教材映画『8ミリ映画の基礎知識』シナリオ 

 

このシナリオは,教材映画『8ミリ映画の基礎知識』(8ミリ,Magトーキー,約30分)のナレーションを採録したものです。この映画は,1980年(昭和55年),東京農業大学農友会視聴覚部において,伊藤敏朗が後進の育成のために制作したもので,作品中には,伊藤が高校・大学時代に撮影したフィルム(自主制作映画のNGカットを含む)がおおく使われています。現在,この映画はビデオ化され,映画製作を志す若者たちに利用されています。(シナリオ中のゴシック文字は中見出しとして,テキスト採録時に付加したもので,明朝体文字の部分がナレーションです) 採録:2002.1.31 協力:磯目啓介君

 

 

はじめに

この映画はこれから8ミリを撮り始める人のためにカメラの動かし方や画面の構成の仕方が実際は,どのように行われているかを順を追って見てもらいながら撮影上の注意を学習してもらうものです。

 

ピント

まず,誰でも知っているように,ピントが合っていなければなりません。特に映画は主写体が動くのでそれに合わしていかなければいけません。逆にピントの方を動かし,ピン残りという映画ならではの効果を生むこともあります。わざとピントをぼかした独特の効果,都会の夜の景色や雨や霧の表現などに良く使われます。

 

露出

次に写真や映画にとって大事なのは,正しい露出を行うことです。露出は,画面の明るさを決定します。狙った通りの丁度いい明るさ,つまり,適正露出で撮らねばなりません。今この画面は,必要なものが自然に見えていて適正露出です。

 

露出アンダー

それが,このように露出を少なくすると,つまり,露出アンダーだと画面は暗くなり,何が写っているのかわかりません。

 

露出オーバー

逆に明る過ぎても,露出オーバーでも不自然です。さらに明るくて,完全な露出オーバーでは,画面は白くなって,やはり何が写っているのか分からなくなります。

 

自動露出機構について

8ミリカメラには,自動露出機構=EEが内蔵されていて自動的に絞りがセットされます。しかし,自動露出は画面の明るさを平均するだけなので,時には思ったような明るさの画面にならないことがあります。自動露出に頼りきってはいけないのです。

例えば,画面に太陽や照明ランプが入ってくると,自動露出では全体が明るいものだとして極端に絞りを絞ってしまい他の部分が暗くなります。だから,逆光の時は自動露出した絞りより絞りをあけなければなりません。

 

逆光

太陽などの映りこまない逆光ぎみの時も,これくらい絞られてしまいます。

そこで,自分で絞りをあけてやり,自然な感じを狙ってみます。逆光の時は,画面は少し露出オーバー気味にすると,ハイキー調の美しい画面となり,効果的なことがあります。

 

ハレーション

逆光の時,レンズの構造によって,ハレーションが生じますが,これをわざと撮り入れて効果的に使うこともあります。反対に絞りを絞りこんで光の美しさを強調しようとすることもあります。

 

背景が暗い時,タイトル撮影など

特に背景が暗い時などは自動露出のセットよりずっと絞らなければなりません。黒字に白のタイトルなどは,自動露出で撮ることはできません。こんな時は,外部露出計とか,標準露出板を使って絞りを決めます。

フィルムは明るさの違いを幅広くカバーすることができません。外の明るさに合わせれば,部屋の中は真っ暗になってしまいます。そこで,外と中のどちらか重要なほうに露出をあわせるか,部屋の中の被写体に銀レフや照明で光を補ってやります。空の色なども自動露出よりは,自分でセットした絞りで狙い通りの明るさにした方が良い結果が出るようです。

 

露出のまとめ

このように映画は,光の使い方によって,それぞれ効果が違います。もちろん,目で見えるように自然に写すということは,あくまでも基本です。しかし,露出の効果を使い分けて自分のねらいをストレートに表現できるようになるということが大切なことなのです。

 

サイズ

さて,画面の構造を決定する要素の中で,まず,サイズとアングルに目をつけてみましょう。サイズとは,被写体を捕らえる大きさのことですが,このように,人間の足元から頭までがちょうど入るようなサイズをフルショットと呼びます。

それより少しサイズがつまったのがミドルショット。

そして,胸から上が入るようなサイズがバストショットです。8ミリは画面が小さいので,人間の表情を捕らえるには,これくらいのサイズが適しているといえそうです。そして,顔がいっぱいになるようなサイズが,アップです。人間のアップは主観的で非常に思い入れの強い表現となります。

