2.イメージへのアクセス

 まぁ、こんな話しはここらへんにして、つぎ に、第2章として、こういう映像情報を取り扱 うライブラリーとか、データベースのあり方を めぐりまして、幾つかの興味深い試みを、急ぎ 足で見て参りたいと思います。

TP15/
 視聴覚資料データベース
 ・AV−PUB(日本視聴覚教育協会)
 ・映像音響資料データベース(放送教育開発センター)
 ・AV−ONLINE(NICEM)
 劇映画情報データベース
 ・ぴあシネマクラブ
 ・Magill's survey of cinema

 現在、私達が利用できる視聴覚資料のデータ ベースとしては、日本では、日本視聴覚教育協 会の「AV−PUB」とか、放送教育開発セン ターの「映像音響資料データベース」などがあ りますし、アメリカですと、全米メディア教材 情報センターが提供している「AV−ONLI NE」というのがあります。これはDIALO Gで利用できます。
 その他にも例えば、劇映画のデータベースと いうのがありまして、日本では「ぴあシネマク ラブ」、アメリカでは「マーギルズ・サーベイ ・オブ・シネマ」などがオンラインやCD−R OMの形で使えます。
 しかし今日は、目録法の講義ではありません から、もう少し、映像イメージというものをダ イレクトに扱ったデータベースというのを見て いきたいと思います。
 そういったイメージ・データベースというも のへのアクセスの方法を考えてみますと、まず 一つには分類によるアクセスというのが考えら れるわけです。

TP16/ICONCLASS

 画像分類の面白い例に、ICONCLASS があります。
 ヨーロッパの美術館などで使われている絵画 の主題別分類ですが、例えばここでは古代神話 のそれぞれの場面や登場人物などの意味あいを 合成して記号で表現しているワケでして、この 場面なら「91E72」という分類番号で、「 水がひいた後、デウカリオンとピュラの箱舟が 山頂に漂い着いた」という状況が表現されてい るという、すごい分類表です。これを使いこな せるようになるには、かなりの美術史的素養が 必要だそうですが、日本などでは、ちょっとこ れに匹敵するような、画像分類法というのは、 見当たりませんね。

スチルビデオ2/コマーシャルフォト(33)

 現在、広告代理店などが、コマーシャル用の 写真イメージにアクセスするのには、余りシャ レた方法があるわけではありません。
 この業界では、代理店ごとに、得意な分野と いうのが決まってまして、例えばファションと か、自然とか、スポーツとか、航空写真とか、 そういうイメージの写真が欲しい、というと、 まず、店を選ぶわけです。
 そしてその店に行って、写真をめくって映像 を選ぶんですけど、コマーシャル・フォトなん て雑誌を買いますと時々そういうライブラリー のディレクトリとか、こんなふうなストック・ フォトの一覧が別冊でついて来ます。
 これで例えば、外国の街角のイメージが欲し いとか、夫婦のイメージが欲しい、女性のイメ ージが欲しい、などというふうに選ぶことがで きるわけです。
 よく皆さんの家に、不動産広告のチラシなん かが入ったりすると思いますが、あぁいうのに 使われているイメージ写真というのは、実は、 わざわざ撮影したものではなくて、こんなふう な代理店のストックの中から、適当に選んでそ れを使わせてもらってるわけです。勿論、有料 で。ここらへんが、イメージの時代の、一つの カラクリであるわけですね。

スチルビデオ3/MAIHIT(5)

 これは毎日新聞社の写真ライブラリーで用い られているMAIHITという写真検索システ ムですが、フリーキーワードで保存写真の検索 ができるものです。
 このシステムのいいところは、検索した写真 のイメージがディスプレイの上に表示されて、 そのまま、プリントもできるというものです。
 普通紙に白黒でコピーしたのが出てくるだけ ですが、かなり鮮明でして、ニーズにあったも のかどうか評価するには、充分なクオリティー です。
 もちろん、これを何かの出版物に使うような 場合は、ネガを貸し出してもらうわけで、それ は昔ながらのファイリングキャビネットに収ま っていて、人間が取り出すわけです。

ビデオ3/NHKデータ情報部

 つぎに、NHKデータ情報部の映像検索シス テムについて、NHKが放映した番組のビデオ で見て頂こうと思います。
 これはニュースに使った映像素材を、別の機 会に再利用するような場合などを特に念頭に入 れたものですけど、アナウンサーが読むニュー ス原稿がそのままキーワードになるという、シ ソーラスのないフリーキーワード方式の実際が よくおわかりになると思います。このキーワー ドの抽出ソフトはハピネスを使っています。

