3.LANの仕組み

1)LANの出現

 1980年代以降、ワークステーションやパソコンなどの情報機器が、小型で安く、高性能 なものとなっていき、ユーザ1人で1台を所有するような状況になってきた。大型コンピ ュータの歴史と同様、最初はスタンドアロン型であったものが、互いをネットワークで結 ぶことによって様々な機能が発揮できるようになっていった。LAN(Local Area Net- work=構内情報ネットワーク)の出現である。
 LANは、ある建物や区域内において、ユーザ自身が敷設し管理するコンピュータ・ネ ットワークのことであるが、単純な配線でネットワーク上のどの機器とも通信でき、管理 も容易でありながら、多量のデータを高速かつ誤りなく通信できることなどを特長として いる。また、初期には一つのベンダ(vendor=メーカ)がコンピュータから周辺機器まで の全てを提供するシングル・ベンダであったものが、それぞれに特色あるメーカが多彩な 周辺機器を提供し、これらを組み合わせてネットワーク化可能なマルチ・ベンダの状況へ と進んできている。

[図7-2]

 図7.2は、LANの概念的な構成図である。パソコンやワークステーション、磁気ディス クや光ディスクなどのメモリーやファイル装置、プリンタ、そしてゲートウェイまたはル ータといわれる他のネットワークとの出入口となる機能などが、基本的には1本のケーブ ルによって接続されている。大型汎用コンピュータや、スーパーコンピュータも、ここで はパソコンと同じ資格のもとでつなぎこまれることとなる。これらの、LANに接続され たコンピュータを全てホスト・コンピュータという。(ホストというと、大型汎用コンピ ュータのことが思い浮かぶが、ネットワーク上で働くコンピュータは、パソコンも含め全 てホスト・コンピュータと呼ばれる。)
 このようなLANの仕組みを使うと、LANに接続されたユーザ間では、1対1や、1 対多数による電子メールの交換(電子会議や電子掲示板を含む)が容易に行える。また、 各ユーザの作成した文書を特定のワークステーションに共同で蓄積し、これを文書データ ベースとして利用するとか、ワークステーションに表計算ソフトなどの応用ソフトを搭載 しておき、他のワークステーションやパソコンは必要な時だけそのソフトをとり出してき て利用するということもでき、経費の節約になる。(ただし、このソフトはLAN上で共 同利用するという前提での購入契約が必要である。)
 この場合のワークステーションのように、ネットワークに対してあるサービスを行うも のをサーバ(server=奉仕者)、要求を出す側のパソコンやワークステーションをクライ アント(client=依頼者)と呼び、その形態はクライアント・サーバ・モデルといわれる 。オートチェンジャ式のCD−ROMプレイヤを接続すればCD−ROMサーバとなり、 大容量のデータベース装置として共用できるといった具合で、このような情報資源や機器 の共有化はLANの大きなメリットである15) 。

2)LANの方式

 LANの伝送路となるケーブルには、同軸ケーブル、光ファイバ、ツイストペアケーブ ル(電話線のような細い2本の撚線)などが用いられ、伝送路の形態(トポロジという) には、バス型(母線型)、リング型、スター型などがある。また、データ(パケット)の 送出方式(伝送路へのアクセス方式)には、伝送路の上に早く出たものから送る方式、順 番を待ってから送る方式、通信量に応じて特定の通信チャネルを割り当てて送る方式など がある。これらのアクセス方式や伝送路のトポロジの組み合わせによって、LANには幾 つかの方式がある16) 。

1 イーサネット(Ethernet)

 現在、広く普及しているのは、1970年代のはじめに開発されたイーサネット(Ethernet) 方式である。
 イーサネットでは、1本のバス(母線)となる同軸ケーブルを張り、その途中の各所に トランシーバと呼ぶ接点を設け、端末を接続する。端末から発信されたパケットは搬送波 (carrier)に乗って、バスの上を送られていく。バス上に他のパケットがなければ無事に 届くし、万一、他のパケットと衝突してしまったら、もう一度パケットを送り直すまでで ある。(図7.3)

[図7-3]

