東京情報大学 学術フロンティア・ニューズレター
第2号

Mar. 2001
Vol.1, No.2

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INDEX
niversity of Information Sciences
研究成果に期待(松田 藤四郎)

小田 稔学長の急なご逝去を悼む(渡邉 正)
学術フロンティア計画の成果を大学院改革に生かす(桂 敬一)
「アジアの環境・文化と情報に関する総合研究」と東京情報大学(渡邉 正)
MODIS受信に期待する(高木 幹雄)

・各プロジェクト活動報告

 -静岡 アジア・大平洋学術フォーラム「アジアの統治システム」に参加(一言)
 -第一回フロンティア・セミナー
 -プロジェクト2各グループの活動と今後の予定(原)
 -東アジアの水田原風景を訪ねて中国を駆け巡る(根本)
 -地球環境情報システムの構築について(小泉・須崎)
 -第二回フロンティア・セミナー
 -MODIS Science Team 年次報告会に参加して(須崎)

活動経過
新着図書案内
フロンティア棟竣工
フロンティアと「星の王子さま」(田子島 一郎





−巻頭言−

研究成果に期待

学校法人 東京農業大学 理事長
東京農業大学 国際食料情報学部 教授

松田 藤四郎


  東京情報大学は昭和63年4月に学校法人東京農業大学によって設立された。二十一世紀の国際 化・高度情報化社会の到来に貢献する人材の養成を教育目的に、そして進歩をつづける先端情報技 術を駆使して地球及び人類が直面する諸問題の解決を研究目的にしている。歴史の浅い大学ではあ るが、大学院前期、後期課程を設置し、教授陣も充実して、研究体制の整備が進められてきた。   
  大学院が充実するころ、文部省のハイテクリサーチセンター整備事業が平成8年度に、学術フロ ンティア推進事業が平成9年度から始まったので、小田稔学長が早速チャレンジし、年次は違うが 両方とも幸いにも採択となった。学術フロンティアは平成12年度の採択であるが、そのプロジェ クト名は「アジアの環境・文化と情報に関する総合研究」である。このプロジェクトを推進するた めに3階建ての学術フロンティア共同研究推進センターが建設され、NASAの衛星システム(MODIS) の専用受信施設も初年度に整備を終えた。国際共同研究として、人文科学者、自然科学者を含めて 研究組織がつくられている。 MODISから送られてくる画像を見せてもらったが、多様な生物相や地形等が鮮明に映し出されて いる。このプロジェクトには、東京農業大学の熱帯雨林研究者や海洋研究者も参加している。東京 農業大学は110年の歴史をもつ生物系総合大学であるが、現在ハイテクリサーチセンタープロジェ クトと学術フロンティアプロジェクトが併行して行われている。東京農業大学の学術フロンティア プロジェクト名は「新農法確立のための生物農業等新素材の開発」である。東京情報大学のプロ ジェクトは空からの地球データの解析であるが、東京農業大学のプロジェクトは地べたからのアプ ローチである。陸圏、水圏の研究も最後は人間の足と頭が必要である。地べた屋が見落としがちな 研究成果に期待している。

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-追悼- 小田 稔学長の急なご逝去を悼む 




 


学長代行   渡邉 正(学部長)

 小田 稔学長が、3月1日、心不全で亡くなられた。まことに痛恨の極みである。
 学術フロンティア・ニューズレター“CROSSROADS”創刊号(2000年12月号)に、 小田先生は「巻頭言」を寄稿されている。そこでは、『学術の基礎は、20世紀を支えた物理・化学的世界観から一転して、{複雑系}を基盤とするものとなっていこうとしています。複雑系の典型は一つには、ヒトをはじめとする生物の脳、もう一つは、世界を囲むグ ローバルな環境でしょう。』と大局観を披露し、国内外の研究者と手を結び、国際共同研 究を押し進めていく決意を宣言されている。
 小田先生は、平成6年7月、本学の学長に就任された。そのとき既に、数々の学問上の 賞を文化勲章にいたるまで受賞されている真に稀有な存在であった。天性とも言うべき旺盛な知的好奇心に、ときには天真爛漫さも伴いながら、学問の大先達として、我々教員や 学生たちに学ぶことの愉しさを折りにふれて吹聴されたものである。
 5年前には、先頭に立って学内の研究チームを組織し、全国に先駆け、東京情報大学と しても初の大型プロジェクト「ハイテク・リ サーチ・センター」をスタートさせた。 今年度は、さらにもう一つ、「学術フロンティア共同研究」を開始させ、冒頭に掲げた決意が 表明されたわけである。アジアの経済・社会環境、自然環境、文化の調査研究に基づいて、人 類にとって最大のテーマである「人類存続の条件」を提言するという気宇壮大なものである。 これは、東京情報大学の教員にとって、5年後には先生のご霊前に報告しなくてはならない 『宿題』として遺されたことになる。
 「学術フロンティア共同研究」では、EOS-AM1 に搭載されたMODIS からの画像を、11月18日に初受信することに成功した。その後、毎日受 信される日本列島を含む東アジア一帯の一連の画像をお見せすると、先生は大変ご満悦の様子 であった。そこには、魁となって地球の大気圏外で研究をされてきた先輩としての横顔が垣間 見られた思いがする。一方、楽しみにされていた「学術フロンティア研究棟」は2月28日竣 工したが、これは先生のお目にかけることは、ついに適わなかった。 いつも優しく微笑んでおられた慈父のようなお顔を瞼に想い浮かべながら、心から感謝し、 ご冥福をお祈り申し上げたい。             


小田 稔 学長 主な経歴

1923年札幌市生まれ。
大阪大学物理学部物理学科卒業。
大阪市立大学理工学部助教授、
東京大学原子核研究所助教授、
マサチューセッツ工科大学教授、
東京大学宇宙航空研究所教授、
文部省宇宙科学研究所教授、同所長、
理化学研究所理事長を歴任。
財団法人国際高等研究所所長。
平成6年東京情報大学学長に就任

X線天体観測のためのすだれコリメータを発明し、
これを観測ロケットに搭載してX線源の解明に大きな成果を収めた。
日本のX線天文学を一気に世界最先端に押し上げた功労者。
仁科記念賞、日本学士院賞、恩賜賞、文化功労者、
文化勲章、勲一等瑞宝章など多数授章。

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学術フロンティア計画の成果を大学院改革に生かす
新しい大学院構想をいかに産み落とし、育んでいくか

東京情報大学 大学院研究科委員長


 桂 敬一

学部改革のつぎに待たれる大学院改革  

 本学は1988年、経営情報学部経営学科・情報学科の、2学科のみをもつ大学として 呱々の声をあげた。その後、情報文化学科を増設、さらに 2001年度からは前記2学科を、経営情報学科、環境情報学科、情報システム学科の3学科に再編・ 増設、学部全体では4 学科構成となるとともに、学部名称を「総合情報学部」と改称、文理融合タ イプの、情 報に関する総合的な教育・研究を行う大学へと脱皮した。 これに対して大学院は1992年、学部名に対応、経営情報学研究科として設置され、当 初は経営情報学専攻の修士課程のみの院としてスタートしたが、1999年になると、博士 課程を増設、すでに学部に情報文化学科をもつにいたっていたところから、院全体としても、専攻 内部に「経営」「情報システム」「社会情報」という3系列の、いわば緩やか な複専攻の体制を整えるまでになった。そして今日、学部が総合 情報学部となり、そこ からの大学院進学者の受け入れが想定されるに及んで、大学院はまたそ のあり方につい て思い切った見直し、新しい発想に基づく根本的な改革を迫られている。
 4学科からなる新学部は、学科運営を中心とする基礎的な教育への従事を求められる。 そうした日常的な実務に追われる現実は、学科別縦割り体制を強め、文理融合型の総合的な情報に 関する教育・研究の実現といった理念を、ともすれば見失わせがちだ。これに対して大学院 は、たとえば文系1・理系1の2専攻、あるいはこれに文理混合型の1専攻 を付け加えた3専攻など、専攻体制を明確に整え、修士・博士合計 5年の「総合情報学研 究科」として改組、生まれ変わることができるなら、そうした総合的な 研究に重きを置いた大学院教育の次元で新学部の理念を受け止め、その路線を発展させていく 大学としての姿勢を、学内外により鮮明にうち 出していくことができるであろう。
 新大学院は、学部のどの学科に属する学生に対しても平等に向かい合い、その出身学 科がどうであれ、彼らを等しく、新たなトランスディシプ リナリティを重視した文理融 合的で総合的な大学院での情報研究へと、導いていける。大学院教 育を受け持つ教員も、そのような研究・教育を大学院で実践するのはもちろん、日ごろの学部教育 のなかで、優秀な学部学生に大学院進学への意欲を持たせるような影響力を及ぼしていく存在とな らなければならない。そのような関係を通じて、新学部の誕生を大学全体の改革、リニューアルへ と発展させていく役割が、いま大学院に求められており、そのための大学院改革が必要になってい る、といえるのだと思う。 そして、このタイミングに際会して、大学院所管の共同研究プロジェクト、学術フロンティ ア計画が2000年を初年度とする5か年の研究計画として発足したのだ。この計画は それ自体、独自の研究課題に即した固有の成果を挙げるべ く完遂されなければならない が、私たちはまた、この計画を素材とも触媒ともし、そこから 発見・体得するところと なる研究諸課題、研究体制・方法、研究成果などを、新大学院づく りに生かしていくチャンスに恵まれることとなった、ともいえるのである。

