はじめに

 視聴覚的方法の目的

 利用者教育に視聴覚的な方法を使う目的には、大きく2つの側面 がある。
 第一に、提示物を拡大したり、実際の経験の代理とさせるなどの 働きによって、説明をより分かり易いものにしたい、聴衆の注意を 集中させたい、できればその感性にまで訴えて利用の動機づけを行 いたいといった、メディアの特性に期待する面。
 第二は、あらかじめ準備した番組の上映などによって、同じナレ ーションをまちがいなく再生し、演者による説明のバラつきをなく したり、比較的短時間のうちに要領よく一定の情報を伝えたいとい うような、利用者教育のプログラム化を図ろうとする面である。ビ デオのようにパッケージ化されたものであれば、館内の一角でいつ でも再生できるような装置を置くとか、講義時間の一部で上映して もらうなどの方法によって、利用者教育の機会を増大することにも 有効である。
 視聴覚的方法は受け手の感性に訴える力が強い。が、見せれば終 わりというのではなく、必ず印刷物や口頭の説明を加え、理性的な 定着を図ることを忘れてはならない。例えば貸出の方法を説明しよ うとするとき、映像で利用者の一連の行動を追ったあと、印刷物で 手続きのフローチャートを理解させるなど、具象と抽象とが補いあ った確実な知識として獲得されるよう留意する。
 利用者教育のプログラム化は、単に説明の労力を節約する為では なく、館員がそれによって、更に高度な利用者教育を懇切に行うた めの手段として活用されるべきものである。スライドやビデオを使 うこと、それ自体が目的なのではなく、利用者教育のどの段階で、 何をどう伝えるかをよく計画した上で、テーマと手法を選択し、メ ディアを使い分けることが大事である。

 メディアの得失

 例えばOHPは、制作が易しく安価で、明るい部屋でも映写でき、 文字・図表類の拡大提示に適しているが、普通は、演者自身がトラ ンスペアレンシーを手元で操作しながら口頭説明を行うものであっ て、聴衆の理解力にあわせた臨機応変な話術が主体となる。
 これに対してビデオは、動きを含む意味を提示することに適して おり、ナレーションや音楽をともなったパッケージとしての完成度 の高さによって、強い現実感と訴求力を持っているが、その制作に は相応の機材と技術を要する。モニターテレビは大人数の視聴は一 台では難しく、ビデオプロジェクターは拡大率が高くなるにつれて 画像が粗くなり、細かな文字・図表類の提示には不向きである。
 スライドは、普通の写真カメラで安価に制作できるし、映写順序 の編集・差し換えも容易である。実景と文字・図表類の画面とを交 互に提示するのにも適しており、静止画表現による定着の効果も高 い。ナレーションのテープに同調して映写することもあるし、画面 にあわせて、口頭説明を加えることもでき、比較的応用がきく。
 このようにそれぞれの得失を理解して、例えば、端末の操作方法 など、細かな動作や流れをもったものはビデオで説明してみたいが、 収蔵冊数や開館日のような年々変わるデータはOHPの方がよい、 といったような使い分け方を検討する。説明会場での演出や使用機 材などによる上演効果を予測し、制作期間、スタッフの技量・人数、 予算などの前提条件を整えた上でメディアを選択するのでないと、 視聴覚的方法はアイデア倒れになりやすい。

 テーマと手法の選択

 スライドやビデオ番組を自主製作する場合、図書館のさまざまな 要素をすべて盛り込もうとして、ナレーションが過剰で内容の散漫 なものが出来上がることがある。映像番組を人間が集中して見るこ とができるのは、普通15〜20分位がひとつの区切りとされているが、 1分間に語ることのできるナレーションは、400 字詰め原稿用紙で 1枚弱であるから、結局13〜18枚程度の原稿で図書館の何もかもを 説明し尽くそうとするのは、無理な話ということになる。
 館内の配置や設備を見せたいのか、資料の検索方法や利用の手続 きを流れとして理解させたいのか、参考業務の活用を印象づけたい のか、などを吟味して焦点を絞る。異なるテーマを取り上げたい場 合、例えば30分の番組を1本作るより、15分のものを2本作ったほ うが、利用者教育の場に生かしやすい。脚本作りでは余計な装飾を 排除し、速やかに核心部分に達し、主とするテーマを深く丁寧に解 説する時間を大切にすべきである。これを忘れて、キャンパス風景 や図書館の外観などのカットを延々と重ねていくのは、丁寧な紹介 のつもりでも、観客にとっては退屈なものとなる。
 また例えば、ひとりの主人公が登場し、図書館での体験をドラマ 仕立てで見せるといった手法と、無人称のカメラが徘徊して、画面 の外からナレーションがかぶるという手法とは、制作の手間や、メ ッセージの効果が自ずと異なる。ドラマ風は制作意欲をそそるが、 演出や出演者に演劇的素養がないと陳腐なものになる。とはいえ館 内各所を見せて「ここは○○です」というだけのことでは、作るの は楽でも、印象に薄い。受け手に何がしかの感銘を与えるには、テ ーマや手法に新鮮さや発見などがひと工夫欲しいわけで、何らかの 冒険や破綻も効果的なことがある。
 ある大学図書館の利用案内ビデオの主人公は何と‘石’(に目鼻 をつけた操り人形)で、“彼女”が目録カードと対話しながら、そ の使い方を学習していくというものであったが、ガイダンスでの上 映は爆笑のうちにも成功をおさめたという。Camical Abstracts Servise 制作の“Searching CA,or KAZ vs.the Gypsy Moth ”とい う無国籍語による園芸家と蛾のアニメーションなども忘れ難い。 ひとつの行き方として、図書館そのものを見せるほかに、一見図 書館の説明ではないような事例の中に図書館の価値や役割を印象づ けるようなテーマを選ぶこともできるのでないか。企業の広告など でも、ただ商品名を連呼する例は少ないように、図書館が舞台では ない図書館のアピールという方法論も考えられるのではないかと思 う。
視聴覚メディアの自作は、一定の演出・技術力がともなわないと 自己満足なものに陥り易く、劣悪な画質や音質を長時間視聴するの は苦痛ですらある。必ず試写会を行い、第三者からのフィードバッ クを得て、観客の鑑賞に耐える水準のものにしなければならない。  勿論予算が許せば、プロに対してスライドやビデオ製作を外注し、 所期の目的を十二分に達成することが期待できる。とは言え、下手 ななりにも懸命に利用指導にとり組んでいるという熱意が伝わって、 図書館員への親近感や信頼を生むということもあり得る。外注を行 うにしても、多少は自作の経験をふまえてからの方が、制作の要点 をおさえることができる筈である。
 ここでは図書館員が自ら、OHP用トランスペアレンシー、スラ イド、ビデオを製作しようとする場合、とくに初心者があらかじめ 注意すべきポイントについて概説する。何度かの失敗の経験を積ん で、次第に利用者教育に実効ある方法と技術を習得されることを願 うものである。