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10 近年のネパール映画の状況と課題



▲クエスト・エンタテイメント(Quest Entertament)社が導入したシリコン・イメージ(Silicon Image)社製のディジタル・シネマキャメラ、SI2K

2006年に包括和平協定が締結されて以降、ネパールの政情の安定化にともない、ネパール映画界の復興は急である。

2006年、カトマンズのブラニルカンタ寺の近くに、新しい映画撮影用の屋内スタジオが民間資本で建設され、これまで国内唯一の映画スタジオだったNFDC(Nepal Film Development Company Limited)のスタジオとともに、連日ネパール映画が撮影され、活況を呈している。

2005年以降、幾つかの新しい映画祭・映画賞が制定された。FDBは2005年からネパール政府国家映画賞(Nepali Government National Film Award)を制定し、2008年の第2回からは奨励金(アヌダン)も交付された。2007年以降、ネパール映画ジャーナリスト協会(NFJA)によるネパール映画祭(Nepali Film Festival)と短編映画祭(Nepal Short Film Festa)、映画技術者協会によるネパール・フィルム・アワード(Nepal Film Award)なども制定された。

映画監督・俳優のニル・シャハが創設した「カレッジ・オブ・フィルム・スタディーズ」(College of film studies)は、2004年に国立トリュビュバン大学の系列校の資格を取得し、卒業生はBFS(Bachelor of Film Studies)という学士号(映画)を取得できるようになった。これは、南アジアでは初めての映画大学の誕生である。その後、同校の運営はオスカー国際大学(Oscar International College:OIC)に譲渡され、2007年からOICのキャンパスで新たなスタートをきった。

カトマンズ市内アナマンガルに本部を置く「少数民族映画アーカイブ」(Indigenous Film Archive:IFA)は、ネパール国際少数民族映画祭(Nepal International Indigenous Film Festival:NIIFF)の開催を通じて世界の少数民族に関する映像を収集し、そのネットワークを拡げて世界的な少数民族文化の保護と発展につなげようとしている。ワークショップを開いて少数民族の若者達に映像コンテンツの製作方法を指導し、自らの村や民族にカメラを向けることで、他者(他民族)への想像力、愛情と共生の想いも育成していこうという高邁な理念を実践している。

カトマンズの高級映画館、ジャイ・ネパールとクマリホールを経営する、クエスト・エンタテイメント(Quest Entertainment)社は、映画製作事業に乗り出し、シリコン・イメージ(Silicon Image)社製のディジタル・シネマキャメラ、SI2Kを購入して、ネパール初のディジタル・シネマ“Kagbeni”(カグベニ:土地の名、ブシャン・ダハール監督)を製作し、2008年3月に公開した。同社のディジタル・シネマはその後も連続して製作されており、系列館(ジャイ・ネパールとクマリホール)に次々とラインナップされている。

このように、新しいスタジオの完成、新たな映画祭・映画賞の制定、新たな映画学部の開設、少数民族アーカイブの活動、ディジタル・シネマへの挑戦などの多様な取り組みが、ここ数年一斉に開始されている。公開される劇映画の製作も復調し、2009年度のネパール映画の製作本数は50本以上に達する見込みである。

ネパール映画の新しい世代の担い手たちには、世界的な視野を備えつつ、自国の現実に根ざしたあらたな映画表現への意欲が充満しており、ネパール映画の飛躍のためのエネルギーが着実に蓄積されているように観察される。