学術フロンティア計画の課題の戦略的意義  

 本学のフロンティア計画は、研究プロジェクト名としては「アジアの環境・文化と情報に 関する総合研究」と冠されている。 キー・ワードは「アジア」「環境」「文化」「情報」であるが、まだ本学のなかで、これらの言 葉の意味が、バラバラにしか捉えられていないきらいがあり、それではフロンティア計画の本 学大学院改革、大学リニュー アルにとっての重要な戦略的な意義の理解が、全学でじゅうぶ んに共有されるにはい たってないのではないか、とするうらみが残る。 すなわち、「アジアは自分の専門や研究に関係ない」「環境は自然環境保護のことだ ろう」「文化は表象文化を問題とするのだろうから、社会 科学的な関心からはちょっと外れる」「情報は、理系的な情報技術(IT)の問題が主たる研究課 題だろう」というよ うな、各人各様の了解がまかり通っているだけで、それらを、現代という 時代の状況を 総合的に捉えるコンテキストのなかで、すべて結びつけて研究対象としていくと いう共 通の問題意識が、まだ教員スタッフのあいだに確立されてない感じがするのだ。 そうした状態は、フロンティア計画が登場する前においてそうであり、計画が目の前に現れたあとで も、ただちにそれが自分の研究関心に切実なものとしてクロスするなどとは考えられない、と する雰囲気となって、今日まで尾を引いてきているように思える。 だが、それでよいのだろうか。それではいけないし、もうそのような状態 に止まるのでは、上記のような大学院改革、大学再生の成就もおぼつかない―だからフロン ティア計画がいま必要なものとして出現し、それを全学で推進する必要も生じている、といえ るのではないか。

 「アジア」は開発・情報化の全球化のなかで枢要な地域となっているのは事実だが、 その重要性は、地域研究的な文脈のなかだけに存するものではない。アジアはいまや、 欧米近代主義の社会発展モデル・開発普及モデルを実地に見直 し、先進工業国本位のグローバリゼーションを再検討する場としての地位を体現している。そ うしたつながりのなかで「環境」に関しては、生態系の保全など自然環境の保護と両立可能な産 業開発、 経済近代化、社会建設など、社会環境のあり方が多くの重要な検討課題として浮かび 上 がる。このような相互連関的なクライテリアのもとでは、「文化」はいうまでもなく、 先進工業国・開発途上国を問わない、望ましい政治文化の追求を最重要の課題とする。

「情報」は、本学の場合、多様な理工学的な研究関心を集める課題であるが、それらは、上記 のような文脈に置いてみるならば、自然・社会両面での有効な環境政策や、政 治的民主化政策、公共的な情報・メディア政策、多元主義的 な文化政策、国境を越えた市民運動、などの確立や発展を促す情報収集、データ交換、ネットワークの形成・運営などを実現する情報シ ステムの開発やそのための技術開発、人材育成の任を負えるものとなることを、とくに強 く求められているというべきではないだろうか。工学系大学とは異なる、本学独自の情報 技術研究の戦略的方針の確立が必要とされている、と表現す ることもできよう。  このような教育・研究の実践こそ、まさに本学の使命ではないか。そして、そこに浮か び上がる諸課題を総合的に把握し、それら全体の有機的な連関を保ちながら固有の研 究課題との専門的な取り組みも進める、自覚的なコラボレーションを実現することが、新しい 大学院、総合情報学研究科を成り立たせることになるのではないだろうか。フロンティア の実践はこのようにして新大学院の誕生に具体的に貢献するものとなり得るのである。

独立型・連合型などの新しい大学院のビジョン

 本学の学術フロンティア計画は、フロンティア研究棟、「学術フロンティア共同研究推 進センター」を研究施設として誕生させた。また、この共同研究は、研究プロジェクト名 にふさわしく、アジアの環境と産業・経済・政治・社会・文化に関する国際的な共同研 究の成果と、その成果を生み出すために開発・利用された情報技術・システムを、この施設内 に残すため、フロンティア計画終了後、この施設は本学固有の、いわば「アジア環境情報 総合研究センター」とも呼べるような恒久的な研究所となる可能性がある。こうした新た な条件の出現は、大学院を、これまでの学部を基礎にそのうえに設置するという、いわば 「2階型」の大学院としてのあり方だけから解き放ち、独立型、または連合型、あるいは両 者を折衷したタイプの、新しい大学院の誕生へと導く可能性をも、伴っている。 もちろん、新しい総合情報学研究科がまず第一に、本学学 部学生の進学を受け入れ先となるのは当然である。だが、新研究所を拠点とする新大学院 を、学部を持たない独立のかたちでもう一つ設置、アジアの政治・社会・文化・産業・経済と 環境・情報との関係を研究しようとする国内外どの大学の学部学生をも受け入れることのでき る大学院とするのである。あるいは、この大学 院を本学だけで完結してつくるのでなく、他大学の大学院で同じような専攻を設けているとこ ろと協力、それぞれが特徴を出し合い、一つの連合型の大学院を共同してつくっていくことも 考えられる。また、このような新種の 大学院を、従来型の大学院と別につくるのでなく、そのなかの複専攻の一つを独立専攻とし、それを 核にして、実質的に独立型あるいは連合型の大学院をつくる、という方法も考えられる。

 現在、このように大学院が先行して大きな特徴をうち出し、大学院大学となる道を選ぶ 政策が、私学も含め、多くの大学で進められている。学部も含めた大学全体の個性を世間 に向かって強く示していく―そのためには大学院の特徴を大きくみせていくことが 大学の生き残りにつながる、とする共通の理解がそこにはある。本学も、歴史が浅く、 小規模の大学とはいえ、立たされている大学を取り巻く客観的な状況に違いはないのだ から、そのような道の選択が可能となるような条件を、いまから準備していくことも、 重要な課題となるはずである。
 連合型大学院の実現を想定するとき、本学姉妹校、東京農大の学部・学科構成や、大学 院研究科の構成、ならびに新研究科設置の可能性に思いをいたせば、そこには本学新 大学院が協力を当てにできる大きな条件があることがわかる。農大としても、本学がフロン ティア計画の成果を生かして新大学院の体制強化を果たすなら、それとの連合にメリット を見出すのではないか。また、独立型あるいは連合型大学院をつくるとき、千葉県内所在 の他大学と協力していくことも、じゅうぶん可能である。フロンティア計画の 成否は、そうした未来の大学院づくりにも、大きく関わってくるのである。

