初出:視聴覚資料研究 Vol.1,No.1 (1989.10) p.11

AVブースからハイパー・ブースへ

〜変わりゆくメディアと図書館像〜



伊藤敏朗




●AVブースという言葉も,やっと認知されては きたけれど,これからは「メディアブース」「ハ イパーブース」と呼ばれるものが,図書館に並ぶ 時代になりそうだ.当面は,AV&CD−ROM ブースなどという名称かもしれないが.

●これまでに存在した電子的なメディアは,すべ てハイパーメディアの過渡的な姿である・・電話も テレクッスも,テレビもパソコンも・・.ハイパー (hyper)とは「越えるもの」という意味・・アメリ カでは,スーパーマーケットより規模の大きい店 をハイパーマーケットという・・その意味でいうと ハイパーメディアとは,「超メディア」というこ とになるが・・ハイパーメディアのハイパーの由縁 は,すべてのメディアを統合するということで, 機能的にはすべての情報を同じように処理できる ということだ( 浜野保樹:ハイパーメディアギャラクシー,福武書店,1988).
 M.I.T.では、コンピュータに代表される電子メ ディアを,いかに人間が使い易いものにするか研 究している・・コンピュータをあらゆる情報の窓口 として利用するシステムを開発している(NHK ;メディアは教育を変えるか 1,ETV8,1989.5.8 放映) ・・例会でも上映したこの番組に登場するハ イパーメディアのイメージは強烈だった.ディス プレイの文字情報の中に,挿絵のような形で小さ な窓が幾つも開き,動画や静止画像が次々に現れ る.あらゆる情報源をジェットコースターのよう に駆け抜ける,目まいのような感覚・・.

●今年の教育総合展に,この“ハイパーメディア が出展されていたのを見に行った.パイオニア株 が,マッキントッシュのパソコンとレーザーディ スクを組み合わせ,製品化したもの.
 例えば,ディスプレイの上で動物学の本を読み 進んでゆき,ある動物名の文字をマウスでピック アップすると,レーザーディスクがリモコンされ て,その映像を見られるというような仕組みであ る.操作の方法によっては数種類の動物の「餌を 捕る場面」だけとか「走る場面」だけ,次々に呼 び出して比較することもできる.番組を頭から通 して見るだけから,自分が参画し,編集しなおし, 考え学ぶという水準に踏み込んでいる.
 素朴な印象だが,ソフト作りは大変な労力だと 思う.学習者の多岐にわたる問題意識を先どりし ながら,素材を準備し,興味を繋いでいくストー リーテリングのセンスも多いに問われそうだ.制 作者は「誰でも作れますヨ」とおっしゃるが・・
 「それにしても,1台の装置であらゆる疑問に 応えられるものではないでしょう.図書館として は,これを学習の入口で使ってもらって,これ以 上詳しく知りたければ,あの本棚のこの本を読み なさい,とアドバイスしてくれるようなシステム だと良いのですが」「あぁ,それもできますよ, ホラ」そう言ってキーボードを叩くと,本棚の映 像が現れ参考図書が背表紙を見せて並んでいる. 図書館員が,この本棚に自館の蔵書を並べるなど の加工もできる.これには感動した.
 「例えば利用者に,個人用のICカードを渡し ておいて,それをパソコンにかけると最初は空っ ぽの本棚の映像が現れる.図書館で本を借りると その本の背表紙が,この本棚に並んでいくという 貸出システムは作れませんか?」「面白そうです ね.できると思いますよ」アイデアは尽きない.

●図書館にハイパーブースが並んでいる.利用者 はそこで,ひとつのモニター画面のなかに,ひと つのキーワードを投げ込むだけで,あらゆる辞書 ・事典その他もろもろのCD−ROMやら,オン ラインサービスのほか,関連するあらゆる映像・ 音声情報を呼び出すことができる.一方,利用者 の個人用ICカードには,メディアブースでキャ ッチしたこれらの電子情報の断片を,自分の抱く テーマにそって再編集した,自分だけの「電子ス クラップノート」が次第に完成されていく.そし て図書館員はその学習プログラムを洗練するプロ ンプター(隠れた台本読み)といった職能になる ・・そんなイメージが沸いてくる.
 考えてみれば,今の図書館の電算化というのは 管理の為のシステムであって,利用者側の発想で はないところがある.情報・コンピュータ・AV ・・これらが,真に『ユーザーフレンドリー』なも のになっていくために,図書館員もいろいろ知恵 を絞っていきたいものである.



清水保人:『ニュ−メディアと図書館〜視聴覚資料の提供を中心に〜』
上記伊藤論文をもとにしながら,執筆当時, 教育研究情報センター職員であった 清水保人氏がまとめた1990年度研修報告書



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