2.スライド

 スライドの制作

 スライドの撮影にはリバーサル(反転)フィルムというものを用 いる。現像によってネガ(陰画)となり、それを印画紙に焼きつけ る方法とは異なり、撮影フィルムそのものが現像でポジ(陽画)と なり、これをマウントに装着して映写する。従って焼き増しという ものがなく、画面を傷つけたりすると替えが効かない。勿論写真店 に依頼して複製(デュープ)を作ることはできるし、ネガフィルム からポジフィルムを作ることもできるが、若干高価である。
 通常、35ミリ1眼レフカメラを用い、館内撮影には広角レンズ( 28ミリ前後が良い)を、目録カード等の接写にはマクロ機構のある レンズを用いるなど、最低限の写真撮影の知識は必要である。
 スライドの映写は印画紙より遙かに拡大率が大きいので、ピント の甘さやブレが目立ちやすい。三脚を使い、絞りを深くとり、水平 のとれた的確な構図で撮影する。また印画紙では、撮影時の露出や 色の誤りが焼付の際に修正されるが、スライドは撮影状態イコール 結果なので、本来ならば露出や色温度について細心の注意が必要で ある。最近のカメラの自動露出は非常に精巧だが、1コマを若干絞 りをかえながら3枚くらい撮影し、あとで選択するとよい。人物を 撮る場合は、良い表情を得るため、さらに何枚も余分に撮影する。
 一般に入手しやすいのはデイライトタイプという屋外光用のフィ ルムだが、これで館内撮影を行うには、ストロボや専用の青色電球 を使う必要がある。タングステンタイプという、白色電球で正しく 発色する撮影フィルムもあるが、館内の蛍光灯の下では、どちらの タイプのフィルムでもあまりきれいに写らず、緑や青に転んだ色に なりやすい。フィルターや大型照明が使えればよいが、普通は館内 の色の再現性には少々目をつぶらなければならないことが多いよう である。感度はISO 200〜 400位のものが使いやすいだろう。
 文字・図表等のスライド作成は、実景撮影よりもいろいろな難し さをともなう。スライドにする原稿の横と縦の比率は、約3:2、 例えば横15センチ×縦10センチ位の大きさに周囲3センチ幅位の余白をとり、レ タリングシールや、大きな文字を細かいドットで印字できるワープ ロなどを用いて、明快な字体で見易く作成する。1コマの中で判読 できる文字量は、投影サイズやデザインにもよるが、概ね横(長辺) 20字×縦(短辺)8行程度の範囲内であることが肝要である。ま た、特殊な現像処理によって、白紙に黒文字で書いた原稿を、ブル ーの地に白抜きの文字で効果的に表現するなどの方法もある。
 小さい原稿の複写やブルースライドの作成には、マクロレンズや 専用スタンドを用い、露出や現像に関しての知識も要するもので、 こうした作業を原稿作成の段階から請け負う業者もある。しかし簡 易にマウント付スライドを作ることのできる複写装置や、ブルース ライドに反転するポラロイドフィルムなどによって容易に作成する こともできる。またコンピュータの画像出力を直接焼きつけてスラ イドを作成する方法もある。学会発表などの経験者に指導を乞うと よいだろう。
 カメラは、構図を縦にも横にも撮影できるが、ガイダンスでの上 映という目的であれば、すべて横構図に統一して撮影したほうが実 用的である。縦構図のスライドはしばしばスクリーンからはみ出す し、それにあわせて投影サイズを小さくするのも不合理だからであ る。なお、図書館案内などの印刷物にカラー写真を掲載する場合も、 リバーサルフィルム(それもできれば35ミリよりも大きな版のフィル ム) を用いるほうが、カラーネガを用いるより美しい印刷ができる。