開かれた大学と大学院の未来を模索する

 将来の総合情報学研究科や新しい独立型・連合型の大学院は、アカデミックな研究者の 有効な養成機関としての役割だけでなく、これからは、高度な専門職能を身につけた 学生を社会に送り出す教育・訓練機関としての役割も、大きく期待され ることになるだろう。また、社会人が専門的職業教育訓練が受けら れるリカレント・コースや、一定の 専門的職業経歴を持つ職能者に学位を与えたり、企業 内の指定国内留学コースを設けたりするなど、社会人のためのミッド・キャリアー・システム を設けることも、これからの大学院にとっては重要な課題となる。 さらに、アジアの社会・文化や環境・情報の研究も、国際的な研究や、大 規模な研究 だけをやればいいものではない。それらは、アジア的日本、関東近郊、千葉のコミュ ニ ティーにも役立つものとして、進められなければならない。河川・沼沢の保護政策、産業廃 棄物と環境保護、生活圏の拡大と生態系の変化、千葉の里山と野生生物の実態調査などなど、身 近なところの問題に取り組み、地域住民の関心に答えられるようにしてい く研究姿勢を確立することが求められよう。  また、情報システム・技術の開発研究も、国際的な大企業における最先端の研究成果 を追い求めるだけでなく、地元中小事業者や農業従事者、NPO・NGO、市民運動家などのために役立つ ことも念頭に置いて、進めていく必要がある。そうした研究の推進に当たっては、地元企業関 係者をパートナーとする産学協同にも、積極的に取り組むことが 望まれよう。 そしてまた、上記いずれの場合も、そのような状況のなかで具 体的に役立つような人材を育成し、世間に送り出していくことが求められている。  要するに、これからの大学は、その機能的特徴においては全国に情報発信する個性を持たね ばならないが、地に着いた存在としては、コミュニティー・カレッジとしてのあり方・役割 を重視していく必要があり、とくに後者の意味において大役割を重視していく必要があり、と くに後者の意味において大学は、地域に開かれた存在となることを、重要な課題するように なっている。

 以上のような政策的な課題に系統的に応えるのは、学部教育の遂行レベルでは到底、 実行不能であり、明確な政策的自覚、戦略的方針に基づいて改革された大学院こそが行い得る もの、担うべきものである。フロンティア計画は、大学院を広い職業・職能の世界に向かって 社会化するとともに、地域社会・住民に対して身近な問題に気づかせながら、それらの解決を 彼らとともに考えていく場ともしていく、多くの契機を内包している。私たちは、この計画の 達成を通じて、新しい大学づくりのリード役となる大学院の改革に近づいていくのである。
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「アジアの環境・文化と情報に関する総合研究」と東京情報大学

東京情報大学 経営情報学部長 

渡邉 正

 


 本学の大学院経営情報学研究科ならびにハイテクリサーチセンターを研究母体とするプ ロジェクト「アジアの環境・文化と情報に関する総合研究」が、本年度から5ヵ年計画で 発足しました。 文部科学省は、私立大学の中核的研究拠点が国内外の機関と共同で実施する研究プロ ジェクトを支援する「学術フロンティア推進事業」を進めていますが、これはその一つと して選定されたもので、諸々の点から真に意義深いものがあります。  今をさる13年前、高度情報化社会の到来を予測して本学は開学されました。この10年一 昔の間には、情報処理技術の進歩そして通信手段との融合には刮目するものがあり、経済 活動は勿論のこと市民生活・社会一般への浸透ぶりは、当時の予測を遥かに超えてしまい ました。膨大な計算に基づいた経済予測を可能ならしめるようになった結果、一大国の市 況が小国の浮沈にそのまま関わってくるようにもなりました。ジュディ・ウイリアムス女 史を中心とした地雷撲滅運動は、インターネットを駆使して地球的規模に広がり世界の 模範となりました。軍隊によって威圧する政府に対しては、インターネットの言葉による 相互支援と団結が対抗手段にもなっています。
 情報技術の進歩には、諸々の科学技術の進歩と同様、当然、光と陰が伴っています。そ のような“情報の世紀”を迎え、本学では、本年4月から教育・研究のフィールドを再編成 し、「経営情報学科」「環境情報学科」「情報シ
ステム学科」「情報文化学科」の4学科体制に一新し、学部名称も「経営情報学部」から「総 合情報学部」に変更することになっています。情報系の学問は、まさに新しい分野ですから、 文科系・理科系というような分類はできません。むしろ、どの分野とも横断的につながっており、どの入り口からもアプローチすることが望まれている総合的な学問です。
本学開設以来、文系・理系それぞれの教員が個別の専門分野において、研究成果を教育 に学会に、あるいは社会へと還元してきました。しかし、この度の「アジアの環境・文化 と情報に関する総合研究」は、本学教員がそれぞれの立場から参画し大学全体で研究を推 進してゆく統一テーマという意味合いをもっています。
 今日ではかってない程に強く相関せざるを得なくなった自然環境・社会経済環境・情報 環境について、我が国を含む東アジアに焦点を当て、そこで生じる様々な問題点を国内だ けでなくアジアや欧米の研究機関・大学と共同で調査・分析し、将来展望を見通すことを 目標に掲げています。これはまた、アジアに住む人間の歴史・地理を背景にした文化との 関わりを度外視して議論することはできないでしょう。広い意味での「環境と文化」を総 合的に研究することによって、アジア地区から世界に向けて、人類生存の条件を発信する ことにもつながって行くことと思われます。研究テーマとして、また本学の研究者にとっ て真に意義深い所以と言えます。

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MODIS受信に期待する

東京理科大学 基礎工学部教授 

東京大学名誉教授  



高木 幹雄

 

 昨年の11月 18 日より東京情報大学でTerra衛星に搭載されているMODISの受信が 始まったことは、地球環境観測観測衛星のデータ利用の研究に関わる者として誠に喜ば しいく、21世紀に向けた我国における衛星を利用した地球環境研究の新たな展開が可能 になったと非常に期待しております。早速、見せて頂きたかったのですが暇がなく、12 月末の冬休みになってから田子島先生、須崎先生に見せて頂き感激を新たに致しました。 思い起こせば、一昨年の5月か6月に、小田学長と田子島先生にお目に掛かり、MODIS受 信の計画を伺い、昨年3月の国際シンポジウム「人類存続の条件」の際にも、途中経過を お聞きして期待しておりました。小田学長、田子島教授他、関係者の御尽力の賜物と心か らお祝い申上げます。又、新築中の学術フロンティア共同研究推進センターによりこの データを利用した研究が推進されるとのことで、その成果に大いに期待しております。
 Moderate Resolution Imaging Spectroradio-meter (MODIS) を搭載したTerra衛星(太陽高度の関係から主として陸域観測用)は、地球観測衛星EOSシリーズ のEOS-AM1として位置付けられ、昨年12月に打ち上げ予定で、打ち上げが遅れている EOS-PM1として位置付けられるAqua衛星(主として海域観測用)にも搭載されます。MODIS は、NOAAシリーズの衛星と同様に直接放送型で運用され、 NOAAシリーズの衛星も2010年迄は運用されますが、EOS-PMはAquaの後 継機で引継れ、NOAAシリーズのPMは、EOS-PMにシフトする予定です。MODISは、直接放 送型であること、継続性、NOAA衛星のAVHRR
センサ+Seastar衛星のSeaWiFSセンサ+αの機能を持っている36チャンネルで観測す ることから、今後の地球環境モニタリングの中心的なセンサと期待されています。
 昨年の6月末にScotlandのDundee大学で開かれたFourth International Conference on Direct Broadcast of Earth Observation Dataに出席した際にも、NASAは、衛星によって取得されるデータは全てNASAに帰属すると いう方針を転換し、観測データを放送しながら飛行するという直接放送型とすることにし たことを強調し、地球環境の研究を推進するためには、NASAのEOSDISだけでは不十分で、 MODIS開発の中心であるGoddard Space Flight Centerと大学の受信局 Wisconsin、 Oregon、 South Florida、 Hawaiiでネットワークを組み、特定分野の研究と地域的な研究をサポー トする計画です。
 NOAA衛星やGMS(ひまわり)で代表される直接放送型で運用される地球環境観測衛星は、 継続的に運用され、そのデータは、誰でも受信出来、リアルタイムで利用できるという利点があり、地球環境の研究に不可欠であると考え、1980年にNOAA衛星の受信を始め、GMS の受信を行って来た筆者にとって、MODISの受信は、我国の衛星を用いた地球環境の研究のために切望していたものであります。 地球環境の研究に非常に貴重なデータを提供す るMOSISをいち早く受信された東京情報大学が、新しいセンターの機能をフルに活用して、 アジアにおける衛星を利用した地球環境の学術的なセンターとして活躍されることを期待しております。

