登場人物 五十嵐龍鬼(主役・ロボットの研究者)/渡辺将成 早乙女(五十嵐の友人)/佐藤浩一郎 山田定雄(五十嵐の同僚)/雪野良介 ドライバー /朴完穆 桜井志郎(五十嵐の旧友)/絹山正和 ○メインタイトル タイトルクレジット ○どこかの路上(回想) 立っている志郎。 後ろから車のヘッドライトのような丸い光が近づいてくる。 驚いたよううに振り替える志郎、どんどん近く光。 あまりに強いその光に照らされ、志郎はハッキリとはみづらくなっていく。 眩しがる志郎。 そしてその直後、ニブイ音と共に周りの光はさらに強くなってゆく。 ○休憩室 うなだれている五十嵐。 そこには灰皿があり何本ものタバコが積み重なっており、その内一本はいまだその煙をくすぶらせている。 ふと灰皿の後ろに目を移すと、そこには楽しそうに笑い会っている志郎と五十嵐の写真。 研究にでもいきづまったのだろうか、ボーっと写真の方を見てたたずんでいる。 そこへ後ろから1人の男が近づいてきて、馴れ馴れしく肩に手を置き話し出す。 早乙女である。 早乙女「いつまでそんなしけた面してやがんだよ!下ばっか見て歩いていたら、おねーち ゃんのプリンプリンしたけつだって見逃しちまうぜ!」 五十嵐「(体を少し早乙女の方からそむける)」 早乙女「冗談だよ、冗談だってばー。そう怒るなよ」 五十嵐「────」 早乙女「──あれから二年、そろそろ立ち直ってもいいんじゃねぇのか?あいつが生き てたら、俺と同じこと言うと思うぜ。お前がそんな顔して毎日過ごしても、あいつゼ ッタイ喜ばないって!」 五十嵐「(志郎との思い出を改めて思い出し、寂しげな表情を一瞬見せる。しかしすぐ 温厚そうな顔に戻り)──そうだな。いつまでもこんな風じゃダメだよな──」 早乙女「そうそう、神様だっておまえのこと見捨てちゃいないよ。きっとそのうち、ま たいい事もやって──(といいながら改めて五十嵐の肩に手を置く)」 五十嵐「おい、お前今なんていった?(突然人が変わったかのように激しながら、早乙 女の置いた手を払う)」 早乙女「(あまりに突然の豹変ぶりに驚きを隠せない)」 五十嵐「神様だ?ふざけんな、何が神だ!お前、神がいったい俺達に何をしてくれてる っていうんだ?」 早乙女「(困惑の表情)」 五十嵐「神っていうのは、俺達を見守り、手助けしてくれる存在だとでも思ってるのか? いいかげんにしろ!そんな茶番、もうまっぴらだ!あいつはなあ、俺達がどんなに悩み、 もがき、苦しみ、そして助けを願っても、見てるだけなんだぞ!澄ました顔で眺めて るだけなんだぞ!もしそんなのを本当に『神』というならなあ、そんなのは、人間な んかより、いやこの世に生きるすべての存在よりも、最もエゴイストでサディスティッ クな存在じゃないか!!」 早乙女「──おい、どうしたんだよ五十嵐──」 五十嵐「(ふと我に戻り)──すまん、取り乱してしまったな。これからまだやらなきゃ いけないことがあるから、先に失礼するよ」 早乙女「(あっけにとられて)あ、あぁ。ガンバレよ」 五十嵐「あぁ、ありがとう。(どこか近寄りがたい空気を漂わせながら部屋から退出する)」 山田「(五十嵐と出入り口のところですれちがいながら入室してくる)いたのか、早乙女」 早乙女「あぁ山田か」 山田「お前、なにかあいつに言ったのか?なにかスゴイ空気だったようだが」 早乙女「それが、急に『神なんかいねぇ』だのなんだのって、凄い剣幕で怒り出しちゃ ってよぉ。まったく訳わかんねぇーよ。あいつのあんなところ初めて見たよ。」 山田「あいつさ、今の研究のほかに宗教の研究をしてたってことは知ってるか?」 早乙女「いや、初耳だよ」 山田「ほら、今やってる研究っていうのが、極端に言えば鉄の固まりに命をあたえる ってことだろ。それに対しての罪悪感なのかはわからないけど、あいつ『神』だのな んだのってことに、只ならぬ興味を持っちゃってさ、研究のかたわらに一生懸命調べ てたんだよ。それがあの事故で、一気に『神』に付き放されたって思い込んじゃって ──それからは、さっきみたいなあの調子なんだよ」 早乙女「────」 ○ 研究室 黙々と研究を続ける五十嵐。 