日本初の学生テレビ局『情報大ステーション』はメディアの将来像をかえるか!?

伊 藤 敏 朗
『情報大ステーション』制作統括
(東京情報大学情報文化学科助教授)

情報メディアのディジタル化にともなう急速な発展と普及が人々の目を奪うようになって久しい。そして、この進歩がもたらすもののひとつとして、それまで大企業などに独占されていた映像メディアも、これからは一般市民や学生が自分たちで撮影し、パソコンで編集し、電波やネットワークを通じて自由に情報発信できるようになる、そのことが地域社会のあり方までも変えていく、といった未来予想がよく語られたものである。

しかしこれまで、アマチュアが制作する映像番組が、多くの人々の目にふれるように発信され、社会的反響をよぶといった現象は、ほとんど起こったことがない。実際の映像番組の制作は、技術面や人材面など、越えなければならないハードルがいくつもあり、けして容易なことではないからだ。かけ声の高さとはウラハラに、市民や学生が映像メディアを通じて情報発信するなどということは夢物語にすぎないのではないか−そんな冷めたムードも拡がりつつあった。

2004年、こうした状況に風穴をあけるような画期的プロジェクトが千葉テレビ放送でスタートした。ほかでもない、東京情報大学による『情報大ステーション』の放映である。

この番組は、同年7月から12月まで、東京情報大学で映像を学ぶ学生たちと千葉県内の高校生とが協力して、自分たちの地域のできごとに目をむけ、映像でレポートし、これを毎週放映していくというものである。番組の企画も、撮影・編集もすべて大学生と高校生の手でおこない、使用する機材もスタジオもすべて大学のものだ。このような定期テレビ番組が自主制作され、地上波テレビ放送として一般市民に伝えられるということは、わが国では前例のないことだった。

半年間、全26話にのぼった『情報大ステーション』のビデオレポートのテーマには、大きく3つの柱がある。

●テーマ1:千葉の文化と自然

「房総の山奥に伝わる武術」「植物の根のはたらきで印旛沼の水質浄化に取り組むNPO」など、千葉の文化や自然をテーマにした番組などがある。

●テーマ2:生涯学習と地域

「国立歴史民俗博物館」「千葉都市モノレール」など県内の生涯学習施設や公共機関に取材したものなどである。

●テーマ3:イキイキ!高校生

高校生自身による取り組みや、番組を通じての体験を取材して、高校生のイキイキとした姿を伝えるもので、「乗馬体験」「街頭募金」「高校生たちの手作りファッションショー」「大道芸人と高校生ジャグラーの交流」など、課外や校外で活躍する高校生たちを紹介した。

このように各回の取材テーマはバラエティに富むが、シリーズをとおしてのメッセージはシンプルだ。番組で繰り返されているのは、若者たちが学校のなかに囲い込まれ、孤立した存在なのではなく、地域社会における空間的、時間的な連続性のなかにあって成長を遂げていくことの大切さである。そのような空間と時間(世代)の隔たりを乗りこえていこうとするうえで、テレビ放送というメディアはとてもふさわしいものに感じられる。そして実際に、県内のマスコミや教育、行政などに関わる人々、そして一般市民から多くの反響をいただくことができたのだった。

この番組が高い評価を得た点は、学生が作る番組でありながら、いかにも若者向けといった軽い内容に堕することなく、地域のテーマを真面目にとりあげていったことだ。すこし堅苦しすぎるという指摘もあったが、この真面目路線から脱線することはなかった。若者がメディアでとりあげられる場面が、商品化された一群のタレントたちか、あまりに暗く寂しい事件事故のニュースかに限られているかのような現在、等身大の高校生・大学生たちが、出演者や制作者として頑張っている姿を伝える、このような番組の制作は、地域と教育をメディアでむすびつけようとする真に野心的な挑戦として理解されたのだと思われる。

この『情報大ステーション』は、もちろん、東京情報大学の映像メディア・リテラシー教育の面で大きな成果があった。これほど実践的な映像教育は例がなく、学生たちは技術的にも人間的にも大きく成長した。それにもまして学生が制作するコンテンツが、それまでプロの独壇場だった地上波テレビの番組と並んで提供され続けたということは、情報化時代がもたらす新しいメディアとコミュニケーションの姿を示した点で大きな意義があったと言えるだろう。

無論、このプロジェクトが、なにもかもうまくいったわけではなく、さまざまな失敗や反省点もある。ひとつひとつの課題に地道に取り組み、立ち止まりながら考えては、また歩を進めていくほかない。そのささやかな積み重ねが、メディアの将来像への実証モデルとなり、情報化社会とは何かという大きな問いに答えを出すことに結びつくことを信じたい。

『情報大ステーション』は、2005年も継続されることとなり、その制作は先輩から後輩へと引き継がれた。学生たちは、千葉の文化や情報の発信基地として、地域に根付いた番組としていきたいと意欲に燃えている。そして彼らが社会に巣立つとき、メディアは確実に変わるだろう。