5.これからのAVライブラリアンへの要請

 1)メディア・リテラシーの習得

 以上に述べたような特性は、いずれも図書・文献メディアと比較した場合の際立っ た性質であるが、ほかにも著作の集団性、複製・頒布と興行性の問題など、着目すべ き特性は少なくない。映像メディア、あるいはマルチメディアを本当に使いこなそう とするならば、このようなメディア特性の理解と映像言語力を習得することに、つと めて意識的であらねばならないだろう。
 近年、映像メディアの世界的ネットワークの発達と影響力の増大にともない、その メッセージにたいする意識的かつクリティカルな洞察力を養って、メディアとのあい だに能動的な関係を築くことができるような「メディア・リテラシー」の重要性が指 摘されるようになった18) 。ここにおいて視聴覚教育も、メディアによる教育という 側面と、メディアについての教育という両側面をあわせもったカテゴリーとして改め てその意義が認識されはじめているのであるが、私たち大学図書館員にとっても、さ まざまなメディアの特性を理解し、その長所を活かし短所を補いながら、新しい図書 館サービスとして構築できるような高度のリテラシーが求められているのだと考えた い19) 。
 視聴覚資料を的確に評価する眼力を身につけ、良い資料は貪欲に収集して活発な利 用に供するという当たり前の仕事の積み重ねによっても、マイナーだが良質な企画が 成立し再生産が促されるような有機的マーケットとしての存在意義が発揮できること だろう。各館の視聴覚担当者が連帯し、視聴覚資料のレビューや活用のノウハウを交 換するなどのことは非常に有意義なことだと思われる。

2)マルチメディア図書館の創造

 マルチメディアは、コンピュータのディジタル世界に、映像メディアのアナログ性 (信号レベルではディジタル変換されるが、コミュニケーションレベルでは映像は常 にアナログである)の良い部分をとりこみ、文字・数字の表現だけでは困難な直観的 把握や推論を助け、人間に優しいメディアにしていこうというものだと言える。その 意味でこれからの図書館サービスに導入されることへの期待は大きいが、図書と視聴 覚資料を有機的に結びつけるということは、なにもそれをコンピュータのディスプレ イの中だけで恰好良く駆使できなければいけないということではない。
 「スニーカー・ネットワーク」という言葉がある。高価で複雑なLANを張り巡ら すよりも、スニーカーを履いた人間がフロッピーを持って走り回った方が実際の役に 立つというほどの半分冗談だが、図書館のマルチメディア環境というのは、あるテー マを求め、あるときは本で、あるときは写真やビデオで、あるときはコンピュータや 実物標本で、などというように、人間のほうが図書館内を走り回ることによって実現 できることがたくさんある。利用者がメディアの壁を越えて、知的興味をワクワクと 膨らませていけるような、そして発見のよろこびに歓声をあげることのできるような 、楽しいマルチメディア・ワンダーランドの仕掛けを創造していきたいものである。

3)学術情報支援サービスのとしての統合的把握

 大学でも、工学や医学をはじめとする自然科学系や芸術系などの分野では、研究開 発の手法あるいは対象そのものとして、あるいは記録と発表、実技教育等の場面で、 視聴覚メディアは活発に利用されてきた。近年は学術情報の電子化も急速に進み、い ずれの大学においてもその対応や学生のリテラシー教育の必要に迫られている。こう した研究教育場面におけるメディア利用への直接的な支援業務と、メディアによる個 別学習を図書館内でサービスすることとは、しばしば別の仕事のように考えられがち で、実際にも幾つかの学内機関がこれらを分業している状況である。
 しかし大学教育を教育工学的にも有効に変革していこうとするならば、これらは広 い意味での教育コミュニケーション体系−学術情報支援サービスのなかで統合的に把 握されていくべきであり、図書館はメディア・センター化されなければならない。担 当者にはメディア・スペシャリストとしての新しい専門的資質と技能が要請され、資 料の組織化や利用環境の整備にあたるだけでなく、教育と学習の現場の実情を個々の パーソナリティーのレベルまでよく知る大学スタッフとして、関係者の先頭に立って 人や資源をコーディネイトしていくような働きが求められてくるだろう。
 このような大学の組織と業務の再構築には多くの手間と投資が必要であり、現状の 大学図書館のスタッフ・施設・予算の水準は、速やかに見直されなければならない。 ただ図書館の中からの運動では種々の制約を突破できないというのであれば、当面は 図書館と別の機関との分業状態のなかで改善を進め、遠からず統合化を図るというよ うな現実的戦略はやむを得ないであろう。