時には頭を抱え、時にはたばこをふかし、時にはグラスを割るなどしながらも 研究は進んでいく。 ナレーション「彼は来る日も来る日も人工知能を持ったロボットの研究に没頭した。そ れはまるで、なにかに取り付かれたかのごとく激しいものだった。彼は自己を正当化 するため、そして志郎の死を否定するため、『神』を否定しようとした。彼は『万物 を創世し、物に命を与える』という、神のみがなせる業を自らが行うことによって、 神の存在を否定しようとしたのである。──そして、月日は流れた──」 ○ 完成発表会 中心に覆い隠されたAP、そしてその横に熱く語る五十嵐の姿がある。 どうやらその様子はテレビ中継もされているようだ。 五十嵐「──このAPF─CAIはコンピュータによる教育支援の為に作られました。これ はみずからの脚で歩き、考え、教えることができます。そしてこのAPは半永久的に 成長を続けるのです!これがAPF─CAIです!(五十嵐、APに被せられた布を取り 払う)」 観客「おぉー(どよめきが巻き起こる)」 五十嵐「このAPはこれからの世の中を変えていくこととなるでしょう。近い将来には 医療分野や治安維持などにも展開させていく予定です。」 ○ 手術室 手術が行われている。 しかし、医者の側に人間の姿は無く、執刀医から看護婦にいたるまで、すべてロボットが行っている。 APである。 ナレーション「五十嵐が宣言した通り、APの発達には目覚しいスピードでおこなわれ ていった。警察や医療機関、そして政界○経済界にいたるまで、APの浸透は進んで いった。とくに人間が好まない、いわゆる3Kといわゆる職場ではそのスピードは予 想以上だった。そしてついにAPは、人間の創造を超越した医療システムさえ構築した。 ナノマシンである。人間の血液中を移動し常に体内を監視し治療する、といったこの 新システムは、世界中の全人類に投与され、人間の死亡率を激減させるという結果を もたらした。 五十嵐教授の作り出したAPは、環境汚染や高齢化など未来に不安を抱える人間達に とって本当の『救世主』となったのである」 ○ 表彰式会場 舞台の真ん中で五十嵐がトロフィーを受け取っている。 どうやらなにかの表彰式のようである。 しかし、本来喜ぶべきはずの五十嵐はどこかふさぎ込んだ様子で表彰を受けている。 そういえばなにかがオカシイ。 どうやら周囲にいるのはAPばかりのようである。 ナレーション「(前シーンから連続で)五十嵐は全世界からの賞賛を浴びつづけること となった。世界中のありとあらゆる科学賞を総なめとし、訪れる場所、訪れる場所全 ての人々から感謝と賞賛を浴びることとなった。『人類を救った人』『人類を変えた人』 として──しかしその風景は時を追うごとに少しずつ変化していった。APの割合が増 えて行ったのである。そしていつの日にか、人間はほとんど姿を見せなくなり、APの 姿ばかりとなって行ったのである──五十嵐もこの変化に気づき始めていた。そして、 取り返しのつかないミスにも気づき始めたのだった──」 ○ 屋上 たばこを吹かしながら階段を登り、屋上へとあらわれる。 がっくりと肩が落ちている。 しかし、ただの研究疲れではないようだ。 どちらかというと、ノイローゼ気味に感じられる。 五十嵐「(ブツブツ言いながら、壁際へ)ふぅ」 大きくタメイキがもれる。 五十嵐「いったいどうしちまったんだろう、最近、なにかに監視されてるような気がする ……。そういえば全然、山田や早乙女の奴等も見なくなったなぁ。講演に呼ばれてもそ こにいる人たちから生気も感じなくなった…なにかがおかしくなってきてる感じがする ……」 ふと、後ろに人の気配を感じる。 五十嵐「誰だ!」 そこには早乙女と山田が立っている。 五十嵐「なんだお前らか、ひさしぶりじゃないか。一体最近なにやってたんだよ?急に研 究所から姿消しやがって」 早乙女・山田「………………」 なにも語らない二人、そしてその後ろから志郎があらわれる。 五十嵐「し、志郎……?」 志郎「……………」 五十嵐「お、おい、早乙女、山田。一体、一体これはどういうことなんだよ?