そして,クローズアップという,さらに被写体を大きく捕らえるサイズがあります。

逆に,フルショットより遠くなって遠景を撮るのをルーズショットといいます。映画はサイズを変えながらカットを変えるのですから,被写体を捕らえる大きさには,いつも気を配っていなければいけません。

 

アングル

ところで,8ミリを撮る時,サイズ以上に気をつけてほしいのがアングルです。

 

ローアングル

このように,普通の目の高さより低いところで被写体を捕らえるのがローアングルです。ローアングルで,あおぐように人間を捕らえると迫力のある主観的な表現となり大変効果的です。生々しく,ドラマチックな撮り方ができます。その反対に周囲の客観的な状況は,むしろつかみにくくなります。

 

ハイアングル

さて,ローアングルの視点を変えて,普通の目の高さよりも高い位置,ハイアングルに変えてみましょう。ハイアングルはローアングルとは逆に,人間を突き放した感じ,客観的な目となります。これは,被写体の位置関係や周囲の状況を説明する時,効果的です。そのかわり,主観的な感情の表現には,あまりむいていません。

8ミリを撮っていると自分の目の高さでカメラを構えてしまうものですが,それでは平凡で主張のない,また,分かりにくい画面になってしまうことが多いようです。撮影に際しては,カメラの高さを様々に変えて,被写体をねらってみることが大切です。被写体を生々しくとらえるローアングルと撮影効果のあるハイアングルを巧みに使い分けると,映画全体にメリハリを与えることができます。

 

パースペクティブ

ここで,レンズの違いによるパース・ペクティブの変化を見てみることにしましょう。パース・ペクティブとは,遠近感ということです。今,この画面の遠近感は,普通に感じられます。

 

望遠レンズと広角レンズのパースペクティブの違い

ところが,この画面の列車は,前と後ろが少しつまって見え,あまり遠近感がありません。それに,なんだかゆっくり走っているように見えます。これは,望遠レンズで撮影した画面なのです。望遠レンズでとらえられた画面は,遠くのものと近くのものの大きさが,あまり変わらなくなるので,遠近感が失われてくるのです。

これは,広角レンズで撮ったもので遠近感の強いことが分かりますね。

これも同じ場所で,望遠レンズで撮ったものですが,列車の長さが短く感じられ,また,列車の窓が重なり合いパターン化されたもののようになっています。このように望遠レンズは,遠近感をなくし,遠くと近くのものが重なり合った独特の画面を作ることができます。

この通りを,望遠レンズでとらえてみましょう。遠くの車と近くの車が重なり合い,迫力ある画面になります。また,遠くの坂が大変きつい坂のように見えます。坂道がきつく見えたり,曲がっている道の様子が協調されるのも望遠レンズの効果です。これらの遠近感や迫力の違い,あるいは,遠景がぐっと迫ってくる感じは実に効果的です。望遠レンズを使って,背景を整理し,ねらった被写体を協調するというのが写真の構図作りの一つの方法です。

また,逆に広角レンズによって,遠近感のある構図も被写体をとらえる上で効果的なこともあります。8ミリカメラには,高い倍率のズームレンズがついているので,これらの効果をうまく使い分けてください。

 

構図

サイズとアングル,用いるレンズが決まると,カメラを水平にすえ,たてと横の比率に気を配って構図を決定します。最も,わざとカメラを斜めにして,強い印象を与えようとすることもあります。また,ただカメラを向けるというのではなく,ファインダーの中で見える画面をできるだけ単純にして,被写体をストレートに表現するというのは写真の基本です。注意が被写体に集中するようにしたり,一部分だけに照明を当てるといった工夫もあります。被写体もシルエットで表現するのも一つの方法です。周囲のわずらわしいものは,できるだけ省略し,被写体が強い印象を残すようにねらいます。写真は,引き算の芸術であるといわれているのです。

 

カメラワーク:フィックス

さて,今まで見てきたフィルムは主としてスチール写真と同じように,一つ一つの画面の枠が動かないものでした。この画面を固定画面,フィックスといいます。映画は,フィックスで撮ることが原則です。基本的には,フィックスで撮影されたそれぞれのカットを編集でつなぎ動きで表現していくのが映画です。初心者は,ついカメラを手で持って振り回してしまいますが,出来上がりは見苦しいだけです。まず,フィックスを撮ること,その時,カメラが揺れないよう必ず三脚を使うようにしてください。

