映画『カタプタリ〜風の村の伝説〜』について 監督 伊藤敏朗

映画『カタプタリ〜風の村の伝説〜』は、私(伊藤敏朗)が、ネパール映画初の日本人監督として脚本・演出を手がけ、完成させた中編劇映画(51分)です。

この映画を製作するきっかけとなったのは、2006年12月、私が、千葉県立市川工業高校の菊池貞介先生が率いる「第4次ネパール国際技術ボランティア隊」に随行したことでした。同校の生徒たちと一緒に世界遺産ともなっているカトマンズ歴史的な街並みの調査を行いながら、そこが初めて来た場所なのに、私は、まるで自分がこの町で生まれ育ったかのような不思議な郷愁にとらわれていました。そして、現地にいる間に、自分の専門である映像メディアの実践研究を、この国でできないものかと考え始めていました。

すると、同隊の現地カウンターパートのガネシュ・ラマ氏が、実は現地では有名な映画俳優で、富山県利賀村が日ネ国交樹立40周年記念事業として製作した初の日ネ合作映画『ミテリ・ガウン(愛の架け橋)』の主役を演じた人であることがわかり、私の構想を相談してみると、ラマ氏は全面的な協力を申し出てくれました。そこで私は帰国後ただちにシナリオ執筆にとりかかり、“神の山から下りてきた妖精の少女と、人間の少年との心の交流を通じて、ネパールの農村文化や歴史的建造物の大切さを訴える”というプロットのシナリオを書いてラマ氏に送りました。ラマ氏は、ただちにこれをネパール語に翻訳し、製作準備に入りました。

私は、もともとこのようなモティーフを映画化したいと思っていたのですが、この第1回目の訪問でネパールの素晴らしさに触発されて一気に構想が固まりました。信仰心の篤い人々が暮らし、精霊の棲む土地ネパールでこそ、このストーリーは成立すると考えたのでした。ネパールの農村文化や家族のありかた、歴史的町並み保存などのテーマも盛り込んだことで物語は大きく膨らみました。

2007年2月、私は東京情報大学の学生2名とともに再びネパールを訪れ、現地のスタッフ・キャストたちと撮影にとりくむこととなりました。現地でシナリオの細部を再検討したり、出演者の選考や美術など、さまざまな準備を行なって、3月2日にクランクインしました。

撮影の主な舞台は、ナガルコットの山奥の“バタセダラ”という小さな集落で、農家や納屋を借りて撮影をおこなったほか、村の共同広場にオープンセットを組んで村祭りのシーンなどを撮りました。村祭りのシーンでは、エキストラとして、村人たち200人以上が協力してくれました。その後、ダンプスに入って、マチャプチェ山から妖精を乗せた牛車が降りてくる場面を撮影しました。ここでも村人の助けを借りて撮影用の道路をわざわざ造成しました。その後、再びナガルコットで追加撮影を行い、3月27日、無事にクランクアップすることができました。

撮影期間中は思うにまかせぬ苦しい局面もありましたが、常に現地の人々があたたかく協力してくれた上、名女優のミティラ・サルマさん、ラマ氏などの出演陣、カメラマンのアジット・バトレイ氏、助監督のジベシュ・ヨンジョン氏など、ネパールの一級の映画人が一丸となって私を支えてくれたことで、全体的には順調で楽しい製作現場となりました。現地のマスコミもたびたび好意的にとりあげてくれました。

撮影したテープを日本に持ち帰って編集、8月に三たび現地入りしてアフレコを行い、これをさらに日本で整音して作品は完成しました。2007年12月31日大晦日の夜、本作の主なロケ地であったバタセダラ村に本作を携えていき、満天の星空の下、屋外での試写会を行ないました。

2008年3月、菊池先生の第5次隊が現地入りして、同隊のこれまでの研究成果のパネルを、同16日から18日までパタン博物館で展示しました。私もこれと連携して、3月17日に、カトマンズ随一の映画館“ジャイネパール”にて、『カタプタリ』のプレミア上映会を実施しました。当日は、モーニングショーにも関わらず満場のお客様がおいで下さり、大きなスクリーンに映し出された美しい風景、出演者たちの熱演、そして本作のメッセージに、あたたかい拍手を頂戴することができました。

現地の新聞やテレビでもおおむね好評を博し、著名な映画評論家ナレス・バトレイ氏がFMラジオで、「この映画にはネパール人に郷土や文化の大切さを伝える強いメッセージ性がある。このような作品をネパール人監督が作れないのはなぜだ」と言っているのを聞いたときは、嬉しいような恐縮してしまうような思いでした。ただ、現在のネパールで、私と菊池先生が連携して、このようなテーマで表現活動を展開したことが、新鮮かつ有意義なものとして受けとめられたのであろうことは、よく理解できるような気がしました。

このように現地での理解と協力が広がった理由のひとつは、今回の作品が大いなるネパール讃歌となっていることに共感が得られたのではないかと思われます。私としてもネパールが抱えている多くの課題には十分目を向けているつもりですが、ファンタジーというものが持つ、夢や希望を与える力、人間愛を育む力というものも大切なものだと思っており、このような作品を日ネの映画を愛する者どうしが力をあわせて自主制作したということには、大きな意義があったのではないかと考えます。

同時に私は、自分一人の力の範囲を大きく超えたところで、これまでの永年にわたる日ネの交流の実績と評価が、日本人である私への期待となって、このような支持を得られたのだということも理解しており、その意味での責任も感じています。今後、本作を、日本とネパールの交流の集いなどの機会に巡映していき、両国の友好発展に少しでも役立つことができればと願っております。

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