ビデオ4/金沢工業大学ライブラリーセンター

 今のNHKのシステムでは、テープは倉庫み たいな所に保存されていて、人間がそれを取り に行っていたわけですけど、もっと自動化され た方法を実現して、世間をあっといわせたのが 、金沢工業大学のライブラリーセンターでした 。

 ここが出来たのは、もう10年近く前になる んですけど、このビデオを見て、当時の私は大 変びっくりいたしまして、金沢まで飛んでいっ て見せてもらいました。
 で、確かにロボットがこうやって走り回る様 子というのは、大変面白かったんですが、この 装置だけで3億円ほどかかったんだそうです。
 で、それにもびっくりして、いくらなんでも ちょっと勿体ないんじゃないかって、案内して くれた方に言ったんです。
 そうしたら、その人が、まあ、そうだけど、 こういう北陸の小さな大学にとっては、これは 宣伝費なんですよ、といわれました。
 しかし私は、3億円を資料費に使ったら、も っと充実したライブラリーができるんじゃない かと思って、いやぁ宣伝費にしたって勿体ない とかブツブツ言ってたら、その人に、「だって 現にあなた、コレ見にきたんでしょ」と、言わ れてしまいました。

TP17/映像サマリー概念図

 ところで映像情報が、利用目的にあってるか どうかを確かめるには、どうしても中身を見な くちゃいけないんですけど、本みたいに頁をパ ラパラめくって、ざっと内容を確認するという のは、映像の場合、なかなか難しいところがあ ります。
 放送教育開発センターでは、映像データベー スの補助システムとして、「映像サマリー」と いう、要するに映像の抄録システムを開発して います。
 この図がその概念図ですが、こんなふうに、 ある一定の長さを持った番組について、それぞ れのカットが変わったところだけを、1コマづ つ、レーザーディスクに静止画像でとりこんで いくという方法です。
 それを、いちいち人間が操作するんではなく て、機械が自動的にそういう作業をやってしま うところが目新しいんですね。
 実際には、番組のカットが変わった瞬間から 0.5秒あたりのところで、自動的に静止画像 のとりこみができるんですが、実はそれほど難 しい仕掛けがあるわけではありません。

ビデオ5/映像サマリー

 ちょっとこのビデオで見て頂きたいと思いま すが、これはどこにでもあるビデオの調整シス テムで、こういう機械には、必ずこういう、計 器がついています。ウェーブフォーム・モニタ ーといって要するにビデオ信号の強弱を図って るんですが、こうやって再生画像と一緒に見て ると、当然、ビデオ映像と信号の強さが、同じ になっている。カメラが首を振ると、メーター も首を振るというのがおわかりでしょうか。
 そこで、このメーターを、録画システムに連 動させてやれば、画面のカットがかわる都度、 その映像を静止画で記録するということが、割 合、簡単にできるんですね。
 例えば、この場面で、はい、今画面がかわっ た、というところで画像を1枚とりこみます。
 はい、変わった。また変わった。
 という、こんな具合に、長い番組を静止画の 連続で記録してやることによって、映像サマリ ーというものが自動的に完成する仕組みです。
 こうすることによって、その番組を全部の長 さ見なくても、だいたいどんな内容かがわかっ てしまうわけです。
 まぁ1本や2本の番組が相手でしたらここま で必要ないのかもしれませんが、一度に百本く らいの番組の中から、使えそうなのを1本選び たい、というような時には、非常に有効な方法 になり得るというのは、おわかり頂けると思い ます。

スチルビデオ4/ART MUSEUM(15)

 映像そのものによる検索というのを更におし 進めた方法としまして、通産省電子技術総合研 究所で開発した、電子美術館「ART MUSEUM」が ご紹介できると思います。
 これは、画像をデジタル解析してコンピュー タに記憶させて、そのデータを、さまざまなイ メージから検索するという方法です。
 これは画像の形や色を、さまざまな要素に分 解して、その特性を記憶させておくもので、い ろんな印象語によって検索したりもできるんで すけれど、面白いのは、ラフスケッチによる検 索方法です。
 この例をみますと、利用者は、自分の記憶だ と確かこんなふうに木が2本立ってる感じの絵 があった筈だけどなぁ、というのを、こういう ラフスケッチで描いてやるわけですね。
 すると、コンピュータはこのスケッチと構図 似ている絵を探しに行きます。
 その検索結果がこれだというんですが、確か にこの絵なんかは、探していたイメージが得ら れた、ということになると思います。しかし、 図形エレメントが似ているだけで検索してきま すから、何だかヘンなのも一緒に探してきてし まいます。これなんか、スケッチとは似ても似 つかない絵ですけど、コンピュータはよく似た 絵だと思ってるわでして、やっぱコンピュータ というのは、あんまり頭はよくないんだなぁと いうのが判ります。