 

ティルトとパン

それでは,もし撮影中にカメラを動かしていくとどうなるでしょうか?まず,カメラ自体は同じ位置にあって,カメラが上下左右に首を振るカメラワーク,ティルティングとパンニングについて見てみましょう。このように,下から上へ振り上げることをティルトアップといいます。逆に,上から下へ振り下げることをティルトダウンといい,このようにカメラを上下垂直方向に振ることを,ティルティングといっています。カメラを上下ではなく左右水平方向に振ることをパンニングといいます。ティルティングもパンニングも画面が流れないよう,滑らかにゆっくりと動かさなければいけません。

 

被写体をフォローするカメラワーク

また,このように動く被写体を追ってパンニングすることを,フォローパンニングといいますが,ティルティングもパンニングも,このように被写体の動きをフォローする時だけ使うというのが原則です。周りの景色を見せるためにカメラだけをむやみに振り回すことは,絶対してはいけません。また,パンニング,ティルティングともサイズとアングルに気を配らなければならないのは,フィックスと同じことです。

 

振り込みパン,スイッシュパン

フォローパンニングでない特種のパンニングの一つは,周りと被写体の関係を表現する,このようなパンニングで,振りこみパンなどと呼ばれます。また,わざと急に振るスウィシュパンというのもあり,流れた画面をカットでつなぎ目に挟み込んだりします。その他の演出効果をねらったパンニングも行われますが,滑らかに画面が揺れないように行います。そして,やはりフォローパンニングが最も見やすく安定したカメラワークです。

 

平行移動撮影

それでは,カメラ自身が動き出すとどうなるでしょうか。このように,動く被写体をフォローしながら平行しながら移動するのが平行移動撮影です。カメラを載せた台車をレールの上で移動させたり,自動車や自転車などを使って行われます。

 

前進移動撮影と後退移動撮影

これに対し,カメラに向かってくる被写体をカメラが後ずさりながらフォローする後退移動撮影というのがあります。カメラマンは後ろ向きで歩くので,コースを誘導してあげる人が必要です。この後退移動の反対に被写体の後ろ姿を追っていくのが前進移動撮影です。

 

クレーンアップとクレーンダウン

この他,カメラが動く特殊なコースにクレーン効果がありクレーンの先についたカメラが,上下左右,自由に移動するのです。このフィルムは,消防署のはしご車を使って降りてきたクレーンダウンで,反対に上がっていけば,クレーンアップとなるわけです。カメラが移動するカメラワークも被写体の動きをフォローすることが原則です。被写体を滑らかにフォローし続けることができれば,カメラがその状況に溶け込んで,自然なカメラワークとなります。

 

手持ち撮影,ノーファインダー撮影など

その点,カメラ自信が被写体の動きに関係なく動きまわるのは,極めて特殊なことで,普通はやってはいけません。カメラが人間の目となる主観撮影とかドキュメンタリー的な効果,あるいは,特殊な演出をねらってこのようなことが行われます。カメラだけを突き出しファインダーを覗かないで撮る,ノーファインダー撮影をやることもあります。カメラを自由に動かすことで,被写体の感情表現をねらうことも多く,手持ち撮影の躍動感は効果的です。しかし,カメラが動くのは,画面が揺れやすく,見苦しくなりますから決して乱用してはいけません。

カメラワークは,基本的には被写体の動きをフォローするものです。被写体を追って,滑らかにカメラを動かさなくてはいけません。つまり,被写体のフォローだけで使うというのは,フィックスで撮るのと同じ考え方をしているというわけです。

 

ズーミング

8ミリカメラに付いているのは,たいてい高倍率のズームレンズです。これで被写体のサイズをいろいろと決めることができるので,便利ですが,撮影中にサイズを変えてやり映画ならではの効果を生むことができます。これをズーミングといい段々アップしていくのがズームアップです。反対にロングに引いてくるのがズームバックです。ズームバックでは,興味深い対象からサイズを引いてきて全体を見せるといった方法が良く用いられます。

 

ピントあわせ

効果的な使い方は,撮影前のピント合わせです。このように,ピントの合っている画面も,ズームアップしてみると,ピントがずれていることが分かります。だから,アップにしておいて,ピントを合わせてから,ねらったサイズに戻します。望遠レンズは,被写界震度が浅いので,ピント合わせが正確にできるのです。

