内の広さを表す為にどうしてもカメラの首を振りた いときは、出演者に部屋の中を歩かせ、それを追う(フォローパン ニング)ようにすると比較的スムーズに見える。手持ち撮影や移動 撮影はよほどの場合を除いてやってはならない。また目録カードな どの小さなものの収録には、カメラ本体のマクロレンズ機構より、 別売のクローズアップレンズを用いたほうが撮影しやすいようであ る。プロジェクターで上映することも考え、充分なアップにする。
 映像のクオリティーに決定的な影響を及ぼすのは照明である。ビ デオカメラの感度の高さに頼らず、350 〜1000ワット程度のスタンド付 ライトを常時複数用いる。ハロゲン・クォーツなどのビデオ用ライ ティングキットが調達できると良い。影がきつい場合、ランプの前 にディフューザー(トレーシングペーパーのようなもの)を吊るし て光を拡散させると自然に見える(但しランプに近づけすぎて燃え ないように注意すること)。人物だけでなく背景となる壁にもライ ティングし、立体感や奥行きを演出する。勿論、ブレーカーや電源 コードの容量に注意し、また収録現場では、床に這い回るケーブル に足を引っ掛けたり、加熱したランプで火傷するなどの事故が起き ないよう、くれぐれも冷静に行動すること。
 ビデオカメラは、その場の光源に合った色バランス(白バランス) を調整すれば、色温度の問題は解決しやすいが、交流50Hzの地域で は蛍光灯による画面のチラつき(フリッカー)が無視できない。そ のためにも、できるだけ撮影用照明を用いてフリッカーを軽減する (できれば蛍光灯を消す)ことを考える。フリッカーは、コンピュ ータのディスプレイを撮影する際にも生じ、カメラとの相性が悪い 場合は大きな問題となる。
 音の収録も作品の完成度に大きく影響する。カメラの前で登場人 物が話しをする場合、周囲の静粛さが必要(例えばクーラーやコピ ーを止める)なのは勿論、できるだけ性能の良いマイクを、適切な 位置まで口元に近づけるか、小型マイクを胸元につけて使う。カメ ラに装備されたマイクは使わない。レポーターがマイクを持って喋 るという演出なら良いが、ドラマ仕立ではマイクの隠し方にも工夫 が要る。指向性の狭いマイクで出演者の口元を狙う方法もあるが、 熟練を要する。演技だけ収録しておいて、あとから口の動きにセリ フをあてる方法(いわゆるアテレコ)はビデオでは成功しにくい。 これは出演者の巧拙のせいではなく、ビデオ映像のもつ高い現実感 がもたらす現象で、映画では起こらないことである。
 収録の際、近くに利用者がいると、どうしても出演者が萎縮する し、騒音も出るので、結局こうした収録は休館日や休暇中に行うほ うが無難である。夜間は屋外からの光量が期待できないし、画面に 窓が入ると不自然なので、収録場所や撮影方向が限定される。
 テレビや映画では、複数の登場人物が対話する様子を、細かくカ ットを切り換えて表現する例が多いが、かなりの経験を積んでから でないと、真似できるものではない。大切なのはカットの数よりも、 その内容に即した的確なサイズとアングルによって、ストーリーの 構築に必要な要素を上手に積み上げていくことである。つまり漫然 とカメラを向けるのではなく、すべてのカットに対して、この部分 はこういうセリフだからロング(全景)で、この言葉にはアップで、 といったことを必ず意味づけながら構図を決定し、前後のカットと 繋いだ場合の効果を想定して収録する訳であるが、こうした感覚は 何度か自分で編集までやってみないと習得し難いものである。
 収録中は、9〜14インチのモニターテレビを横において、構図やピン トを常にチェックしながら進行する。その場で再生して、少しでも 不都合があれば、面倒臭がらずに何度でも撮り直すことが良いビデ オを作るコツである。また出演者の喋りにくいセリフはいつでも平 易なものに変更し、不必要なカットは現場でも削ぎ落としていく臨 機応変さも必要である。実際の図書館というのは、モニターを通し て見ると、様々な図書館用品やサインで埋まっていて画面がうるさ い。例えばカウンターの上などは、必要最小限の小道具のほかは、 きれいに片づけ、構図を単純化したほうが画面に集中できる。観客 の目というのは意外に散漫で、画面の隅の瑣末な要素や、登場人物 の些細な癖などに興味が移りやすい。構図と演出は、常に「引き算」 で考えることが大事である。
 このようにビデオでは、画質・音質は勿論のこと、構図と照明、 カット割り、音楽の適否、登場人物の演技力、発声や容姿などのあ らゆる要素に、一定水準を満足する技量と審美性が要求される。特 にメインの出演者は、できるだけアナウンスや演劇の経験を積んだ 人のほうが、鑑賞に耐える作品とすることができる。ある意味では どんな機材を使うかといったことより、出演者のキャラクターの魅 力のほうが、大切だとも言える。

