ドラマ制作の基本的方法

 

1. ドラマ制作の意義

1.1 人間はなぜ物語を求めるのか

1.2 ドラマ制作の教育的意義

 

2. シナリオの制作

2.1 シナリオ(台本)の形成プロセス

2.2 物語構造(Story Elements)

2.3 シナリオとレトリック

2.4 シナリオの形式

 

3. ドラマ制作の手順

T準備(プレプロダクション)

Uプロダクション

V.ポストプロダクション

W.公開・分析

 

4.プロダクションのためのツール

4.1香盤表

4.2絵コンテ(ストーリーボード)

4.3クラップボード(Clapboard:カチンコ)

4.4記録用紙(スクリプト・キューシート)

 

5.スタッフの編成

5.1 演出班(制作部・演出部)

5.2 技術班(撮影部・照明部・美術部)

 

 

 

 

1. ドラマ制作の意義

 

1.1 人間はなぜ物語を求めるのか(〜あなたはなぜドラマを創りたいのか〜)

 

物語(ストーリー、フィクション)の創造とは、現実の役にたたない絵空事に空想をめぐらすということではなく、わたしたちの社会を吟味し、めざすべき世界への展望を示すためのきわめて社会的で人間的なはたらきであり、社会にとって欠くことのできない作用である。

物語(Story)と歴史(History)は語源的には同義であり、物語とは、複雑で多様な現実を人間にとってより理解しやすい姿に読み替え伝えようとする営為であるともいえる。「心、それが人を人にする」という言葉にならえば、「物語が人をつくり、社会を作る」のであって、物語は人間社会のグランドストーリーを示し、人として生きる意味を明らかにするために必要な「世界」そのものとなる。そこには、人間の哲学・思想・伝統・文化・知性・教養・感動・畏怖・尊厳などや、時に暴力や性・醜悪さなども含めた様々な姿が映し出され、私たちはそこに自らの姿を鏡として映し出し、生きる術や意味を学びとり、成長していくのである。

現代人は、現代メディア、とりわけ映像メディアの中で物語られた社会と人生の中で生きている。映像メディアに対し受け身一方ではなく、自ら番組を創るという体験は、メディアに対する洞察力を深め、自らの意志で社会参画を果たそうとする姿勢、社会の中で生きようとする力を育むこととなろう。それがメディア・リテラシー教育の意義である。

 

1.2 ドラマ制作の教育的意義

 

 ドラマ制作を教育の場で学ぶことは、以下のような多様な能力を体得できる意義があると考えられる。

 

@ 創作・構成能力・・・ひとつの時間的表現に沿ったストーリーを論理的に展開し、メッセージを構成していく能力のことである。自分の思い込みではないノーマルな感性をもち、若者らしい正義感や情熱のまなざしで社会を見渡し、問題を発見する力が問われるものでもある。

 

A コミュニケーション・プレゼンテーション能力・・・メディア機器をつかった表現方法の習得。および、ドラマの出演者や演出者となって、人間の表情や動作のひとつひとつの意味性にたいする表現力や観察力というものが養われることに大きな意味。他人(登場人物)の心のうごきについての想像力を豊かにすることの大切さを理解する力が育まれる。

B プロジェクト遂行能力・・・ドラマという想定的な概念を、それぞれの構成要素にいったん分解し、現実の制作作業に置き換えて計画・遂行し、実際のコンテンツとして再構築する仕事の方法を学ぶ。プロダクションマネージメント能力の育成。

 

 

2. シナリオの制作

 

2.1 シナリオ(台本)の形成プロセス

 

 シナリオ(台本)は、ドラマ制作のすべての設計図となるものであり、伝えようとする想いを物語の形に託すための具体的なツールである。そのための日常的なテーマ意識と丹念な取材力、時代考証などが、それらの全てのプロセスにおいて求められる。テーマとプロット(あらすじ)を、具体的なシナリオ(台本)の形に書いていく順序を一般化すると概ね以下の様になる。

 

@  現実世界の観察(主題の発見)・・・作品が描き出そうとする対象への問題意識のありかた。作者の持つ知識や教養の広がりの反映であり、日常社会への観察力のこと。

 

A  物語化のための発想(アイデアの誕生)・・・このような観察から得られた社会的テーマや人間関係の面白さを、さらに掘り下げ、凝視したり、あるいは誇張し戯画化すること。

