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6 映画館と観客の意識



▲カトマンズ最大のシネマ・コンプレックス「ゴピ・クリシュナホール」.8スクリーン、2,715席がある.

(a)映画館

2000年のFDB発足時、ネパール国内で映画館としての営業許可を得ていたのは、フィルム上映館323、ビデオ上映館(ハイビジョン・ホール)53の計376館であった。その後の国内情勢の混乱から、館数の減少が続き、2008年5月現在の映画館数(スクリーン数)は、フィルム202、ビデオ50の計252館(スクリーン)である。フィルム上映館の総座席数は約9万5千席と推計される。

現在のネパールの映画館の平均入場料が50ルピー前後(48.5ルピー)、約90円程度であることからすると、全国の映画館の窓口売上の年間総額は、おおよそ10〜16億ルピー(約18〜29億円)前後という推計が成り立つ(調査時点の実質レートで換算)。

2000年以降のネパールの政治的混乱は地方ほどその影響は大きく、農村にマオイストが跳梁したことで、村を捨てカトマンズや国外へ逃れた人々も多かった。2000年から2008年にかけて、特に地方部で映画館は急減したが、地方の人々にとって映画は貴重な娯楽であり、映画館がなくなることを惜しむ声は多い。

(b)観客の意識

本研究がカトマンズの市民172名に対して行った調査によれば、回答者は、平均して、テレビを1日約3時間視聴し、映画館に月約1.8回行く。また、ビデオテープやVCD、DVDで、週に約2.5本の映画をビデオ観賞する。

これらの回答者に、「ネパール映画と外国映画のどちらをより好むか?」と訊ねたところ、ネパール映画よりも外国映画を好むという人が66.6%、ネパール映画を好むという人は26.5%であった。つぎに、「ネパール映画と外国映画のどちらが質が高いと思うか?」と訊ねたところ、外国映画のほうが質が高いと考える人が94.2%、ネパール映画のほうが質が高いと考える人は3.8%という結果であり、外国映画への志向が強かった。しかし同時に、「ネパール映画はネパール人にとって必要なメディアと思うか?」という質問に対しては、「必要」と答えた人が89.0%、「必要ではない」と答えた人は5.5%にとどまった。

現在のネパール映画は、その観客から、かつてほど無条件に支持されているわけではないが、いかに稚拙で貧しい映画であったとしても、自らの社会に自らの言葉で自らを映しだした映画を失うことはできないという思いは今も共有されているものと考えられる。

総じてカトマンズの映画観客は、平素から多くの映像情報に接触して映像メディアを十分理解しており、国際的な水準の中でのネパール映画の位置づけについても客観的な尺度を持っていると考えられた。