 編集と上映

 現像されたスライドは、普通1コマづつ、5×5センチのマウントに 装着されており、これを順序を揃えて上映する。編集の段階では普 通、ライトボックスとルーペを用いてコマを取捨選択するが、慣れ ないうちはスクリーンに投影してみて、使用するコマを選んだほう が良いだろう。編集中はフィルム面に素手で触れて指紋を付けたり しないよう慎重に扱う。小さな埃は写真用のブロアーで吹き飛ばし て取り除く。
 映写機には、1コマづつ(ないし5〜10コマづつ)、手で差し替 えながら投影するものや、数十コマを専用のホルダー(カローセル ・トレイといわれるタイプが普及している)に順序通りセットして おき、連続映写できるものがある。普通は後者のほうが便利だが、 動作の確実さという点で前者を選択することもある。マウントは、 裏表や天地方向をそろえて映写番号を記入しておき、本番前にも必 ず一通り映写して確認したほうがよい。マウントを寄せて並べ、そ の底辺に斜めに直線を引いておくと、トレイ等にセットした際、順 番の狂いが見付けやすい。なお長期の収納には、密閉性の高い防湿 ケースを用い、防湿・防カビ剤を同梱して冷暗所に保管する。
 上映画面にあわせて口頭で解説を加える場合、演者がリモコンな どを用いて、自分でコマを送ることもあるし、演者と映写機係を分 担することもあるが、前者は操作が負担となるし、後者はよく打ち 合わせをしておかないと解説とコマ送りがチグハグになることもあ る。予めナレーションを吹き込んだテープを流し、これに同調させ て映写することもよく行われる。コマ送りのタイミングにあわせて 小さなベル音のようなものを録音しておき、これを頼りに手動で操 作する場合と、録音テープの音声とは別のトラックにパルス信号を 録音しておき、自動的に送る方法とがある。後者は普通、専用のテ ープレコーダと映写機の組み合わせによって制作され、多数のコマ が的確なタイミングで自動映写できる。勿論、画面の内容を受け手 が理解する時間、コマとコマの切り換わる時間については充分な配 慮が必要である。
 スライド映写には2台以上の映写機を用いて、僅かにダブらせな がら切り換えたり(ディゾルブ映写)、アニメーションのような動 的表現を行う高等テクニックもある。また大きなスクリーンにマル チで映写して、例えば左の画面に館内各所の実景、右に平面図を投 影して指示棒でその場所を示しながら進行する、などの工夫を凝ら してもよいだろう。(写真)
 この場合片方はOHPを使ってもよいが、画面 の輝度が違いすぎると、スライドが見づらくなることもある。

[農大図でのスライド上映]
2台のスライド映写機を使って投影
左の画面は実景,右はブルースライドによる文字画面(東京農業大学)


 映写会場が決まったら、必ず現場で試写して、スクリーンサイズ と映写レンズの焦点距離の関係を確認し、照明や映写機の操作方法 などを係を決めて練習する。口頭による解説は、進行や聴衆の水準 にあわせて内容を臨機応変にかえられるが、ベースとなる脚本はし っかりと作っておき、指示棒やレーザー光線によって要所を指す方 法なども練習しておくとよい。指示棒をみだりに振り回し、却って わかりにくくなることがあるからである。また、ひとつのスライド 番組の中に、様々な現像法やマウントの異なるコマを混ぜて使う場 合には、各々のピントの合う位置が微妙にずれるので、上映の際、 常にピントを直しながらコマを送る必要がある。
 会場はできるだけ暗くしなければならないが、リヤスクリーン方 式ならば、部屋がやや明るくてもよい。1Kw程度のクセノン電球な どを用いた大型のスライド映写機は、体育館のような場所で数百人 の観客に対しても充分な映写効果があり、スライドのもつ迫力や審 美性が発揮される。一方でボックス式のリヤスクリーンを用いた個 人視聴用のスライド映写機もあるが、このような用途は現在ではビ デオによることが一般であろう。スライド番組のビデオ化(テレシ ネ)は、投影画面をビデオカメラで収録することで比較的容易に行 える。磁気フロッピー式のスチルビデオというものも、よく用いら れるようになった。無声または音声に同調し、25〜50コマの静止ビ デオ画像をリピート再生できるもので、演出のノウハウはスライド のそれに近いものがある。