B  情況設定(アイデアの具体化)・・・このようなアイデアが、制作者の手で具体化・映像化するには、どうしたら可能かを考えること。

 

C  作品の方向性(コンセプトとテイスト)・・・喜劇か悲劇か、純愛映画かアクション映画か、大衆路線か芸術路線か、などの作風や味わい、ドラマの性質や性格、呼び起こそうとする感動の置き所などを決める。

 

D  スケルトン(物語の骨格)・・・大きな物語の筋をなるものを決める。

 

E  物語の視点(物語の切り口の設定)・・・物語の主人公を決め、物語の糸口や切り口を決める。

 

F  プロットのブロック化(構造化)・・・一般には、「起・承・転・結」とか「序・破・急」といわれるように、ストーリーをいくつかのブロックにわけ、それを重ねて貫くようにして1本の物語を構築することである。それぞれのブロックのことは、「ハコ(ハコ書き)」「串団子」などと言われることもある。(2.2参照)

 

Gプロットの鳥瞰(抑揚のコントロール)・・・映画の観客の興味がつぎつぎに連続していき、映画が描き出す世界と同調してくれるように、ストーリーの全体にリズムを持たせること。起承転結、序破急、三幕構成(スリーアクトストラクチャー)などの物語構造(Story Elements)の用語にも照らして、物語を創る。

 

Hキャラクター設定(登場人物の設定)・・・それぞれの役を演じることになるキャラクターの性格、生い立ちや社会的立場、考え方、クセや仕種などについて設定する。登場人物の設定が適切におこなわれ、配役があてはまることによって、作品世界の中で生き生きとしたキャラクターたちが動きはじめる。物語の主人公が観客の感情移入を誘い、観客と主人公の観点を同じものにできるようにする。

 

Iストーリーの構築(プロットの完成)・・・プロット(あらすじ)をつくる。主役となる者だけでなく、その人物と対比したり、その自分を追い込んだりして、主人公の行為を必然性のあるものとしていく様々な仕掛けを設けていくことが必要となる。

 

Jダイヤログ(台詞の設定)・・・登場人物のセリフを作る。小説と異なり、ドラマでは、基本的に台詞によって物語を進行していかなくてはならない。小説であれば一人称で記述できるような状況を、複数の登場人物による「会話」で説明することが多い。一人の人間のさまざまな心のはたらきを、複数の登場人物が「分業」して表現しようとしているともいえる。台詞の役割には、物語の過去・現在・未来の状況を説明するもの、登場人物の性格や役割を表出するもの、そこに感情や思想のうごきを表現するものなどがある。前後の台詞との関係性から十分に機能するように(観客に状況が自然と理解されるように)順序よく配置される必要がある。

実際の人間は一人の気持ちの中にさまざまな複雑な側面があり、気持ちが揺れ動く。一人の心のなかで強気な面と弱気な面が混在しているような状況を、ドラマでは、見るからに強気そうな人物と見るからに気弱そうな人物とが現れて、二人の「会話」のかたちにするといったようなシナリオ技術を用いて物語が展開される。ややもすると、登場人物が単なる説明役に堕し、いわゆるステレオタイプ(典型的人物像)として戯画化されがちなことには注意が必要。周囲の登場人物たちに、どれだけ現実の“人間のうつろう心のあり様”を投影できるかというところに、シナリオ・ライティングの本領が発揮される。

 

Kシナリオの完成・・・・シナリオの書き方に沿って、完成させる。以上のようにして構築してきたプロットを、映画シナリオのルールにもとづいてト書きと台詞に書き分けて記述し、シーンの変わり目では柱をたててシーン番号を割り振るなどの作業をおこなって完成させる。こうして映像作品の最初の設計図ができあがる。このシナリオから、さまざまな演出プランがさらに検討され、あるいは絵コンテが描かれ、香盤表や日程表が作成されて、ようやく撮影作業に着手することができるようになる。

 

実際の創作活動においては、大きな問題意識などから、次第にストーリーが絞られてくるということもあるが、ある小さな情景やふとした言葉や動作、小道具など、ごく一部分のアイデアから始まって、その前後に必然性のある物語がだんだんと拡がっていって全体的な物語が形成されるということも多い。上掲のような手順を踏まなければならないという意味ではない。

 

2.2 物語構造(Story Elements)

 

(1) 起承転結

物事の展開や構成を表す言葉で、もともとは4行から成る漢詩の絶句の構成のこと。

起承転合とも言う。

 