 編集と仕上げ

 ビデオの編集は、素材テープの内容を再生用VTRから録画用V TRにダビング(複製)して行う。必要なカットをポーズをかけな がらつなぎ録りしていく(ポーズtoポーズ編集という)方法もある が、多くの家庭用VTRでは、カットの繋ぎ目で画像が乱れてしま う。高級なタイプでは乱れにくいものもあるが、カットどうしを微 妙なタイミングで繋ぐ必要のある、作品としてのビデオ編集の為に は「電子編集システム」の使用が不可欠となる。一式 100〜 200万 円前後するので、どこの図書館にもあるというものではないだろう が、学内のいずれかの部署で設置していることもあろうし、他大学 の視聴覚部門に協力を求めても良い。編集室を時間貸しする業者も ある。編集機の操作は難しいものではないが、ひととおりの使い方 は経験者の指導を受ける必要があろう。なお一般に電子編集システ ムでは、録画側のビデオテープの全編に、カメラのカラーバーのよ うな安定した映像信号を収録しておき、インサート編集という方法 によって、再生側の映像と入れ換えながらカットを繋いでいくよう にすると、上手くいきやすいことを申し添えておきたい。
 ビデオの編集を効率的に行うには、素材テープのどこに、何番の カットが入っているかをよく整理しておくことである。収録の際、 何番のカットは幾つ目の演技(テイク)がOKか、ということを丁 寧に記録した一覧表を残しておくと便利である。このようなカット のアドレスを効率的に管理する方法に「タイムコード」という仕組 みがある。これは画面のひとコマづつに何分何秒何コマという番地 を与え、必要に応じてモニター上に重ねて表示したり、コンピュー タを用いて自動編集を行うことができるものである。プロは収録の ときからこれを用いるが、アマチュアの場合は業者に委託して、全 ての素材テープを、一旦、タイムコードを重ねた仮編集用のテープ (ワークテープ)にダビングしてもらう。これをもとに必要な場面 のタイムコードを、順番通り書き抜いた表を作って業者に渡すと、 素材テープが指定通りに編集されて返ってくる。予算に応じて、音 楽や字幕を加えることも依頼できる。この方法ならば本格的な電子 編集システムを持たなくても完成度の高い編集が実現する。
 ビデオ機材は日進月歩で発達しているので、編集システムも今後 はより簡便で安価なものになっていくであろう。
 ビデオで文字・図表類を表現する場合は、横と縦の比率が4:3 で、文字は概ね横16字×縦8行程度の範囲内に収まるようにする。 特殊効果装置を使って、文字に着色したり、縁どりを行ったり、ま たコンピュータで文字・図表を作成して、画面に重ねることのでき るものもある。高級なシステムほど、様々な特殊効果を加えること ができるが、あまり瑣末なテクニックに凝るべきではない。
  ビデオ編集では映像に気をとられて、音声がつい貧弱になりがち であるが、ナレーションを適切な音量・音質で録音すること、特に BGMの音量を必要以上に大きくしないことなどが大切である。内 容の退屈さを音楽で救おうとして、頭から終わりまでBGMを流し つづけるのは、却って全体が平板になり逆効果である。また曲の著 作権についても留意する。簡単なオリジナル曲を作るか、市販の効 果音楽集等で著作権の処理されたものの中から選んで、導入部・場 面転換・エンディングなどの限られたポイントだけに使うのがよい。
 ここまで述べたようなビデオ制作の難しさを考えると、プロへ外 注した場合の経費というものも、費用対効果では決して高すぎない と思われるだろう。企画・脚本の段階から、収録、編集・仕上げま での全ての作業を依頼する場合(完成作品20分以内、収録2日間、 スタッフ5名程度で 200万円前後が相場)や、ナレーターだけプロ を頼むとか、編集作業だけを委託する、機材のみ借用するなど、手 持ちの機材とスタッフの技量を考えて、効果の上がる方法を計画す ることが大切である。

 ビデオの上映

 ガイダンスの会場でビデオを再生する場合、モニターテレビは、 ブラウン管に対して窓や天井灯の映り込みがなく、座席から見易い 位置にセットする。視聴人数によっては数台のモニターを用いる必 要があり、その為のケーブルや分配器も必要となる。また音声は内 蔵スピーカとは別の拡声装置で流したほうが聞き易いことが多い。 部屋は明るくても良いが、暗くした方が画質を向上し、観客に注視 させることができることも考慮する。ビデオプロジェクターの場合 は部屋を暗くし、また見る角度によっては画面の色が偏ったりする ので、座席の位置に注意する。遅れて会場に入る者がドアを開ける 度に画面が白んだりすることがないような配慮も必要である。
 ビデオは、図書館の一角でいつでも再生できるようにしておくと 効果的である。検索用の端末の傍らに、操作方法を教える為のビデ オ装置を置いた大学図書館もある。(写真)
 リピート機能付のVTRは、ボ タンを一つ押すだけで、テープが再生され、終わると頭に巻き戻っ て待機する。設定によっては何度でも繰り返して再生し続けるが、 所謂垂れ流し上映は感心できない。ビデオテープは再生頻度が多い と次第に画質が劣化することは免れないので、マスターテープを丁 寧に保存しておき、随時上映用テープにダビングして用いる。

[早稲田図でのビデオ利用]
検索用端末の隣においてビデオ装置
キーボードの操作も実際に則して細かく指導(早稲田大学)


筆者は1996年にビデオ・オン・デマンドによる図書館利用指導用番組を開発した。
詳しくは拙著 『大学図書館におけるマルチメディアの利用』(初出:私情協ジャーナル)参照