初出:私情協ジャーナル Vol.6 No.1(1997.6) pp.26-27 特集 大学のマルチメディア環境

大学図書館におけるマルチメディアの利用




伊藤敏朗



   
1.はじめに

 東京情報大学は1988年に千葉市に開学し、現在 は大学院経営情報学研究科と経営情報学部(学生 数約2,300名)を置いており、また電算センター と教育研究情報センターという2つのセンターを 置いている。電算センターは学内のコンピュータ 演習室や大型汎用機等の管理運営を所管する。教 育研究情報センターは大学図書館と視聴覚センタ ーの機能を併せもった組織だが、昨年、図書館機 能を含む新しい建物を建設して、その管理運営に あたることとなった。この建物は『総合情報セン ター』と命名されているが、ここではわかりやす く“図書館”ということにする。
 当館はこれまでもLL教室やスタジオ、館内のAV ブースなどの運営を通じて、メディア教育の支援 サービスに力を注いできた。学内の講義講演の模 様などを収録したオリジナルビデオ教材も 100本 を越える。こうして蓄積されたノウハウを反映し て、新しい建物にもスタジオや調整室、大小2つ の視聴覚ホールなどを備えるとともに、図書館機 能のなかでも、いくつかのマルチメディアへの対 応を図っていくこととなった。

2. VODによる図書館利用指導

 当館ではVOD(ビデオ・オン・デマンド)システ ムを、学内広報や図書館利用指導に用いている。 ビデオサーバは、16ギガバイトのハードディスク に MPEG1で約20時間の動画・音声情報が蓄積可能 である。ここからスター型にネットワークされた クライアント用パソコンが館内12か所に配置され ている。ここで提供しているのは、前述の講義講 演の記録のほか、学内の諸行事を取材したニュー スや大学施設紹介など、3分から1時間半まで、 長短さまざまな映像番組約60本である。
 クライアントでは、メニュー画面にある9つの 項目ボタンからセレクトすると、6つの子画面に 各番組のタイトルと静止画像が現れ、これをクリ ックすることで番組が始まる(図参照)。

       
左からVODシステムのトップメニュー画面,項目別メニュー画面,番組再生画面

 9項目のうち「大学・センターのご案内」「図書館の使い 方」「お薦めコレクション」「図書館の達人」の4つ の項目のなかに、それぞれ、館内施設、資料検索 や貸出・返却方法、コレクションの紹介、各種デ ータベースの利用法など、全部で20本余りの図書 館利用指導に関する番組が収められている。
 当館ではこれまでもガイダンスでビデオ上映を 行っていたが、今回、 VODを導入してみて、次の ことを長所として感じた。
 まず、情報の内容と、 伝達の方法との相性の良さである。というのも、 大学図書館には多様な資料と利用形態があるが、 それを VODでは利用の各場面ごとの短編映像とし て提供できるので、そのとき利用者が必要とする 情報だけを、ごく短時間で視聴してもらえるとい う点がたいへん実用的である。言うなればノンリ ニアに展開している図書館サービスの内容を伝え るのには、ノンリニアなメディアが適していると いうわけである。
 これは第2に、番組を制作する 上での負担の軽減につながる。もしこれらの番組 が全部で1本につながった長編であったら、そこ に起承転結のストーリーをもたせ、観客(学生) を飽かせることなく、多くの情報を上手に理解さ せる脚本・演出というのは至難であろう。3〜5 分で1テーマを理解させるのなら、淡々と場面の 流れを説明すれば十分だし、修辞的な演出は少な い方が VOD向きでもある。各々の番組を別々に作 ることができ、ある番組だけを後でさし替えるこ とも容易で、この点ではCD-ROMよりも気楽なメデ ィアと言える(逆にいえば、感動というものを伝 えるには不向きなメディアであろう)。
 第3に利 用指導の機会が飛躍的に増大する。本システムの クライアントは、館内各所に分散配置されており 、学生はロビーの壁に埋めた40インチモニタやOPACの 隣に置いたパソコンなどで、必要な情報に随時ア クセスできる。ガイダンスでビデオを1度上映す るだけなのに比べ、日常的で効率の高い利用指導 となる。今春のガイダンスでは、当館の大ホール の 200インチビデオプロジェクタ(ILA) で、この VOD とホームページを上映し、「当館ではこのような メディアから必要な情報を自分で獲得していくの だ」という方法のみを説明したのであるが、その 後の利用者の行動を見ると概ね十分な成果があっ たものと思っている。
 実際、この春は新入生を中心に、当館の VODの 人気は非常に高いものがあった。もっとも利用指 導番組よりも、課外活動や入学式などの学内ニュ ース番組の方がより喜ばれている。コンピュータ の画面に自分や友人達が動画で出てくるというの は、たしかに面白く、キャンパス・コミュニケー ションの手段として、とてもインパクトがある。 その一層の活用のためには、現在の閉じたネット ワーク環境での利用から、ストリーミング・ビデ オの技術を用いた開かれた利用環境へと、できる だけ速やかに移行していきたいと考えている。

3.マルチメディア・ワークショップの設置

 当館では閲覧室の一角に、マルチメディア・ワ ークショップと称して、12台のAVブースと22台の パソコンを設置し、AV資料や電子出版物、ネット ワークなどを自由に利用できるようにした。書架 や閲覧席との仕切りのないコーナーであり、図書 館資料と新しいメディアが渾然一体となった学習 環境として提供することで、学生が知的興味のお もむくままに、様々なメディアを紡いでいけるよ うな図書館にしていきたいと考えたのである。コ ーナーの一部にはスキャナ、MIDIキーボード、ビ デオ編集機なども用意している。パソコンのうち 5台は DVDプレーヤを備え、前述の VODのクライ アント機能を持ち、インターネットも使えるとい う、いわゆるマルチメディアPCになっている。
 このほか館内の閲覧席には、114口の情報コン セントを設け、利用者がノートブック・パソコン を接続すれば、IPアドレスを自動発行してインタ ーネットを利用できるようになっている。当館の ホームページでは、学外の情報リソースへのリン ク集の充実にも力を入れているつもりである。
 このような試みを通じて、学生達が、多様なメ ディア・リテラシーを体得しつつ、自ら調べ学ん でいくことの楽しさを感じることのできるような 図書館づくりをしていきたいと思っている。



VODについてのニュースと解説 (総合情報センター"CenterNEWS"1997.4月号)


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