 この章の最後に、イメージ・データベースと いっても、ちょっと毛色のちがった例を見て頂 こうと思います。
 それは1980年代、わが国のビール業界に 実際に起きたことです。
 最初におことわりしておきますが、私は大の ビール党ですが、アサヒ、サッポロ、キリンを 毎晩交代で1本づつ、愛飲しておりまして、こ の3社のビールはみんな大好きです。そういう 前提でお聞き願いたいと思います。
 1982年に、それまで住友銀行の副頭取で あった村井勉がアサヒビールの社長として乗り 込みました。村井社長は、抜本的な経営改革を 行って、アサヒのマーケット・ビジョン−企業 イメージというものを非常に鮮明なものにして いきました。
 そこでまあ、詳細は省きますが、アサヒの様 々な積極策によって、それまでキリンビールの 寡占状況であったビールメーカーのイメージシ ェアに、劇的な変化が起こりました。
 そういう消費者の心の中に占めるイメージの 大きを計る方法として、「マインド・シェア」 という手法があります。これをコンピュータ・ グラフィックで追跡した論文をご紹介したいと 思います。いわゆる心の中のイメージの大きさ を計る方法というのがあるんだというお話しと して聞いて頂ければ幸いです。

TP18/ドライビールのイメージシェア 1

 この平面が、消費者の心の全体の大きさ、そ してそれぞれの山の大きさが、各ビールメーカ ーがそこに占めるイメージの大きさを表してい ると思って下さい。
 1983年、キリンビールは、名実ともに、 最も消費者に信頼され、消費者の心の中に大き な位置を占めています。一方、アサヒビールは サッポロ、サントリーとも水をあけられて、消 費者の関心の外にあります。

TP19/ 2

 85年、キリンとサントリーが、中心部分で 激しく戦っています。

TP20/ 3

 86年、サントリーはキリンに蹴落とされ、 キリンの一人勝ちです。

TP21/ 4

 しかし87年、それまでの村井改革が次第に 効果をあげ、アサヒはジワリと動き出します。

TP22/ 5

 そして、運命の88年、アサヒスーパードラ イの爆発的ヒットによって、アサヒのイメージ シェアは、他社を大きく切り離し、キリンは地 を這うことになるわけです。

TP23/ 6

 またこの年、各社の起用したタレントのイメ ージ競合状態について見てみると、アサヒが採 用した落合信彦と、サントリーのマイクタイソ ンが高いシェアを占める一方、サッポロが採用 した広岡達郎、キリンの採用したジーン・ハッ クマンは、ほとんど影がうすいこともわかりま す。

TP24/ 7

 アサヒが、スーパー・ドライと最もフィット するタレント探しが行った時、利用したのは、 タレント500人のイメージ・データベースだ ったそうで、世の中には色んなデータベースが あるものだと感心しちゃうんですけど、それに よると、スーパードライに最もフィットしたタ レントは坂本龍一、2位が落合信彦でした。
 つまり、本当はアサヒは、坂本龍一を、スー パードライのタレントに使いたかったわけで、 落合信彦は次善の策であったわけですね。
 何故、坂本龍一が、スーパードライのCMを 蹴ったのかは私は知りませんが、出ていればマ イクタイソンには勝てたかもしれません。まぁ 実際に殴りあえば負けちゃうでしょうけど。
 それと繰り返して申し上げますが、私は、ア サヒ、サッポロ、キリンの各ビールを毎日1本 づつ交代に、公平に愛しております。どれも大 好きです。
 で、なぜ、そう申し上げるかというと、今日 のご参加者名簿を拝見すると、アサヒ、サッポ ロ、キリンの各社の資料室の方がおみえでして 、ブレインテックさんのユーザーさんというの は大変ひろがりがあるんだなぁと感心してるよ うな次第なんですが。【会場爆笑】