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各プロジェクト活動報告

第五回静岡 アジア・太平洋学術フォーラム 「アジアの統治システム」に参加

 一言 憲之

 平成12年12月1日(金)〜12月3日(日)の三日間にわたり、静岡市のグランシップを会場 に静岡アジア・太平洋学術フォーラムが開催された。本フォーラムにはプロジェクト1(ア ジアの社会環境と文化に関する研究)グループから3名(一言、小宮山、品田)が参加し、現下 のアジア・太平洋地域研究における社会構造及び文化に関する先行的な研究発表と今後の 一課題に関する議論にふれる機会を得た。
 
五回目にあたる今年の学術フォーラムは、アジアの統治システムをメイン・テーマに、アジア 経済危巌の経験を踏まえた上で、アジア諸国のフォーマルな政治・行政・経済システムの再評価 と、アジア諸国の社会秩序維持に深く関係している宗教、社会慣習、華人ネットワーク等の文化 的背景についての研究発表と多角的・学際的観点からの白熱した議論が展開された。本フォー ラムのコンテンツは次のとおりであった。

第一セッション
「アジアの統治システムにおける文化的背景」(四論文発表)
第二セッション
「アジアの政治・行政・経済システム」新しい アジアの構築に向けて:課題と今後の方向(東 南アジアを中心に)(九論文発表)

 本フォーラムに参加して改めて確認できたことは、アジア諸国のフォーマルな政治・行 政・経済システムの歴史的由来と一筋縄ではいかない驚くべき多様性という重い現実で あった。また、宗教や民族主義、地域主義の多様性と重厚さであった。 西欧偏重の既成概念に基づく「現実」分析や一方的なイデオロギー・政治的理念の押しつ けだけでは問題に肉薄できないことを痛感さ せられたフォーラムでもあった。その一方で、多様な現実を目の前にして新たなフレー ムワークは如何にして可能かと気が遠くなるほど戸惑ったことも付記しておきたい 。

 

第一回フロンティア・セミナー

 第一回フロンティア・セミナーは、平成12年10月3日(火)PM4:OO〜6:30頃までの約二時間 半にわたって東京情報大学視聴覚教室にて開催された。フロンティア研究における学内外の研 究者との交流および意見交換が行われた。
 
第一回は、「北東アジア、特に、中国における経済開発の現状」をテーマに、本学術フロン ティアのメンバーの一人である、一橋大学大学院商学研究科 関 満博教授を講師にお招きして研究会を開催した。
 関 満博教授は、1985年のプラザ合意前後から持ち前のフットワークと現場主義の精神から 精力的に中国各地の現地調査を敢行し、これまで多くの著作を世に出されてきた行動的経済学 者の一人である。その社会的活動は、学会のみならず関係機関や人々に多大の影響を与えてき たし、現在も与えつづけている。参考までに、ここで代表的著作だけをいくつか列挙しておく。

『フルセット型産業構造を超えて』 (第34回エコノミスト賞、1993年、中公新書)
『中国長江下流域の発展戦略』(1995年、新評論)
『空洞化を超えて』(第19回サントリー学芸賞、1997年、日本経済新聞社)
『上海の産業発展と日本企業』(第14回大平正芳記念賞特別賞、1997年、新評論)
などである。

 現下の中国における経済開発は、1978年12月の第十一期第三回中央委員会総会(三中総)の 上納すれば、あとは何を、どこに売るかは自由となり、自ら投じた労働に応じた収入を得るこ とができるようになった。このような状況の下で、80年代に入り深)など香港のバックヤードに位置したエリアでは、香港市場が求める換 金作物を作るようになっていった。個々の農家に現金が入り、しだいに裕福になっていくが、 個々の農家には資金の運用ノウハウは皆無に等しい。そこで、個々の農家は資金の運用を鎮・村 政府に任せる。鎮・村政府はこれらの資金で工場を建設し、香港企業にその建屋を貸す形式を とるようになっていく。もっとも鎮・村政府といえども経営のノウハウ、例えば、原材料の調 達、生産設備の導入、生産計画の立案・執行、経営管理手法等々、を持ち合わせているわけでは ないから基本的に香港企業に管理・運営そのものを委ねざるを得ないことになる。 このような形で展開されていく委託加工が「広東型」委託加工であり、その量的・質的拡大が広 東省を中心とする中国南部の現在の発展パターンを形成してきている点である。当初、労働力には 地域の農民が充てられたが、現在、では出稼ぎの女性を中心に構成されており、労働契約も鎮政府 と労働者の間で結ばれているとのことであった(この労働契約上のいくつかの問題については別 の機会に改めてふれることになろう)
 第二に、都市戸籍と農村戸籍をめぐる問題である。都市戸籍の人間がだいたい25%ぐらい、残 りの75%程度が農村戸籍と言われているが、根本的な構造問題として、住宅、仕事、健康保険、 教育、年金などの福利厚生面が担保されているのは都市戸籍を持っている人々だけで、農村戸 籍の人間にはそれらが保障されていない点にある。移動の自由は、緩和されてきているとは言 え基本的には存在しない。特に、農民には厳しいという問題がある。また、結婚によって生ま れた子供が背負うことになる戸籍の問題や農村戸籍をもっている人間が新たに都市戸籍を得る ための社会的ルールなどがあり、かなり重層的で複雑な社会関係が社会的基層に存在してい
決議によってされた国の改革・開放路線の延長線上にある。現在、「鄭小平なき鄭小平路線」を 歩み、公式文書によれば、「初級段階の社会主義」(社会主義国家であるが、遅れた技術と低い 生産力段階にある社会)と位置づけられている。

  現在行われている改革・開放の戦略は、次のキーワードに集約できよう。
第一に、生産力重視主義(1992年の「南巡講和を想起せよ」、第二に、生産力を高めるための 物質的刺激策としてとられた「請負制」(農家経営請負制、国 有企業経営請負制、省政府財政請負制など)、第三に、潜在的な能力と意欲に左右 される「請負制」導入にともなう不均衡的発展を容認した「先富論」、第四に、急進主義よりは漸 進主義、理念主義より経験主義という戦略思考などがあげられよう。
 このような改革・開放戦略が中国の社会経済に及ぼした変化の特徴は、社会経済全面にわた る流動化、分権化、分散化、多元化の現象である。しかも、流動化、分権化、分散化、多元化 が中国国内のさまざまな地域における自然的・歴史的・社会的条件に大きく制約されながら、 強烈な地域的濃淡を示して進行している点にこそある。中国におけるこのような改革・開放戦 略とその社会経済的帰結についてはプロジェクト1グループが取り組まねばならない今後の研 究課題の一つである。
 関教授の研究会報告の要旨をここで紹介しておく。同氏はこれまで中国の経済開発の最前 線の調査−大連を中心とした中国東北部、長江下流域、広東省を中心とする中国南部、さら に、中国内陸部(重慶・成都)−を通してアジアにおける日本の役割について積極的な発言をさ れてきたが、本研究会における報告は、おおよそ次の二点に集約できるものと思われる。

 第一に、広東省を中心とする中国南部の先行的発展パターンについてである。
人民公社が解体され、それに代わって農家経営の主体は個別農家となった。農民は一定程度を る。戸籍問題の他に、盲流、その後、民工潮と言われるようになった流動的な人々が今後ど のようになっていくのかは、社会秩序の破れや崩壊にも発展しかねない問題を孕んでいる ことにも留意すべきであろう。
 第三に、朝鮮半島問題と結びついた中国東北部、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、日 本をめぐる点にも言及された。朝鮮半島をめぐる緊張が緩和され、やがて雪解けの時を迎 えると仮定すると、ソウル−平壌(ピョンヤン)−新義州(シニジュ)−中国の丹東(タント ン)−藩陽(シェンヤン)〔旧満鉄ルート〕が開かれ、朝鮮半島から北京までが一直線で結ば れることになる。交通インフラの整備と相まって、中国−朝鮮半島−日本の経済・政治関 係ももっと緊密なものになってこよう。

 このような地殻変動を想定すると今後注目すべき所は、日系企業の進出が盛んな大連、中 国最大の重工業地帯である藩陽(シェンヤン)となるであろうと指摘された点である。さら に、韓国は先を見越して既に、中国の丹東(タントン)に韓国工業団地を作っているとも言及 された。長期的な展望と旧来の枠組みにとらわれない柔軟な発想と取り組みが今、求めら れているということであろう。
 関教授の研究会での報告は、多岐にわたると同時にきわめて示唆にとむものであったが、今 後のプロジェクトの展開を考える上で、記録にとどめておく必要があろうと思われる点を中心 に簡単に紹介しておいた。  最後に、研究会での関報告の後、簡単な質疑応答が行われたが、その内容は割愛する。
 経済開発最前線に身を置き、日々刻々と変わりつつ中国、朝鮮半島の動向を注視し続け ている報告には大いなる興奮と知的刺激を受けたと同時に、プロジェクトとして今後取り 組まねばならない課題の多さに戸惑いを覚えたことを付記して第一回フロンティア・セミ ナー開催の報告としたい。