 

特殊な効果

ここまで見てきた基本的な撮り方の次に,映画ならではの特殊な効果の例をいくつか見てみることにしてみましょう。窓や鏡に映った被写体を撮ると,ゆがんだり,何重にも見えたりして,思わぬ面白さを呼びます。

 

スローモーション

フィルムの回転速度を普通より何倍も速くして撮影し,それを,普通の速度で上映すると,ものの動き方がゆっくりと見えます。これが,スローモーションです。スローモーションは,分解的な面白さもさることながら,この運動のダイナミズムなものが,まさに映画ならではのものです。

ところで,スローモーションの時,気をつけなければならないのが,露出です。絞りが同じままスローモーションにすると,このように暗くなってしまいます。回転速度が上がるとひとこまあたりの露出は少なくなりますから,例えば,回転速度を2倍にしたら,絞りも2倍あけてやらないといけないことになります。

 

コマ落とし撮影

回転速度を何分の一かに遅くして普通に上映すると動く被写体が,ちょこまかと早く動くように見えます。これが,こま落しです。普通に動き,変化してゆくものを,短い間に見ることができます。

 

アニメーション

これと異なり一こまずつ撮っていくひとこま撮りの方法で,動かないものを動いているように見せることもできます。普段見なれている漫画アニメーションもこの原理です。

 

フェードイン・アウト

シーンのはじめ,真っ暗な画面から,次第に見えてくるのがフェードインです。これは,絞りやシャッターを開けていって,次第に露出量を増やしてやるとこういうことができます。この画面は,フェードインとピン送りを組み合わせた幻想的な効果をねらったものです。その反対がフェードアウトでシーンの終わりなどで良く使われます。

 

オーバーラップ

それでは,フェードアウトしたカットをいったん巻き戻して,フェードインしていくとどうなるでしょう。このように,二つのカットがダブりながら変わっていくことをオーバーラップといいます。滑らかな画面転換や時間経過の表現として美しい効果をみることができます。

 

多重露光

このように一度撮影した画面の上に,別の画面を撮影して重ねることを多重露出といいます。ここで例えば,黒字に白でこのようなタイトルを撮影していきます。最後まで撮影し終わったら,いったんシャッターを閉じてタイトルの撮りはじめの部分までフィルムを巻き戻します。巻き戻した所からタイトルのバックになるものを始めから終わりまで撮影して重ね合わせます。こうして出来上がったフィルムは,バックの上に次々とタイトルが現れる合成タイトルとなります。

多重露出は,16ミリや35ミリの映画では,現像書でプリントできますが,8ミリは撮影の時やらなければならないので,大変面倒で,なかなかうまくいかないものです。その点,合成タイトル程度のものは,比較的やさしく作ることができます。最も黒字に白のタイトルを正確な露出で取るのは難しく,それに失敗すると,合成タイトルがしらけたり文字が薄くなったりし,良い効果を生むことができません。タイトル撮影は露出が決め手です。多重露出はもちろん,二つ以上の画面をいくつでも重ね合わせることができ,それなりに面白い効果を生むことができます。さらにこの時,画面の半分ずつにマスクをかけるなどのマスクオン技法を使って,家より大きい人間を出したり,同じ人物を同じ画面に登場させたりといったことができます。

 

まとめ

以上,これから8ミリを撮る人のためにいくつかの実例を見てきましたが,ここで映画にとって最も大事なこととして言っておかねばならないことは,映画は,それぞれの画面を編集して,全体の構成を見せるものだということです。つまり,一つ一つの画面をきちんと撮れる撮影技術と全体を構成する力の両方が必要で,どちらも欠けてはならないものだということです。その映画で訴えたいことはなんなのか,はっきりとしたテーマを持って製作に望むべきです。奇抜なカメラワークやテクニックに溺れては良い作品を作ることはできません。映画はフィックスの画面を編集でつないでいけば良いのです。そのためにも必ず三脚を使ってください。

 映画の映像表現は無限です。それは,私たちに新しい驚きや美しい感激を与えてくれます。自分の思うとおりにその世界を操れたら,こんなすばらしいことはありません。始めから,あまり奇抜まことはやらずに基本に忠実に,しっかりとした撮影技術を身につけてください。そして,まずカメラを手に町に飛び出すことです。映画作りに必要なものは,何よりもその好奇心とあなたの若い情熱に他ならないからです。