なんでお前 らが志郎と?だいたい志郎はもう以前に……!」 早乙女「気づいてるんだろ、五十嵐」 山田「そうだよ、気づいてるんだろお前もな」 五十嵐「どういうことなんだよ。俺にはサッパリ……!?もしかしてこの志郎はロボットと か……」 早乙女「違うよ」 五十嵐「なら、何故お前ら一緒に?」 山田「いいかげん認めろよ、五十嵐」 早乙女「そうだ、うすうす勘付いているくせに」 五十嵐「も、もしかしてお前ら……」 早乙女「そうだよ、死んでるんだよ」 一瞬の沈黙、風が吹きぬける。 五十嵐「う、嘘だ。だいたい死んでる奴等が俺の前に出てくるわけが無い。これはなにか の幻なんだ。」 早乙女「たしかに幻といったら、幻かもな」 山田「けど、現実に俺達はお前に話しに来てるんだ」 五十嵐「嘘だ!なら、何故志郎は一言もしゃべらないんだ?」 早乙女「こいつは俺達より死んで長いからな。生きてる奴に言葉を聞かせる力は、残念な がら残ってないんだよ」 五十嵐「だいたい、なんでお前ら死んでんだよ?」 山田「それはお前が一番よくわかってるんだろ?」 早乙女「CAIたちは、たしかに進化するすばらしいロボットだ。けどな、その考える奴 等がこの地球の為、人間の為に一番いいこととは何かと考えたと思う」 山田「人類を滅ぼすことだよ」 五十嵐「……………」 早乙女「俺たちは、お前に気づかれないように奴等に殺された」 山田「最近、お前が見ている人間っていうのは、全部がCAIの作り出した模造品なんだ よ」 早乙女「奴等は指令に忠実であろうとする為に、俺達を殺したんだ」 山田「地球を守る為、人類を救う為には、人類は邪魔に思えたんだろうな」 五十嵐「ちょ、ちょっとまて、なら俺は何故ここにいるんだ?俺だって、その、邪魔な人 類の一人やないか?」 山田「お前はちょっと人とは違ったところがあった……」 早乙女「それはな……お前が奴等を作った張本人、『神』だからだよ!」 五十嵐「(絶句)」 山田「お前は、神に反抗しようとして、CAIを作ることに没頭した」 早乙女「そのことは皮肉にもお前を、『神』にしちまったのさ…」 しばしの沈黙。 五十嵐「……お前らなにしに来たんだ?」 早乙女「俺達はただそれを伝えに来ただけだ」 五十嵐「嘘だ!俺は信じない、信じないぞ!」 山田「それはお前の勝手だ」 早乙女「ただ、俺達は情報を与えた。それをどう処理するかはお前しだいだ」 山田「そろそろ時間だ」 早乙女「おぉ、もうそんなに立ったのか?」 山田「じゃ、行くぜ」 早乙女「あぁ、先いってるぜ」 山田、早乙女の順に一人ずつ立ち去り消えていく。最後に志郎が残り、五十嵐を見つめている。 五十嵐「志郎……」 志郎「……」 志郎、最後まで五十嵐を見たあと、同じく立ち去り、そして消えゆく。また、五十嵐だけがその場には残った。 五十嵐「いっちまった……あいつら何が言いたかったんだ?俺が、今この世界で唯一の人 ってことか……?あいつらにとっての『神』になったって、俺は、俺はそんなんになり たかったわけじゃない。俺は、俺はただ志郎が死んだことが信じられなくて、認めたく なくて!死……死ぬ……そうか、わかった、わかったぞ!あいつらが俺に言いたかった こと!もう、俺はここにいても仕方が無いんだ。ここにいる理由なんてなんにもないん だ!『神』なんかにされるよりは……山田、早乙女……そして、志郎。今いくぞ!」 志郎、飛び降りる。 画面が光の中に消えて行く。 ナレーション「こうして人類の歴史は幕を閉じた。現実と向き合えなくなった一人の人間 からの決壊。破壊というものは、そういう存在から始まるものなのかもしれない。そし て地球はCAIのものとなった。それは、結果として起こった支配者の交代。彼らにと って『神』は五十嵐であり、そして人類である。そして人類にとっての『神』とは我々 を作った存在であるとされている。しかしそれなら、我々を作った存在にとっての『神』 とは?我々を作った存在を作った『神』にとっての『神』とは……?我々にはそれを知 るすべはない。ただ、前を見続けるのみ……」 "Who Is God" エンドロール ―終 |