 

プロジェクト2の活動記録

原 慶太郎

 学術フロンティアのプロジェクト2「アジアの自然環境と文化に関する研究」の研究目的 は、ほかの2つのプロジェクトと連携を保ちながら、アジアの自然環境の実態とその文化的背 景、そして、現在抱えている問題点を明らかにして、環境の持続的利用の方途を提示すること にある。全世界の3分の2の人口を抱えるアジアの環境は、ヒマラヤ山脈の標高数千メートル の高地にまで放牧などの人為の影響が現れるなど、その程度の強弱はあるものの、至る所に人 間の影響が及んで成立しているといってよい。 この自然環境の実態を、その地域のもつ地形や気象などのポテンシャルな部分と、それに何 千年もの年月をかけて人間の営為が働いて形成されてきた部分とに分けて整理し、アジアの各 地で繰り広げられてきた持続的な環境利用の在り方を探る。その際、とくに時間・空間的なス ケールに留意して問題点の検討を進めていく。 具体的には、衛星リモートセンシングデータを用いた広域的なスケールと現地調査というマ クロ・ミクロ両面からのアプローチで、特に東アジアの自然環境とそれをとりまく人間の影響 の実態を明らかにすることを目的とする。プロジェクト2は以下の6グループから構成されて いる(研究計画の概要についてはCrossroads No.1参照)。

グループ1(G1):アジア・グリーンベルト
グループ2(G2):水田景観
グループ3(G3):都市膨張
グループ4(G4):半乾燥地における農牧畜 システム
グループ5(G5):大気汚染
グループ6(G6):水圏の生物資源の持続的活用

 ここでは、それぞれのグループが具体的な手法や問題点を共有しながら研究を進めること、さ らには、自然環境が社会や文化の影響を強く受けることを考慮に入れて、プロジェクト1との 連携を図っていく。また、広域的な環境把握や モニタリングではリモートセンシングデータ解析を多用することから、プロジェクト3と の共同研究という研究スタイルをとることになる。初年度にあたる平成12年度は、研究 計画の打ち合わせと、それぞれのグループで基本的文献の収集、予備調査、ならびにシン ポジウム等を行なった。
 
海外への予備調査としては、東京農大の中村武久教授、根本正之教授、江永銘客員研究 員、そして原慶太郎のメンバーで2000年9月8日からそれぞれ10〜14日間の日程 で、中国の上海から浙江省および貴州省、さらに中村教授は雲南省を廻り、農村景観およ び森林植生の調査を実施した(G1,G2)。これに関しては根本教授からの報告を後掲す る。また、2001年3月には、東京農大の蓑茂寿太郎教授が台湾の台北において都市問 題の予備調査(G3)、さらに根本正之教授、江永銘研究員が中国浙江省で調査地の検討 (G2)を行なう予定である。
 
一方G5では、岡本眞一がタイをフィールドにして大気汚染物質の分析を進めている。 さらに3月26−28日の日程で、東京農大の桑原連教授が中心となって同大オホーツク キャンパス(生物産業学部)において、国内外の研究者からなるアジアの水圏の生物資源 に関するシンポジウムを開催する(G6)。当該分野におけるMODIS衛星データの利用 などについても議論される予定である。
 
関連学会の参加としては、2000年11月5−8日の日程で、台北で開催されたアジア リモートセンシング会議(ACRS2000)に原慶太郎が参加し、リモートセンシング データとGISを用いた景観構造解析に関して大学院生の高橋一之と講演すると同時に、 この分野における最新の情報を収集した。
 以上がプロジェクト2の平成12年度の活動報告である。平成13年度は、それぞれの グループで具体的な研究フィールドと問題点を設定して本格的な調査に入るとともに、受
信が始まったMODISデータを利用した解析を進める予定である。
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東アジアの水田原風景を尋ねて中国を駆け巡る

東京農業大学地域環境科学部 

根本正之

 

はじめに

 学術フロンティア計画「アジアの自然環境と文化に関する研究」プロジェクトの水田景観班 は、今後4年間に亘る調査研究フィールドを選定する目的で2000年9月8日より9月20 日までの13日間、浙江省及び貴州省の水田地帯を中心に調査を行った。水田景観班のめざす ところは、東アジアの水田景観構造を人間−自然−文化システムとして捉え、その地域的な特徴や生物多様性の実態を明らか にし、自然環境に調和した持続的な農業形態のあり方を示すことにある。
 調査研究の対象となる水田は、今回訪問した照葉樹林文化圏ではごく普通にみられる景観要 素である。ところでそのうち東アジアの風土的、文化的基層となるものは、耕地整理のすん だ大規模で近代的な農薬と化学肥料づけの水田ではなく、伝統的な形態をいまだに残している 水田においてみいだすことができるであろうと考えた。そこでこのような原風景が残っているであろう谷津田や棚田を中心に調 査が行われた。
 今回は第一回目の調査であり、初めて訪中した原慶太郎教授、姜銘東京農業大学客員研究員 と私の他、浙江省と貴州省の一部地域についてはアジアグリーンベルト班の中村武久東京農業 大学教授も参加された。中国側からは華東師範大学環境研究センター長許世遠教授、雲南省リ モートセンシング研究所王学林高級行程師、上海教育学院陳家昌講師の他、貴州省環境局等から多数の専門家が本調査に参加 した。

浙江省の水田景観

初日に上海の華東師範大学で今回訪中の目的について説明、翌9日より師範大学のマイク ロバスで上海市南部の紹興市と寧波市の水田を視察した。上海から抗州を迂回して寧波に 至る高速道路周辺は低平地の水田地帯で、ジャポニカ種の祖先が栽培されていたとされ る河姆渡遺跡もあり、7000年の稲作の歴史がある。しかし現在この一帯では随所で工 場の進出がみられる他、都市近郊の野菜栽培やマコモの栽培が盛んでおよそ原風景的では なかった。そこで上虞で高速道路からおり、国道104号線を新昌に向け南下した。周辺は 常緑広葉樹林の他、落葉樹や竹林が多い丘陵地である。まず仙岩付近の水田を視察した。
 
最近付近に工場が建設されたため、水の供給が悪くなり貯水池を造成したとのことであっ た。ここでもマコモの栽培とアヒルの飼育がみられた。(写真1)

写真1マコモとアヒル
の子供達
 
 
次に乗州の南西部の丘陵地帯の谷津田を訪れたが、日暮れとなり十分な調査が出来な かった。乗州で一泊し翌10日は新昌から沙溪鎮に向かい、奉化江に沿って寧波に下った。 奉化江流域の対岸には原風景に近い谷津田もいくつかあったが、あいにく近くに橋がな かったので今回は視察を見送った。奉化江の支流域の四明山には蒋介石の旧遺跡がある。
この付近はLithocarpusなどの常緑広葉樹が主体の典型的な照葉樹林帯であり調査研究の候補 地となるような水田もあった。さらに寧波市街から25〜30qまで近づいた勤県の山下村は 今回同行した陳家昌氏の故郷でもあり、このあたりにも候補地となるような谷津田が
点在した。しかしながら今回視察した浙江省紹興市と寧波市の水田はいずれも化学肥料や農薬 を使用している近代的な慣行栽培をベースとした水田耕作であることがわかった。

貴州省カルスト地帯の水田景観

 9月11日寧波から上海に戻り、夕方の便で貴州省の省都貴陽に向かった。 貴陽市の南西50qの清鎮市で一泊する。翌日はカルスト特有の山容に水田がとけこんだ風景 を見ながら安順市経由で黄果鎮までを視察する。このような田園風景は初めての経験だった のでおおいに感激した。(写真2)