起句(第一句目): ある内容を言い起す。物語の導入部。その物語にはどんな登場人物がいるか、どんな世界・時代に住んでいるのか、登場人物同士の関係はどんなものか、なぜその物語は始まるのかなど、これから物語を読む上で必要な知識を紹介する部分。

承句(第二句目): 起句を承(う)けてその内容を発展させ起承二句でひとつの意味をなす。物語の導入である「起」から、物語の核となる「転」へつなぐ役目を果たす部分。ここは単純に「起」で紹介した物語を少し進めるだけで、あまり大きな展開はないのが普通。 

転句(第三句目): 起承の内容を一転させる。物語の核となる部分。「ヤマ」ともいわれる、物語の中で最も盛り上がりを見せる部分。物語の中でも最も大きな転機を見せる部分。

結句(第四句目): 起承転句を受けて一貫した意向で結ぶ。「オチ」とも呼ばれる部分で、物語が進んだ結果、最終的にどうなったのかを描いて物語を締めくくる部分。

 

○起承転結の例1 李白の詩

峨眉山月半輪秋 : 起句 (詩思を提起) 峨眉山に半輪の月(上弦の秋の月)がかかっている。

影入平羌江水流 : 承句 (起句を承ける) 半輪の月光が平羌江の水に映り、月影を流している。

夜発清溪向三峡 : 転句 (詩意を一転する) 夜、清溪を出発して三峡に向かう。

思君不見下渝州 : 結句 (全詩意を総合) 元の美しい月を仰ぎたいが見えない。舟は足早に下っていく。

 

○起承転結の例2 頼山陽の俗謡 (起承転結の例としてよく示されるが、適切な例かどうかは疑問に思う)

京都三条糸屋の娘 : 起句 (唄の出だし)

姉は十八 妹は十五 : 承句 (説明)

諸国大名は弓矢で殺す : 転句 (話が一転して別の関係のない方向へ展開する)

糸屋娘は眼で殺す : 転句 (話が別の-関係のない方向へ展開する)

 

(2) 序破急

   :元々は舞楽の楽章の名称で、演奏の速度を指している。能楽や浄瑠璃の脚本・演出用語としても転用されており、物語製作用語としてはこちらの意味で用いる。世阿弥が導入し完成させたといわれている。世阿弥が基本とした五段構成は「序」「破の序」「破の破」「破の急」「急」となる。

「能安見するに、万象、森羅、是非、大小、有生、非生、ことごとく、おのおの序破急をそなえたり。鳥のさへずり、虫の無く音にいたるまで、其分其分の理を鳴くは、序破急なり」(世阿弥『拾玉得花』)

 

○「序破急」と「起承転結」の物語構成への応用方法(さまざまな解釈・応用の一例として)

 

        破   急
     /\ /\  /\
    起  承     
   /\ /\ /\ /\
  
 発  葛   危  クライ  

          マックス 

 

 

 

刑事モノ

恋愛モノ

難病モノ

サクセスストーリー

1発端

事件発生!

出会い

出逢いと発病

目標と挑戦

2葛藤

捜査

仲良くなる

病状

努力する喜び

3危機

暗礁に乗り上げる

喧嘩、衝突

絶望

挫折(努力は報われない)

4クライマックス

打開策「アリバイを崩した!

誤解、別れ

希望

克服・打開策

5結末

解決!「逮捕」

結ばれる

治るか亡くなる

達成解決!

 

 (3) 三幕構成

     :アリストテレスに由来するという全体を三つに分けて構成する方法。もともとはギリシャの劇の構成法を指す。現在では Syd Field の教本が再解釈したものがハリウッド映画の脚本に多用されている。 

物語の構成には基本的に、「ビギニング・ミドル・エンド」があり、それぞれの「転換点(ターニングポイント)」ごとに、物語がひとつ大きく展開する。このようなストーリーの全体を通じた抑揚を、ストーリーの流れの時間とともに波線グラフのように描き、ここにアクト1・アクト2・アクト3という3つのアクト(場)と山場となる転換点(ターニングポイント)を設けていくことが推奨される。スリーアクトは、ストーリーの全体(メインプロット)においても、それぞれのアクト(サブプロット)のなかにも、ひとつのシークエンスのなかにも、設定される。ひとつのメイン・プロットが、3つのアクト(サブ・プロット)で構造化され、それぞれのアクトは、さらにその下のアクト(サブ・プロット)によって構造化されるというように、大から小までのスリーアクト・ストラクチャーの入れ子構造によってストーリーを構築していくことで、映画の物語世界から観客の興味を離さないようにできるとする考え方である。

