初出:『ユニ通信』 3672号(1991.11.25号)  「展望台」

ユニ通信・展望台


送り手・受け手・触媒の連帯をめざして

〜映像資料の問題を中心として〜



伊藤敏朗



   
●私達「視聴覚資料研究分科会」は、首都圏を中心とする私立大学図書館の視聴覚資料担当者が集い、研修を積んでいるものです。図書館内にAV資料を視聴できるコーナーを設けたり、資料を収集・保存し目録を整えること(図書館では“組織化”と言います)によって、利用者(学生・教員) を教育工学的側面から支援することが私達の仕事です。
 現代に溢れる情報はもはや文字・言語情報(図書)だけでは到底カバーし得ない状況であり、大学の教育・研究の場面で視聴覚資料が果たす役割は益々大きなものとなっております。一方で感性への訴求力が強い視聴覚メディアを、理性的な知識としてしっかりと定着させる為には、図書・文献の手助けが不可欠でもあります。つまり車の両輪であり、視聴覚資料と図書資料が結びつき、有機的に組織化された「マルチメディアな学習環境」の構築といったものが、これからに期待される図書館像であろうと考えている訳です。

●大学図書館では1980年以降、視聴覚資料サービスの充実が進み、1989年の私達の調査では、全国 247館に 2,819台3,797席の視聴覚資料閲覧席(AVブース)が設置されており、その利用者は年間 100万人を越えていると推定されます。また文部省の調査では、全国の大学図書館には既に16万本のビデオテープ、12万枚のLD・CDが収蔵されています。近年は公共図書館の視聴覚資料の充実にも著しいものがあり、全体としてみると図書館の視聴覚サービスのマーケットというものは非常に大きなものとなっているのではないかと思われるのです。
 そこで私達は、各図書館の視聴覚資料担当者が結束して、このマーケットを有効に機能させることに努めることで、視聴覚資料の送り手の方々−つまり本紙読者のような映像ソフト制作者の皆さんと、図書館の利用者との間の良き触媒として働くことができるのではないかと考えるようになりました。

●私達が図書館の中で仕事をしながらも少しづつ判ってきたことは、視聴覚ソフトというものは単なる絵や音のパッケージなのではなく、作り手の血の通った生き物であり、その表現を成立させるための様々な創造的価値の結晶であるということです。またあまり商売にはならなくても、内容の優れたものを地道に作り続けておられる方が数多くいらっしゃるということです。私達はそうした方々に大きな声援を送りたいし、時には注文もさせて頂いたりし、良い資料は貪欲に購入していくことによって、この市場をより良く育てていくことのお手伝いができないか、そしてマイナーではあるが良質な企画が図書館の購買力を見込んで実現できるような環境を作っていけないものか、と考えるわけです。
 また視聴覚資料の制作・流通過程やスタッフの役割分担、それに関わる著作権問題のこと、ソフトに関連するドキュメントの管理等々について、私達は映像産業の方々からもっと多くをお教え頂き、図書館サービスとしてのより適切な組織化の方法を研究していきたいと思っています。

●私達が刊行している『視聴覚資料研究』という 図書館員向けの機関紙では、AVソフトのディレクターやプロデューサーの方々の作品制作の姿勢や苦心談などのレポートをご寄稿頂いており、これによって少しでも作品の作り手の“顔”というものが見えるようしていきたいと思っています。
 そしてどんなにハードウェアが進歩したとしても、対象に取材し、画角を切り取り、熱いメッセージを込めて作品として構成できるのは“人間”だけなのだということを多くの図書館員や利用者に訴えていきたいと思っているのです。

●このような図書館活動を通じて、私達は少しづつ、「送り手(制作者)」と「受け手(図書館利用者)」とその「触媒(図書館員)」とが親しく交流できるような場を広げていき、AVコミュニケーションの世界をより実りあるものとしていきたいと思っています。今後ともよろしくご指導のほどお願いいたします。




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