写真2 カルストの水田地帯

翌13日は貴陽市役所を表敬訪問し、陳朗新副市長、農業委員長、林業部長、環境局技師ら と面会し、本プロジェクトについて説明し協力を求めた。この席で農業委員長から現在貴州省 においても無農業、無化学肥料で水稲栽培を行っているのは、僻地のごく限られた場所であ るとの情報を得た。午後は市さし向けの車で貴陽市南部花溪区の山上の水田地帯と谷間のプイ 族の谷津田を視察した。道路沿いの法面は赤紫 や白の秋明菊が満開で印象的であった。
 幸い環境局の協力を得ることができ、14日から17日まで中村、原両先生と別れ、姜 銘氏と私は現在も有機農法を行っている瑶族の集落のある洞常村で調査することができ た。環境局の皆様に深く感謝したい。洞常村は貴州省と、その南に接する広西壮族自治区 の境界にある。貴陽から南下して都均に一泊し、さらに南下し独山県を経由して麻尾鎮まで向かい、そこから東に入ってリボ(茘波)で一泊してからジープの乗入れられるところま で行き、あとは徒歩で現地に向かった。
 洞常村の瑶族集落は生態保護区内にあり、現在でも農薬や化学肥料を使う習慣はなく、 今後も使用することはないという。調査した集落は34戸、114人で小学校の分校もあ り、古い家の家主は移り住んで12代目であるとのことであった。住居は周辺の山から切 り出した木材を使用した高床式であった。床下では豚を飼育しており、水田では水稲1期 作で、裏作にアブラナを作付するとのことであった。しかしながら伝統的な栽培法なるが 由、米の収量は400kg/畝(6.67a)と低い。そのため省政府から伝統的農法を続け るためのかなりの援助があるようで、予想していた程貧しくはなかった。1992年には 電気も入り、訪問した瑶の家では老人が孫を守りしながらテレビを見ていた。


写真3 瑶族の集落風景


衛星放送受 信用パラボラアンテナ(写真3)もあり、い ささか興ざめした。洞常村にはまだカルスト地帯の水田原風景が残っていることを確認でき た。伝統的な水田生態系構成する生物の多様性を調査研究できる大変貴重な場所であると考え る。しかし近年になって文化や慣習面でかなりの変化を経験しているものと推測される。

今後の見通し

 私たちは今回、東アジアの水田原風景を求めて稲作伝来の地浙江省と、少数民族が多く中国 でも貧しい省の一つである貴州省を訪問した。その結果、浙江省では近代的な慣行栽培法によ る水田しかみることができなかった。一方、貴州省では最後に今なお伝統的な有機農法を続け ている瑶族の村を尋ねることができた。さて今後の研究の進め方であるが、私は上述のような 現状をふまえ、地形的にも我が国と類似している浙江省寧波の谷津田において地方政府の援助 を仰ぎつつ、谷津田の一部で中国近代化以前の少なくも無農薬による伝統的な栽培を行っても らうことを考えている。今となってはこのような試験区を設定するしかないと思う。そして近 代的慣行農法と伝統的農法を中国の人々と比較検討することで、アジアの自然環境と調和した 持続的な水田農法のあり方について考えていきたい。また洞常村などのかろうじて伝統的な農 法が残っている場所では、それらの農法が忘れさられる前に多くの情報を記録にとめておきた いと考えている。

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地球環境情報システムの構築について

小泉 宣夫、須崎 純一


環境情報システムの研究プロジェクト(プロジェクト3)では、衛星データの受信及び解 析に基づく研究を中心に、情報処理の様々な側面から環境情報解析を支援する研究を行っ ている.今年度は環境情報システムの構築を中心に進めたのでその概要を述べる。
 今年度は、MODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer) センサデータ受信装置の導入、ならびにその運用を開始し、それ と並行して環境情報システムの構築を進めた。本館棟屋上にMODISデータの受信アンテナを設 置し、平成12年11月18日より専用受信局において定常運用を開始した。これにより、東アジ ア地域全域を始め、オホーツク海から中国南西部まで、千葉を中心とする半径約2,300キロの 範囲のデータが受信可能となった。12月6日-8日には、受信システムの設計、開発を行った Global Imaging社(米国カリフォルニア州)の社長自ら、本学にてトレーニングコースを開 き、システムの概要および運用上の諸注意などを説明した。
 11月から開始されたMODISデータの受信は、3月までは本館棟において、受信用計算機に処 理計算機が仮接続されたシステムで行われてきた。この暫定的なシステムは、一定量のデー タが蓄積されると手動で磁気テープに保存していくような運用状態であり、引続き高次処 理アルゴリズムを整備し、本格的な処理システムへの移行を行う予定である。
 一方、学術フロンティア研究推進センターの建設工事が完成を迎えつつあり、3月中には 器材の搬入が完了し、ネットワークを始めとする研究環境も整えられる予定である。その 後は、受信データの検索システムや、受信デー タに関する情報公開システム、学内や学外のデータの所在情報を提供してくれるクリアリン グハウスシステムなども逐次立ち上げられ、一連のMODISデータの受信・処理システムが本格 的に稼動する予定である。その結果、研究に必要なデータのアクセスが容易になり、受信デー タを活用した研究体制も確立されると期待されている。またセンター内には、衛星データアー カイブ室、クリアリングハウス以外にも、数理モデル室、ヒューマンインタフェース系研究 室、地域環境系研究室、社会・文化系研究室等がセンター内に配備される予定である。

 環境情報システムとしては、MODISデータ受信に直接関係する上記のシステムの他に、シス テムに関わる研究に必要な装置も配備された。例えば、セキュリティを確保した環境情報を配 信するためのセキュリティウェブサーバー、環境情報の知能情報処理による情報の体系化をめ ざす研究に用いる知能情報処理サーバー、ヒューマンインタフェース系研究で用いる空間 音響測定装置などである。空間音響測定装置は、人間が音の立体感を感知する構造を,疑似頭を用いて分析・模擬するための装置で、シミュレーション環境で空間音響を実現するため の音響伝達特性を計測するほか、現場録音装置としても用いられる。


写真2:空間音響測定装置の疑似頭部分


写真1:仮稼働しているMODISの受信システム

環境情報の効率的な分析・活用を実現するために、空間音響測定装 置を用いた空間音響情報の研究、広帯域音響情報の研究、ならびに生態系での音響環境の 研究に着手した。

 このように、衛星データの受信・解析と、それ以外のシステム研究や他の研究室が、環境 情報システムにおいて相互に補完する役割を持つよう位置づけられているが,まだ器を整 備しただけの状態である。各々の研究成果は環境情報システム全体に成果をもたらすもの でなければならない.本学や参加諸機関の学際的な特徴を活かしつつ,来年度以降も横断 的な連携関係が益々発展し、有機的な相互のつながりを活用した総合的な環境情報システムが構築されることを期待している。  

 

第二回フロンティア・セミナー開催される

第二回フロンティア・セミナーが、千葉大学工学部 安田嘉純教授を講師にお招きして下記のとおり開催された。

「MODISと学術フロンティア計画」 平成12年12月14日PM4:OO〜6:00

リモートセンシングの歴史と説明のあとで、本学のMODIS受信データと用いて、NOAAの AVHRRデータとの比較や、今後の学術フロンティア計画への応用などについて講演があ り、その後、活発な議論がなされた。
(講演の詳細は本学の研究論集に掲載予定)

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MODIS Science Team年次報告会に参加して

  須崎 純一

 MODIS Science Teamは陸域、海洋、大気の3分野の研究者から構成される。アメリカ、メ リーランド州コロンビアのシェラトンホテルにて、1/22−23日は各分野ごとに1年間の活 動報告を行い、1/24−26日の全体報告会で各分野の総括および全体の活動方針、今後の予定などが報告された。筆者は陸域の報告会である、MODIS Land Team Validation Review Meetingに引き続き、全体報告会にも参加した。会議で印象に残った事柄を記述する。