出展:リンダ・シガー著、田中裕之訳「ハリウッド・リライティング・バイブル」愛育者、2000年(p.43図より)

 

2.3 シナリオとレトリック

 

 観客を魅了するストーリーには、物語構成上の「レトリック」があることが大事である。

物語のよき語り手は、事実をただ並列・羅列するのではなく、抑揚をつけ、聞き手の疑問や想像をかきたてる。展開を「そして」で結ぶのではなく、それぞれのセグメントを、「あれ?何故?」「実は」「ところが」「なんと」で結んでいくことが大切である。そして結びにおいて、「なるほど!」「そうだったのか!」「そうきたか!」「よく考えたなぁ!」という印象を与えることでオチをつけること、言い換えれば、物語に「ひねり」のあることが必要である。

上手に物語を伝えるということは、作者・制作者が問題を示し、読者・観客がその解答をさまざまに考え解こうとする綱引きゲームのようなものとも言える。出題において必要な情報がきちんと示され、その話術(順序や提示方法)が巧みで、解答が納得できるものであるとき、観客は「なるほど!」と評価する。情報の提示が不十分で独りよがりなもの、解答がありきたりすぎて、面白味のない場合には観客からの良い評価が得られない。

 

2.4 シナリオの形式

 

日本のシナリオは通常、B5版、縦書きで、以下のような形式となることが多い。

@縦書き、縦20文字。(原稿用紙からの通例。尺の目安になる)

Aシーンを表す『柱』の頭には ”□” ないしは ”○” などの印をつけ、前を一行空ける。

B舞台説明や劇行動を表す『ト書き』は、全行2文字下げる。(手書きの場合は、3文字下げる人も多い。)

C『セリフ』は、頭に人物名を書き、セリフは「」でくくる。2行以上にわたる時は、2行目から1文字下げる。

D基本的に、200字詰め原稿用紙で、時間にして原稿用紙2枚を約1分と計算する。

ただし、アマチュアのシナリオ執筆の実際の作業ではワープロソフトで横書きで打ち、それをさまざまな形態に変換して使用することが効率が高い。必ずしもきまりごとに従わなくてはならないわけではない。

 

 

3. ドラマ制作の手順

 

T準備(プレプロダクション)

1.シナリオの完成・配布

2.予算の確保

3.スタッフ・キャストの編成

4.香盤表の作成

5.ロケーション(撮影場所)の決定・・・ロケーションハンティングやセットのデザイン

6.スケジュールをたてる

7.スタッフ・キャストの準備作業

@制作部が予算とスケジュールを管理し、撮影場所を確保(使用許可を得るなど)する

A撮影・録音・照明部が機材や材料(撮影用テープ等)をそろえる

B機材の使い方や撮影手順を練習したり、テストしたりする

B美術が美術セットを作ったり、小道具等をそろえる

Cキャストが芝居の練習をする(キャストは本番までに練習をし台詞を憶える)

8.絵コンテを描きカット割をおこなう

@原則としてシーンの最初と最後のカットはシーン全景(部屋の全体など)をワイド(広角レンズ)で見せる

A原則として全体カットは、やや高めの位置から撮り、人物全員をフルショット(頭から足先まで)で見せる

B登場人物の会話はイマジナリーラインの原則を守る(対話の目線方向がお互いを見ているように撮る)

C登場人物の主な会話は一人ずつバストショットで切り返す(人物の肩ナメなど)

D演出意図によっては、重要な台詞は人物がカメラに向かって話す

E主要な要素はアップカットで撮る・演出意図の必要に応じて人物からの見た目ショットで撮る

F演出意図の必要に応じてカメラの高さを変化させる(ローアングル・ハイアングルを工夫する)

Gカット割にしたがってシナリオにカット割を書き込む(スタッフ・キャスト全員)

 

Uプロダクション

U-1 撮影準備

 

1.集合

@制作部がスケジュールについてキャスト・スタッフに時間と場所を連絡する(前もって中長期のスケジュールを確認した上で、撮影前日には改めて全員に確認の連絡を行なう)

