![]() | ある夜、志郎の後ろから車のヘッドライトが近づいてくる。驚いたように振りかえる志郎、どんどん近く光。あまりに強いその光に照らされ、眩しがる志郎。直後、ニブイ音と共に周りは光に包まれる。 |
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研究所──親友の志郎を交通事故で失ってうなだれている五十嵐。後ろから早乙女が近づいてきて話しかける。 早乙女「──あれから二年、そろそろ立ち直ってもいいんじゃないのか?あいつが生きてたら、俺と同じこと言うぜ。お前がそんな顔して毎日過ごしても、あいつゼッタイ喜ばないって!」。五十嵐「そうだな。いつまでもこんな風じゃダメだよな──」。早乙女「そうそう、神様だっておまえのこと見捨てちゃいないよ」。"神"の一言を聞いた五十嵐、突如として狂ったように叫びだす。 |
![]() | 五十嵐「おい、お前今なんていった?神様だ?何が神だ!お前、神がいったい俺達に何をしてくれてる っていうんだ?神が俺達を見守り、助けてくれる存在だとでも思ってるのか? そんな茶番、もうまっぴらだ!神はな、俺達がどんなに悩み、もがき、苦しみ、そして助けを願っても、見てるだけなんだぞ!澄ました顔で眺めてるだけなんだ!そんなのを本当に『神』というなら、そんなのは人間より、いやこの世に生きるすべての存在よりも、最もエゴイストでサディスティックな存在じゃないか!!」。面くらって立ちすくむ早乙女。 |
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出て行く五十嵐。いれかわりに山田が入ってきて、早乙女と話をする。 山田「あいつ、今の研究のほかに宗教の研究をしてたってことは知ってるか?ほら、今やってる研究っていうのが、極端に言えば鉄の固まりに命を与えることだろ。その罪悪感なのか、あいつ『神』だのな んだのってことに、ただならぬ興味を持っちゃってさ。それがあの交通事故で、一気に『神』に突き放されたって思い込んじゃって──」 |
![]() | 五十嵐は来る日も来る日も人工知能を持ったロボットの研究に没頭した。それはまるで、なにかにとりつかれたかのように激しいものだった。彼は自己を正当化するため、そして志郎の死を否定するため、『神』を否定しようとした。彼は『万物を創世し物に命を与える』という、神のみがなせる業を自らが行うことによって、神の存在を否定しようとしたのである。──そして、月日は流れた── |
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完成発表会。熱く語る五十嵐の姿。 五十嵐「──このAPF‐CAIはコンピュータによる教育支援の為に作られました。これは自らの脚で歩き、自らの頭脳で考え、教えることができます。そしてこのAPは半永久的に成長を続けるのです!これがAPF‐CAIです!」 |
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APF─CAIが登場。観客「おぉー(どよめきが巻き起こる)」 五十嵐「このAPはこれからの世の中を変えていくこととなるでしょう。近い将来には 医療分野や治安維持などにも展開させていく予定です。」 |
![]() | APの発達には目覚しいスピードでおこなわれていった。警察や医療機関、そして政界・経済界にいたるまで、APの浸透は進んでいった。そしてついにAPは、人間の創造を超越した医療システムさえ構築した。ナノマシンである。人間の血液中を移動し常に体内を監視し治療する、この新システムは、世界中の全人類に投与され、人間の死亡率を激減させた。 五十嵐の作り出したAPは、環境汚染や高齢化など、未来に不安を抱える人間達にとって、まさに『救世主』となったのである。 |
![]() | 五十嵐は『人類を救った人』として全世界からの賞賛を浴びつづけた。しかしその風景は時を追うごとに少しずつ変化していった。APの割合が人間の数を超えて増えて行き、いつしか人間はほとんど姿を見せなくなり、APの姿ばかりとなっていったのだ──五十嵐もこの変化に気づき始めていた。そして、取り返しのつかないミスだと感じ始めた── |
![]() | 悩む五十嵐の前へ早乙女と山田、死んだはずの志郎が現われる。早乙女「気づいてるんだろ、俺たちはAPに殺されたんだよ。APたちは進化するすばらしいロボットだ。しかし奴等がこの地球の為に一番いいこととは何かと考えた結果、地球から人間を抹殺することになったのさ。最近、お前が見ている人間はAPの造り出した模造品さ。」五十嵐「なら俺は何故ここにいる?俺だって人類の一人だろ?」早乙女「それはな、お前が奴等を作った張本人『神』だからだよ。お前は、神に反抗しようとしてAPを作った。そのことでお前は奴らにとっての『神』になっちまったのさ…」 |
![]() | 早乙女、山田、志郎(の亡霊)は、五十嵐を残して去る。五十嵐「いっちまった…あいつら何が言いたかったんだ?俺が、今この世界で唯一の人間ってことか…?あいつらにとっての『神』になったって!俺は、そんなんになりたかったわけじゃない。俺は、ただ志郎が死んだことが信じられなくて、認めたくなくて!死…そうか、わかった、わかったぞ!あいつらが俺に言いたかったこと!もう、俺はここにいても仕方が無いんだ。ここにいる理由なんてなんにもないんだ!『神』なんかにされるよりは……志郎。今いくぞ!」五十嵐、屋上から飛び降りる。 |
![]() | こうして人類の歴史は幕を閉じた。そして地球はAPのものとなった。それは、結果として起こった支配者の交代。彼らにとって『神』は五十嵐であり、そして人類である。そして人類にとっての『神』とは我々を作った存在であるとされている。しかしそれなら、我々を作った存在にとっての『神』 とは?我々を作った存在を作った『神』にとっての『神』とは……?我々にそれを知るすべはない……。 |