・精度の高いアルゴリズムの開発の遅れ

 海外のリモートセンシング関連の学会誌に記載された査読付き論文のアルゴリズムを採用し ているものの、生態に関わるパラメータに関してはまだまだ推定精度がよくなく、アルゴリズ ムそのものの開発が研究途上にある段階である。例えば、衛星からは陸域に関しては地表面 の放射・反射輝度のデータから様々なパラメータを推定する。植生の活性度を示す指標である NDVI (Normarized Difference Vegitation Index:正規化植生指数) やEVI (Enhanced Vegitation Index:強調植生指数)、光合成に関わるパラメータであるPAR (Photo synthesis Active Radiation:光合成有効放射量) 、LAI (Leaf Area Index:葉面積指数) などが挙げられる。特にLAIは、例えば森林においては、樹 冠だけでなく地上の下草の影響も加味した3次元空間上の葉の枚数に基づく指数である。しか しMODISは光学センサであり測定電磁波の波長が短く、樹冠での反射・放射データだけしか入 手できず、樹林内部のデータは得られない。そのように本来は3次元データが必要とされるパ ラメータに対して地表面から得られるデータから推定すること自体に結構な無理があるといえ る。そのために有識者の間では、LAIの推定データは信頼性がかなり低いのではないかとか、信 頼して使用できるのは単純に計算が可能なNDVIやEVIのような指標ではないか、などの意見を 聞くことができた。ちなみに、樹林の構造を把握するには、数十cmの波長のマイクロ波を計測 するSAR (Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー) センサのデータを使用する研究が多数見られ、効果的であると報告されている。 このように、MODISデータ単体で各種のプロダクトを生成していくのは大いに限界があるた め、最近注目を集めている、光学センサデータとSARデータを組み合わせるなどのデータフュージョンの技術の進歩により力を注入す べきではないか、というのが筆者の見解である。
 現在情報大で処理しているのはプロダクトに至る前のデータ(レベル1B)までである。本 来はそこから高次処理(レベル2、3、4)を経て各研究者が求めるデータを生成していくの だが、受信装置を購入したGlobal Imaging社からアルゴリズムの整備が完了し次第、特定 のプロダクトに焦点を絞り、時系列のプロダクトを生成していく予定である。

・プロダクトの再処理

 上述のアルゴリズムの確立と大きく関係するが、発展途上のアルゴリズムが公開される とその度にデータを再処理してプロダクトを作り直す。現在情報大で処理しているのはレ ベル1Bまでであるが、大抵のプロダクトはレベル1Bのデータから直接生成されるのではな く、様々なプロダクトの生成を経てようやく目的のプロダクトが得られるという仕組みに なっている。例えば、レベル1Bのデータから、雲マスクが生成され、その結果を利用して大 気のパラメータ(温度や水蒸気量など)が得られ、その後エアロゾルのプロダクト(エアロゾ ルの光学的厚さなど)などが順次推定される流れとなっている。したがって、極端な話では 雲マスクのアルゴリズムが改良されると全てのプロダクトの処理をやり直さなくてはなら ない。このようにプロダクトの再処理は相当時間がかかるものである。アルゴリズムが確 定するまでは常について回る懸案事項であり、再処理用の資源(専用のワークステーション やデータ記憶装置など)も確保しなくてはならず、日々取得されるデータの処理と並行し て、どのように効率的に再処理を行っていくか非常に重要な問題で、多くの研究者が懸念 を示していたのが印象的であった。

・他の衛星データとの併用

 1999年9月、アメリカ・コロラド州のSpace Imaging社により、IKONOS衛星が打上げられた。IKONOS画像の解像度は1mである ため詳細な情報が入手できると地図作成業者などから期待されているが、MODISの研究者 たちにとっては、検証用のデータとしての活用を検討している。MODIS画像は最も高い解 像度でも250mであり、その中間を埋めるためにLandsat ETM+ (Enhanced Thematic Mapper Plus)という30mおよび15mの解像度を有するデータも併用する方向も模索されている。と にかく、高解像度の画像が入手できるようになったことで、検証そのものも効率化、品質 の均一化が図れるようになり、科学的に保証されたデータの提供に目処がつきつつある。

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東京情報大学・学術フロンティアの活動経過

 

1999年11月25日

1999年12月 8日

1999年12月14日

2000年 1月11日

2000年 1月14日 

2000年 4月 3日  

2000年 5月 9日  

2000年 6月 6日 

2000年 7月11日

2000年 9月 9日

2000年 9月26日 

2000年10月3日

2000年11月15日 

2000年11月17日 

         

2000年11月18日

2000年12月14日

          

2000年12月20日

2001年 1月22

      〜26日

2001年 2月 9日

2001年 2月23日

      〜3月3日

2001年 2月28日

2001年 3月 8日

2001年 3月25日

      〜28日

2001年 3月30日

文部省から平成12年度構想調書提出について通知

構想調書作成のための前段階打ち合わせ、作成開始

構想調書作成のための打ち合わせ全体会議

構想調書を学校法人に提出

構想調書を文部省に提出、受理

文部省よりフロンティア認可

第1回学内総括会議(内部研究体制に関する討議)

第2回会議(プロジェクト2、3合同会議、研究方針立案)

第3回会議

フロンティア研究棟地鎮祭・建築開始(次項参照)

プロジェクトリーダー会議(第一回 編集会議)

フロンティア・セミナー 第1回

講師: 一橋大学 関 満博 教授

MODIS受信システム設置工事開始

アンテナ設置工事完了,太陽を基準点として同期を取る調整及び

アンテナ稼動テストが行われた

初の画像受信に成功

フロンティア・セミナー第2回

講師:千葉大学 安田 嘉純 教授

ニューズレター創刊号発行

MODIS Science Team Meeting (Columbia Sheraton Hotel:

Columbia, MD, USA )参加(須崎純一)

プロジェクトリーダー会議

中国・浙江省における経済開発及び情報環境に関する現地調査

(小宮山隆、一言憲之、周セイ魏)

フロンティア研究棟(学術フロンティア共同研究推進センター)竣工

プロジェクトリーダー会議

ワークショップ「アジアの自然環境と文化に関する研究」開催

於:東京農業大学・網走)

ニューズレター2号発行

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新着図書

洋書

DEVELOPMENT AS FREEDOM AMARTYA SEN ANCHOR BOOK

Encyclopedia of Biodiversity.5 Vols 3,100 P. Simon Asher Levin ACADEMIC PRESS

Conducting-Environmental Impact Assessment PASAD MODAK / ASIT K. BISWAS United Nations University Press

Eco-restructuring Rovert U. Ayres / Paul M. Weaver United Nations University Press

The Ordos Plateau of China Hong Jiang United Nations University Press

Trade,Environment and the Millennium Gray P. Sampson / W. Bradnee Chambers United Nations University Press

ETHICS & AGENDA 21 Noel J. Brown / Pierre Quiblier United Nations Environment Programme

Information,Place, and Cyberspace D.G.Janelle / D.C.Hodge Springer

Global Environmernt Outlook 2 EARTHSCAN

Sustainable Development-Success Stories Vol. 4 United Nations

AGENDA 21 RIO DECLRATION / FOREST PRINCIPLES United Nations

REGIONAL COOPERATION ON CLEIMATE CHANGE United Nations

Trade Liberalisation and the Environment United Nations United Nations

The Living Landscape Frederick Steiner McGraw-Hill

LINKING SOCIAL COLOGICAL SYSTEMS Fikret Berkes /Carl Folke /Johan Colding CAMBRIDGE

VEGETTION MAPPING Roy Alexander / Andrew C. Millington WILEY

CULTURAL LANDSCAPES AND ENVIRONMENTAL CHANGE ARNOLD

Spatial Statistics for Remote Sensing Stein,van der Meer / Gorte Kluwer Academic Publishers

Diversity in Auditory Mechanics _ SteeleC.R. World Scientific Pub

Geographical Data Acquisition Yong-Qi Chen / Yuk-Cheung Lee Springer WienNe_WYork _