A撮影前日に、スタッフ・キャストが各自の役割を確認し、必要な作業を行なう(衣装やメイクの確認、美術や小道具の確認、テープ準備やバッテリー充電、テスト撮影、その他の用品や用具の確認)

B撮影当日、スタッフ・キャストが現場に時間通りに集合する。必要な者はさらに前に集合して準備する。

C撮影現場で荷物・機材等を整理整頓しながら整然と展開し、管理する

2.状況の確認と説明 (監督または助監督がこれから撮るシーンについて全員に説明をする)

3.情景制作・スタッフ配置 

  @必要なものを持ち込み、余計なものをどけるなどする

  A交通整理、野次馬対応などをおこなう

4.ライティング

5.カット割と撮影手順の確認

  @キャストがシーン全体を通して芝居の動きを見せる(必要ならキャストは台本を手に持って行なう)

  A芝居の動きにあわせたカット割りを確認する

  B実際の撮影順序を確認する。

  *通常の場合、シーンの全体を示すこととなるショット(エズタブリッシュショット)=撮影する範囲(照明の範囲)が最も広いショット、最初のショットと最後のショットとなることも多い=をまず撮る。続いて中間の人物の会話(切り返しカット)を撮っていく。切り返しショットでは、片方の人物の台詞のカットを全部撮ってから(例えば奇数カットを全部撮ってから)、相手の人物の台詞のカット(偶数カット)を全部撮ると効率が良い。

 

U-2 撮影

 

1.カメラとマイクのセッティング

@カメラ位置と登場人物の位置を決める

Aカメラの構図を決める

Bモニターテレビやマイクなどを設置し配線を行なう

C照明をあてホワイトバランスをとる

Dピントをあわせる(登場人物を最大のアップにしてピントをあわせてから、適正サイズに戻す)

E露出をあわせる(NDフィルターとアイリスで適正な明るさにあわせる)

Fマイクをセッティングして音量音質が正常か確認する

Gビデオテープがニューロールの場合にはカラーバーを1分間記録する

 

2.テスト(リハーサル)

@監督が「テスト」と言う、助監督が大声で「テスト」と繰り返す

Aその場の全員が作業に集中する

B監督が「よーい」と言う

C監督が「32」と言う(“1”は声に出さない)

D出演者は“1”を声に出さずにカウントしてから芝居を始める

E出演者の台詞が終わってから、監督が、「“321”」と声に出さずにカウントしてから「カット」と言う。

F助監督がカチンコ(クリップボード)を2度叩く

G監督が芝居やカメラアングルを修正する

 

3.クラップボードの撮影

@助監督がクラップボード(カチンコ)に「シーンaAカットaAテイクavを書いてカメラ前に出す

Aカメラマンが指示してカチンコのボードの位置を調整し、ボードを短く(1〜2秒)撮る

 

4.本番(テイク)

@監督が「本番」または「テイク」と言う

Aその場の全員が作業に集中する(ノイズとなる人がいたら排除する)

B助監督が大声で「本番」または「テイク」と繰り返す

C監督が「よーい」または「キャメラ」と言う

Dカメラマンがカメラの撮影ボタンを押し、録画マークが出たら「カメラ廻りました」または「ローリング」と言う

E監督が「32」と言う(“1”は声に出さない)

F出演者は“1”を声に出さずにカウントしてから、芝居を始める

G出演者の台詞が終わってから監督が、「“321”」と声に出さずにカウントしてから「カット」と言う

H助監督がカチンコの拍子木を2回たたく。

I監督が「OK」か「NG」を宣言する(OKの場合は、助監督が「OK」と大声で繰り返す)

 *すぐに再生チェックする場合は「OK」のかわりに「チェック」と言う(「チェック」が「OK」の代りの言葉となる)

J「OK」か「NG」か判断つかない場合は「キープ」と言い、本番を撮り直した後でOKテイクを選択する

K記録係が記録票(キューシートやスクリプト用紙)にOKNG・キープを記録する(NGの理由を記録する)

L撮影したカットがOKになったら、次のカットを撮影する(これを繰り返す)

M「アクション・ダブリ」や「きっかけ」の台詞などに配慮して、前後のカットの間がつながるように撮っていく

N(必要に応じて)現地の「環境音」を1分以上収録しておく

 

5.再生チェック

@撮影が終わったら(モニターテレビにカメラを接続して)再生チェックを行う

A記録係が各カットの「OK」「NG」「キープ」を確認する(キープのテイクは「OK」か「NG」を決める)

