情報大の「ひと」シリーズ(7)
伊藤敏朗准教授

情報大の「ひと」シリーズ第7弾
情報文化学科 伊藤敏朗教授「ネパール映画への想い」

情報大には、教育・研究に携るたくさんの人たちが住んでいます。その「ひと」たちの活動の一端を紹介することで情報大の様々をお伝えする「情報大のひと」シリーズ。
今回はその第7弾です。



【今回のひと】

今回の「ひと」は、情報文化学科教授(映像・音響研究室)の伊藤敏朗先生。先生の研究テーマは、「映像メディア」。ゼミ活動や大学広報、外国での映画作りなどの実践を通じて、幅広い映像メディアの研究に取り組んでいます。
最近では、ネパール初の日本人監督として製作した劇映画「カタプタリ〜凰の村の伝説〜」が、2008年度ネパール政府国家映画賞を受賞するなど、その活躍が注目されています。
映画作りへの思いなどについて、お話しを伺いました。


Q:映像(映画)と係わることになったきっかけは? 
小学生の時にスタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』を観たこと、高校時代に8ミリ映画を作って文化祭に出品したこと、大学時代に学内外の映像サークルで活動したこと、日活調布撮影所や東京12チャンネルなどでの就業体験をしたこと等、映画・映像との係わりには多くのきっかけがありました。
大学卒業と同時に東京農大の視聴覚センター(図書館視聴覚部)に勤務し、「東京農大学術映画シリーズ」などを手がけたことが職業人としてのキャリアの始まりでした。視聴覚ライブラリーの構築手法の研究などもその頃から継続している大きなテーマです。


Q:ネパールでの映画作りのきっかけは?
今から5年前、映像製作について学びたいとネパールから情報大に入学してきた留学生、B・M・ニラジュ君との出会いです。ネパールはひじょうに映画製作が盛んな国なのですが、当時は日本ではもちろん、世界の映画研究家にとってもネパール映画というのは全くの未知の存在だった
ので、彼と一緒にネパール映画の歴史や現状について研究をはじめました。
そして2007年、ニラジュ君とほかの日本人ゼミ生とともにネパールに行き、『カタプタリ〜風の村の伝説〜』を製作しました。

映画『カタプタリ』の1シーン

2008年度ネパール政府国家映画賞の表彰式

Q:苦労話は?
慣れない土地で、現地のスタッフ・キャストをつかっての映画製作は、全てが苦労の連続だったとも言えますが、同時に、またとない実践研究の機会でもあり、今となっては楽しかったという思い出しかありません。
映画製作の表現手法や用語は世界共通のもので、面白いように自分の演出意図が伝わり、映画というものが国境を越える表現芸術であるということを立証できたようにも思っています。
ただ想像していた以上に、日本とネパールでは、風俗や習慣の違いが大きく、その理解を進めながら映画の中に表現していくというのは、やはり大変なことでした。現地スタッフと綿密に議論を重ねながら、ネパールの人々の生活の様や人生観というものを描き出すことに努め、完成作品は、その成果がじゅうぶんに実ったものになったと思っています。


Q:映画『カタプタリ〜風の村の伝説〜』で伝えたかったことは?
ネパールの観客には、ネパールの伝統的な文化や生活の素晴らしさを大切にして欲しいというメッセージを、日本の観客には、そんなネパールの人々の細やかな感受性や優しい人間性、そして美しい自然の姿を伝えたいと思いました。
なにより、この映画の製作や上映活動を通じて、両国の文化交流のささやかな橋渡しになればと考えました。その成果も徐々に出てきており、嬉しく思っています。


Q:今後、撮りたい映画の構想があれば聞かせてください。
現在、ネパール映画第2弾『シリスコフル〜花を散らす口づけ〜』(ジャミーン・プロダクション製作)の撮影中です。これはネパールの国民的文学者であるパリジャート女史の有名な同名小説の映画化です。原作は、非常に抽象的で、ネパール人にとっても難解とされているのですが、外国人である私の目を通じて、世界の観客にもわかりやすく、かつ原作の感動を損なわないように伝えるということに苦心しつつ作っています。まだ撮影も半ばですので、もうしばらくネパール通いが続きそうです。いっぽうで、大学の地元・千葉にもしっかりと目を向けた番組の制作に継続して取り組んでいきたいと思っています。

ネパール映画第2弾:撮影風景