Plant Resources of South-East Asia CD-R

ECOLOGICAL STEWARDSHIP SEXTON W.T ELSEVIER


和書

海のアジア1‐海のパラタイム 尾本恵一・濱下武志 岩波書店

中国全球化が世界を揺るがす 国分良成 ウエッジ

20世紀の定義9環境と人間 樺山紘一・坂部恵・吉井由吉 2000

中国と日本の神−仏教・道教・儒教・神道 オドン・ヴァレ,佐藤正英 創元社

古代インドの神−パラモン教・原始仏教・ジャイナ教・ヒンドゥー教 , オドン・ヴァレ,佐藤正英 創元社

地球環境問題と企業 山口光恒 岩波書店

人間のための経済学−開発と貧困を考える 西川潤 岩波書店

三満江地域開発 鶴崎雪嶺 関西大学出版部

途上国のクローバリゼーション 大野健一 東洋経済

海のアジア2−モンスーン文化圏 尾本恵一・濱下武志 岩波書店

汚染ゼロヘの挑鞍 本多洋裕 財)省エネルギーセンター

京都議定書の評価と意味 M.グラブ/C.フローレイク 財)省エネルギーセンター

アジアの環境問題 デビット・オコンナー 東洋経済

アソアの環境白書2000/01 淡路剛久・西俊一 東洋経済

アソアの環境問題 環境経済・政策学会 東洋経済

中国の環境保護システム 李志東 東洋経済

環境情報ディスクロージャーと企業戦略 国部克彦・角田季美枝 東洋経済

アメニティと歴史・自然遺産 環境経済・政策学会 東洋経済

インドネシア−揺らぐ群島国家 後藤乾一 早稲田大学出版部

環境経済評価の実務 大野栄治 頚草書房

西洋の支配とアジア1498-1945 左久 梓 藤原書店

中国情報源2000-2001年版 稲垣 清 蒼蒼社

日本企業/中国進出の新時代 関 満博 新評社

中国情報ハンドブック2000年版 稲垣 清 蒼蒼社

経済発展と人口動態 梶原弘和・武田晋一・孟 健軍   頚草書房

白神山地ととに歩む道III  能代山本広域 市町村組合 現代館

沢口のアジア詔識 安川寿之輔 文研

中国進出企業 2001-2002年版 稲垣 清 蒼蒼社

公共事業はどこが間違っているのか? 熊本一規 まな出版企画

国際協力を仕事として 緒方貞子 引生身

アジア型経済システムム 原洋之介 中公新書

海のアジア4−ウォーレシアという世界 尾本恵一・濱下武志 岩波書店

景観用語事典 篠原 修 彰国社

環境と文明 湯浅赴男 新評論

アジア稲作文化と日本 諏訪 雄 雄山閣

農のシステム・農の文化 達生恒 ダイヤモンド社

山に暮らす海に生きる 結城登美雄 無明舎

東京湾の環境問題史 若林敬子 有間

東北学へ1 もうひとつの東北から 赤坂憲雄 作品社

東北学へ2 聞き書き・最上に生きる 赤坂憲雄 作品社

東北学へ3 東北ルネッサンス 赤坂憲雄 作品社

日本の棚田−保全への取組み 中岳峰ム 古今書院

農村アメニティの創造に向けて 出村克彦 大明堂

世界の水田 日本の水田 田渕俊雄 農文協

風土記の考古学一古代人の自然観 辰巳和弘 白水村

日本の気候景観 膏山高義・小川肇 古今書院

白神山地と共に歩む道3 能代山本広域市町村圏組合 現代書館

「田んぼの学校」入学編   宇根豊一 農文協

私たちの田園 岩隈利輝・千賀裕太郎・勝野武彦  集文社  

国際会議・スピーチに必要な英語表現 篠甲義明 日光企画

科学者のための英文手紙文例集一 逢坂昭 講談社

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フロンティア研究棟・学術フロンティア共同研究推進センター 

着工から竣工までの歩み


2000年9月30日


2000年10月26日


2000年11月27日


2000年12月26日




2001年2月1日


2001年2月20日





2001年3月3日

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フロンティアと「星の王子さま」

フロンティア・ニューズレター編集部

田子島 一郎 (プロジェクト総括班代表)

 

 小田稔学長の突然のご他界は、学術フロンティア・プロジェクトを推進しようとする者 にとってこれ以上のものはない極めて大きな衝撃であった。
 小田先生の指導のもとで、大きな夢と努力目標を作り、国際的、学際的な研究体制で昨 年スタートし、研究棟もこの2月末で完成したばかりである。小田先生あってこそのプロ ジェクト発足であったこともあり、一番残念な思いをしておられるのは先生ご自身である ことは間違いない。
 昨年12月23日、病院へうかがい、このニューズレター(CROSSROADS)の創刊号をご覧頂いた時は、最初の手術後の経過もよく、ベッドからご自身で車椅子に移って病室の中 央までこられ、奥様ともどもページをめくりながら、よく出来たとほめていただいた小田 先生のお元気なお顔が目に焼き付いている。
 今年春のバチカンで開催される科学アカデミーでの講演(敬虔なカソリック信者であっ た先生は、唯一の日本人の科学アカデミー会員であった)もあるので、早く足の筋肉を鍛 えねばといわれ、立ち上がって奥様にたしなめられるほどであった。さらに、昨年のバチ カンでの講演のあと、法王ヨハネ・パウロ二世と親しく握手をされている写真などを見せ ていただきながら、バチカンの広い裏庭に沢山落ちている大きな松かさのことなどで話が はずんで、小田先生も、すでに心はローマ・バチカンに飛んでいるようなお顔をされていた。
 小田先生が趣味として草花の繊細な水彩画スケッチを沢山描かれていることは周知であるが、 その中の一つに「法王様の椿」というのがある。(次頁) 多くの画は、奥様と海外へ行かれた時持ち帰った種を庭で育てて咲いた花の写生である。
 小田先生は、生前、星の王子様と呼ばれていた。 昨年、生誕100周年を迎えたアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「星の王子さま」は、 力強いヒューマニズムの中に、人間存在の意味や文明のあるべき姿を浮かび上がらせたもの で、現代の人間社会に対する警鐘を鳴らしているものと受け止められている。挿絵が得意だっ た本人の書いた画の中で、ひときわ丁寧に描かれている地球を包む巨大なバオバブの樹は、最 近特に話題になっている自然環境問題や、人類を脅かす巨悪を象徴しているといわれる。ドイ ツの哲学者ハイデッガーは、「星の王子さま」を20世紀を代表する最も優れた実存哲学書の一つと位置付けている。
 小田先生が、星の王子さまといわれるのは、単に天文物理学者である、X線天文学の世界的 権威者であるというだけではない。まさに

バオバブの樹




「星の王子さま」が人類社会の現状を憂い、将来を危惧したと同じく、小田先生は、これからの 人類存続の条件を見出すべく、あらゆる研究者の知恵を集めようと腐心されておられたからで あろう。「すだれコリメーター」の原理を脳の観測に生かすなど、人間―その内と外、脳と心の 研究など、新しい概念のもとでの研究テーマを次々と提示されていた。
  今、我々の学術フロンティア・プロジェクトは、人文・社会科学分野と自然科学分野の多く の研究者の学際的、国際的共同研究体制によってスタートしたばかりである。  小田先生は、最近はご自分で、「星のおじいさま」だと言われていた。「星の王子さま」の主人 公は、最後はまた星にもどった。先生も天に召された。 (前略)「ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その一つの星のなかで笑うんだ。だから、 きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑ってるように見えるだろう。すると、きみだけが、笑 い上戸の星をみるわけさ」そして、王子さまは、また笑いました。「それに、きみは、(中略)ぼ くと知りあいになってよかったと思うよ。きみは、どんなときにも、ぼくの友だちなんだから、 ぼくといっしょになって笑いたくなるよ。(後略)」(サン=テグジュペリ作[星の王子さま]内 藤 濯訳より)。
 1963年から一年余り、小田先生がMIT教授でおられた時ちょうど私も客員研究員とし てMITに留学していたということもあり、心の師であった小田先生とご一緒に仕事をさせて いただきながら、今このような形で、お見送りすることになるとは思いもよらなかった。昔学 生時代しばらく通った聖イグナチオ教会での葬儀に参列しながら、なにかあったら、星を見上 げることにしたいと考えていた。
 新しく完成したフロンティア研究棟とともに、このCROSSROADSの第2号をぜひとも直接見て頂 きたかった。せめて今後の研究成果を暖かく、かつ厳しく見守っていていただきたいというのが、 共同研究者一同の心からの願いである。

法王様の椿 小田 稔 画

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編集後記

CROSSROADS No.2の編集を終えるにあたり、あらためて編集部として、小田 稔学長のご冥福を心からお祈り申し上げます。
 学長ご逝去の報が入った時は、すでに本号の掲載記事がほとんど集まった後 だったので、本号記事の大部分は、その前に書かれたものであることをお断り しておかねばならない。また、新しいフロンティア研究棟が2月末に完成した ばかりで引越しと重なり編集部のDTPが一時満足に使えなくなったり、追悼 文の挿入、再編集などのため、発行が予定より二週間ほど遅れたことをお詫び したい。 I.T.

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編集/発行:東京情報大学・学術フロンティア共同研究推進センター・プロジェクト総括班  Crossroads編集部       

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