B再生チェックの結果によって、ミスがみつかればリテイクを行う

 

6.撤収 *撮影終了後、撮影済テープを管理し、機材を点検して撤収し、撮影現場の現状復帰・清掃を行う。

 

V.ポストプロダクション

 

1.     テープチェック

 

2.     バックアップテープの作成

 

3.映像の編集

@OKカットをパソコンにキャプチャする

Aタイムライン上にカット順に並べる

Bカチンコの音や「32・・・」〜「カット」などのスタッフの声が入った部分を取り除いて全体を「粗編集」する

Cスムースなつながりになるように、アクション部分を編集する

D必要に応じて、インサートトラックを使いながら、台詞の「ズリ上げ」「ズリ下げ」効果を用いる

Eディゾルブなどの特殊効果を加える

F各カットを色補正(カラーコレクション)をおこなって調整する

Gタイトル、クレジットなどの文字情報を加える

*編集中の各プロセスで適宜バックアップ(テープ)に保存しながら行なう

 

4.音声の編集

@各カットの音量・音質を調整する

A効果音を加える

*必要に応じて、台詞のアフレコや効果音の収録を行なう

B音楽を加える

C全体の音量や音質、バランスなどを整える

 

5.書き出し

@バックアップテープに書き出す(保存する)

A試写用テープを書き出す(保存する)

B試写を行い、必要ば箇所に修正を加える

 

6.公開用テープ(プリント)の作成

 

7.完成試写

 

8.フィードバックと評価

 

W.公開・分析

1.公開方法の検討・戦略をたてる

2.公開場所の確保・制作

3. 配布用メディア(VHSDVDなど)の作成

4.ポスター・パッケージ、チラシ、パンフレット等の作成

5.上映・公開・頒布

6評価と.分析・反省など

7.関係ドキュメントの記録・保存

 

 

4.プロダクションのためのツール

 

4.1香盤表

 

 芝居やドラマなどで、場面ごとの出演者や必要な衣装・小道具などを一覧できる表。劇場の客席表のことを言う場合や、出演者表という言葉と義の場合もある。もともと「香盤」とは線香を立てる台のことで、四角い升目の区切の中に、丸などの形が並んでいる様が、この表に似ているところからこの名称となったと言われている。  

 

香盤とは、

 芝居などで、縦軸に「場割り」横軸に「役名」を書き舞台に出ているセクションには丸、かげゼリフには三角などの印を付けた表。香盤表を見るだけで全体の流れが確認できる、演出家、舞台監督、舞台装置家、衣 装、小道具、メイクには 必ず渡すこと。 映画なら 撮影を能率的に行うために、タレントやナレーターのスケジュールに合わせ作られたタイムスケジュール表のことである。

(スタミナカンパニー 舞台用語辞典

   http://stamina-company.com/html/yougo.htmlより)

 

[左の写真は角館の武家屋敷に保存・展示されていた香時計]

 常香盤は、線香を長く燃やすために工夫された物で、この特性を生かして、時計として用いられたこともある。

 

 

 

                      ドラマの香盤表の例

シーン

 

 

シーンの

概 要

主な登場人物

 

その他の

登場人物

 

小道具・衣装・その他

関上

久世

麻生

夏目

山下

井上

城平

河野先生

1

校舎

校舎の外観

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

教室

教室での作業

 

 

 

文化祭の準備作業の状況の小道具・時計

3

廊下

関上と麻生の会話

 

 

 

 

 

 

 

手に持つ袋(飲み物)

4

教室

久世死体発見

 

生徒達約10

久世の死体の血のり

5

校舎

校内に入る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6

ロッカー

事件の捜査

 

 

 

 

 

 

 

久世の手紙

7

教室

先生の発表

 

生徒達約10

出席表・日誌

8

テラス

皆で相談

 

 

 

井上の携帯電話

9

教室

回想

 

 

 

 

 

文化祭の準備作業の状況の小道具・袋・飲み物

 

 香盤表は、「ドラマという想定的な概念を、それぞれの構成要素にいったん分解し、現実の制作作業に置き換えて計画・遂行し、実際のコンテンツとして再構築する仕事の方法を学ぶ」ためにも、最も重要な制作・進行計画のもととなるものである。このような制作手法や工程管理の手法を学ぶところに、映画製作教育の大きな意義があるものと考えられる。

 