 これを少し詳しく見ると、イーサネットのそれぞれの端末では、 1まずバス上に、他の パケットを送っている搬送波があるかないかを感知(sense)する。 2搬送波がなければ、 複数の端末が勝手にパケットを送ろうとする(multipul access)。 3もし、パケットの衝 突(collision) が検出(detection)された場合には、乱数によって決定される一定の時間 を待ってからアクセスをやり直すのである。ゆえにこの方式には、搬送波感知多重アクセ ス/衝突検出(CSMA/CD:Carrier Sense Multipul Access/Collision Detection) 方式という長い名前がついているが、その意味を考えて覚えればイーサネットの原理はわ かりやすい17) 。
 イーサネットに用いられる1本の同軸ケーブルは最大 500mまでで、この単位をセグメ ント(segment)と呼ぶ。1つのセグメントに接続できるステーション数は最大 100台まで だが、セグメントどうしを接続する装置によって、より大きなLANにすることができる 。あまり多数の端末を接続するとパケットの衝突が増大して送信効率が落ちるため、複数 のセグメントにまたがる必要のないパケットは遮断する装置なども用いられ、全体の構成 も複雑なものとなってくる。イーサネットの伝送速度は1秒間に10メガ(100 万)ビット で、これを10Mbps(bits par second)と表記する。
 ちなみに、8ビットで英数字1文字を表現することができ、これが1バイト(byte)であ る。つまり 100万ビットは12万5,000 バイトなので、10Mbps とは1秒間に英数字12万 5,000 字(かな漢字なら6万2,500 字)を伝送できる能力ということになる。 bpsという 単位はネットワークの伝送能力を説明する上での重要な単位である。

2 トークン・リング(Token Ring)

[図7-4]  CSMA/CDの早い者勝ち方式に対して、順番待ち方式とでも言うべきものが、トー クン・パッシング方式である。これはリング型に張った伝送路上を、トークンと呼ぶ制御 専用のパケットが常時巡回しており、このトークンを受け取ったパケットだけが伝送路上 に出ることができるというものである。トークンはつまり電子的な通行手形というべきも ので、トークンが別のパケットを持っている場合には、もう一周待ち、トークンが手空き になってからこれを獲得する。回転している観覧車に乗り込もうとして、先客があるとき は、先客が別の場所で降りるまで遠慮するわけである。ちなみにトークンとは、遊戯施設 などで用いられる代用硬貨−Token coinからきたという18) 。(図7.4)
この方式をツイストペアケーブルで行うのが、IBMのトークン・リング方式で、伝送 速度が4Mbps と16Mbps のものがある19) 。

3 FDDI(Fiber Distributed Data Interface)

 トークン・パッシング方式を、リング型に結んだ光ファイバによって行うのが、FDD I(Fiber Distributed Data Interface)である。FDDIは 100Mbps という非常に高速 の伝送能力を持つ。これはマルチメディアの伝送、例えばカラー動画像の伝送などには不 可欠なものでもある。ステーション間隔は最大2kmと長大なLANが構築でき、ケーブル が二重化(主リングと副リングの2本のリングで構成)されているため、信頼性も高い。 このため、FDDIは、イーサネットやトークンリングなどのLANを統合するような、 バックボーンLANとして使われることが多い。

 実際のLANにおいては、これらのトポロジやアクセス方式は混在して用いられること が多い。

 例えば、建物の中を上下に貫通する幹線LANはFDDIとし、各フロアごとに 中継装置を設けて、そこから支線LANをイーサネットで延伸させるといった方法である 。各フロアでは、太い同軸ケーブルや光ファイバをひき回すのが不便なので、集線装置( ハブとかコンセントレータと呼ばれる装置がある)によって、ツイストペアケーブルをス ター型に端末に接続する場合も多い20) 。(図7.5)
[図7-5]

 キャンパスにLANが導入されることになり、 光ファイバの敷設工事が始まったので、いよいよ自分のデスクにも光通信時代が来るかと 楽しみに待っていると、何だか頼りない電話線のような線がつながれるだけで、拍子ぬけ したりするのはこのためである。
 このように、一つの機関が構築しているLANの内部構造は複雑だが、全体としては一 つの自律的なシステムとして完結しており、LAN管理者によって管理されている。 LANと外部のネットワークとの接点となるのが、ゲートウェイ、あるいはルータと呼 ばれるもので、これが他のLANとの間でパケットをやり取りする中継機の役割を果たす 。ゲートウェイ、あるいはルータは、LANのユーザが、WAN(Wide Area Network)の 世界へ飛び出していくための大事な仕組みである。ゲートウェイ(gateway)は互換性のな いネットワーク間でデータを転送する装置、ルータ(router=経路制御装置)は同じプロ トコルを使用しているネットワーク間でデータを転送する特化された装置のことであるが 、しばしば同義語のように用いられる21) 。以下の説明では、ルータという用語に統一し て述べる。