ストーリー

ラメスの子供時代(1972年)。ネパールの山あいの村に、牛にひかれて一台の荷車が峠を越えてやってくる。乗っているのは、人形芝居の座長のクリシュナ(50歳くらい)と、民族衣装を着た女性・ラディカ(50歳くらい)。

村では祭りが開かれる。カトマンズから父母とともにやってきて、祖母・マヤ(65歳)の住む実家に一時帰省していたラメス(6歳)が、マヤに手をひかれて、祭りにやってくる。祭りの一角でクリシュナとラディカの人形芝居が行われている。ラメスは、マヤに小銭を貰って、ラディカから風車を買う。周囲の村の子供達がうらやましそうな声をあげて群がる。嬉しそうに風車を持って駆け出すラメス。まわりの子供達が追いかける。微笑んで見送るマヤ。

子供の一人・ゴビンダ(8歳)が、風車を川で回すと面白いと言い出す。丸太橋の上から風車を突き出して、川の流れで風車を回して遊ぶゴビンダとラメスたち。風車は水しぶきをあげて美しく廻る。歓声をあげる子供たち。次の瞬間、風車は川の流れに呑まれて失われる。謝るゴビンダに怒ることができないラメス。しかし、一人でマヤの家への帰る道をなきじゃくりながら歩く。

食事どきにうつむいているラメスに父親が理由を聞くが、何も言い出せないラメス。マヤは微笑んで見守るが何も言わない。その時、納屋のほうから牛の鳴き声が聞こえる。父親は、ウチにはもう牛は飼っていないはずと驚くが、マヤは、祭りの時季になると、人形芝居の一座を納屋に泊めてやっていると説明する。そして、ラメスに、納屋の一家におやつを持っていってあげなさいと、ラメスを遣いにやらす。

おそるおそる納屋にやってきたラメスは、そこで、マヤと同じ民族衣装を纏った少女・ニサ(10歳くらい)と出会う。風車のことを正直にうちあけるラメス。ニサは、ラメスのことを慰め、ラメスの心は明るくなる。ニサは、クリシュナとラディカが奏でる音楽にあわせて、美しく踊る。気がつくと納屋の中には、ゴビンダや近所の幼い子供たちも集まってきて、楽しい夜となる。やがて峠を去っていく荷車を、ラメスやゴビンダ、村の子供らが大きく手を振って見送る。

8年後(1980年)、中学生(14歳)になったラメスが、父母や弟・妹と一緒に、祖母・マヤの家にやってくる。病の床に伏せているマヤが、ラメスを呼ぶ。お前は心が優しくて頭がいい、立派な大人になれと優しく言う。村の祈祷師はラメスに、厄払いのパタリを川に流してくるように言う。

パタリを川に流すラメス。ふと気がつくと、川岸にニサが座っている。ラメスに声をかけるニサ。ラメスもニサのことを思い出す。ニサはマヤが死にそうなのに、ラメスがあまり悲しそうに見えないのをいぶかる。ラメスは、自分は今、受験を控えて勉強に余念がないからと言い訳をする。ニサは、ラメスがこの町に住めばいいと言い出し、ラメスはとんでもないと否定する。しつこく言うニサに、お前もまじめに勉強しろと怒るラメス。悲しむニサ。そしてラメスの背中にさよならの言葉を残し、ニサの姿はふいに消える。そこに一輪の風車が残される。ラメスは風車を拾い上げるが、強風が吹いて風車は川に落ちる。その時、マヤが亡くなる。

30年後(2010年)。建築家になったラメス(44歳)は、ネパールの歴史的な町並みを保存する活動をしている。外国からの視察者に旧い町並み保存の成果を報告するラメス。しかし、そこで紹介した民家が取り壊されたことを知り、ラメスは大きく失望する。

打ちひしがれて帰宅したラメス。自宅では、自分の息子・スラジュ(5歳)が喘息で苦しんでいる。妻のロサニ(35歳)の提案もあり、転地治療も兼ね、ひさしぶりに自分の故郷の村に帰ってみる気になる。

故郷の村に帰ったラメスの一家。スラジュは、すぐに健康になり、納屋のまわりで、しきりに一人で遊んでいる。ラメスは、村に出て、成長したゴビンダとの再会を喜び、酒を飲む。ラメスは、ゴビンダに、昔、この村に来ていた人形芝居の一座は、今も来ているのか?と訊ねる。ゴビンダはあまりよく覚えておらず、ニサのことは全く記憶がない。 村の広場をさがすと、クリシュナとラディカが村を出ていくところである。ラメスは、クリシュナとラディカが30年前から歳をとっていないことを不可解に思うが、ゴビンダは、あれは2代目だろうと言って気にもとめていない。ラメスはラディカに、娘のことを質すが、ラディカは目で、自分たちの娘はこの人形だというジェスチャーを返すのみ。食い下がろうとするラメスを、ゴビンダが、お前の記憶違いだろうと言って止める。

その日の夕食どき、ラメスの実家の庭先では、スラジュがまだ一人遊びをしている。妻にいわれてスラジュを迎えにきたラメスは、スラジュが一輪の風車を手にしていることに驚く。ラメスはスラジュに、「今ここに誰かいたの?誰にこれをもらったの?」と訊ねる。スラジュは、にっこりと笑って答える。「女の子がいたよ。そして、これをくれたの。」ラメスは驚き、胸がいっぱいになってスラジュを抱きしめる。「・・・息子よ。」

美しい夕景色の中を、太陽がゆっくりと沈んでいく。クリシュナとラディカ、そしてニサを乗せた牛車が峠を去っていく。