4.2絵コンテ(ストーリーボード)

  

  絵コンテ(ストーリーボード)は、映像番組の設計図であり、演出意図、被写体の位置関係やフレームサイズ、作業工程などを明らかにするために絵コンテを描いて製作にとりくむことが、より良い映像表現の秘訣である。文字だけのシナリオでなく、常に各カットや被写体相互の関係性を意識する。絵コンテから必要な作業を抽出し、収録作業を計画的に進行することに役立てる。

 (切り返しカットの撮影手順)

 カットの切り返し関係を確認し、同じライティング、カメラ方向のカットは固めて撮ることが効率的なことが多い。

 人物Aと人物Bのアップショットを、カット1Aのアップショット」→カット2B」→カット3A」→カット4B」以下続くような場合、123456・・・と撮影するより、1357・・・のカットをまず撮り、続いて2468というように撮ることが作業の効率を高める。

ただし、芝居の連続性=コンティニュティについて十分な配慮が必要である。

   4.3クラップボード(Clapboard: カチンコ)

    俗にカチンコなどと言われる。シーンaAショット(カット)aAテイクaAその他の必要な情報をボードに書いて、原則として撮影の前に短く収録しておく(収録後に撮影する場合は逆さまにして収録する)

4.4記録用紙(スクリプト用紙、キューシート)

撮影順序に従って記録を残す。映画撮影では通常、1カットに1枚の記録用紙を用いるが、ビデオドラマの撮影では、キューシートに必要な事柄を次々に記録していくほうが効率的である。「OK」「NG」「キープ」の別、NGの場合にはその理由などを、できるだけタイムコードとともに記録しておく。芝居の連続性(コンティニュティ)を記録し、カットの撮り忘れを防ぎ、編集作業を効率的に行なうためにも必要である。

記録用紙の例                      

Title

 

Director

 

Roll

a@    - 

Date

200 /   /

Location

 

 

Scene

Cut

Take

Time Code

Contents / Dialogue

OK / NG

MEMO

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○伊藤敏朗のホームページ http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/

   →「映像制作教育マニュアル&ツール」で以下の文書様式をWord形式でダウンロードできる

記録用紙(キューシート)  http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/19.doc

・絵コンテ用紙(4:3 5コマ用)  http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/23.doc

・絵コンテ用紙(16:9 6コマ用)  http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/24.doc

・クラップボード用紙  http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/25.dioc

 

 

5.スタッフの編成

 

ドラマ制作に際しては、それぞれのスタッフの役割と職掌を明確にして、プロジェクト全体がスムースに進行するように、互いに連絡を密にしながら、協力して進める。なお、全体のマンパワーが少ない場合には、一人で何役もを兼ねることとなる。ことに、アマチュアのチームがドラマ制作をおこなう場合には、多くは、スタッフと出演者も兼ねることとなる。それでも、各人の役割分担を定め、それぞれの役割と責任をよく理解して、その任務を果たすことが大切である。以下に、その主たるものを列記する。

 

5.1 演出班(制作部・演出部)

 

@プロデューサー(企画をたて、予算を確保する)

A脚本(シナリオ)

B監督(演出・絵コンテ)

C助監督

 ・ファースト助監督(予算管理や進行管理など制作進行を担当する)

 ・セカンド助監督(キャストやスタッフに監督の指示を伝える、プロンプターを担当するなど)

 ・サード助監督(カチンコほかあらゆる雑用を行なう)

D記録(スクリプト用紙やキューシートに記入する。カットごとの連続性を記録する)

 

5.2 技術班(撮影部・照明部・美術部)

 

@撮影(カメラマン)

A撮影助手

 ・ファーストアシスタント(露出・色彩設計・計測などを行なう)

 ・セカンドアシスタント(フォーカスあわせ、カメラ管理などを行なう)

 ・サードアシスタント(三脚管理、テープ・フィルム管理、モニター設置・配線などを行なう)

B録音

 ・録音(音量・音質を適正に管理する)

 ・録音助手(マイクブームを操作する)

C照明

 ・照明(ライティングを設計し、指示にあたる)

 ・照明助手(レフ板・ライトを管理し、操作する)

D美術(大道具・小道具)

E衣装

Fメイク

Gスチル(撮影中の宣伝用写真や記録写真を撮る)

H宣伝(ポスターやパッケージを作るなど)

I編集

J音楽(作曲・演奏・選曲)