君待橋〜あなたは君待橋を知っていますか〜

シナリオ




○大学の教室内(スタディルーム)
   
  弘子と信夫が机の両側に座って口論中。
弘子「なによ。」
信夫「なんだよ。」
弘子「そういうものの言い方ないでしょ。」
信夫「お前が先に言ったんだろ。」
弘子「お前なんて言われたくない。」
信夫「何なんだよ。じゃ、どうしろってんだよ。」
弘子「…わかった。もうあなたと会うのよすから。」
  弘子、ぷいと立ち上がり、バックを背負って教室を出て行く。ぶ然としている信夫。近くに座っている学生たち(一人は加藤)は唖然。

○弘子のモノローグ(黒画面)

弘子の声「…とはいったものの…やっぱり会ってハナシしてみようと思った。」

○タイトル

  (パソコン画面のようなタイトル)キーボードをたたく音にあわせて、パソコン画面に「きみまちばし」と文字が並び、「君待橋」に変換され、ピッとメールを送る音がする。

○コンピュータ実習室

  信夫と加藤が並んで端末にむかっている。信夫、自分の端末にメールが届いたことに気がつく。
信夫「あれ…。」
   信夫、メーラーを操作して弘子からのメールをひらく。
   弘子のメール。「今日16:00 君待橋で待ってる。弘子」
  信夫、ちょっと考えてから、加藤に声をかける。
信夫「なぁ、君待橋って橋、あるのか?」
加藤「うん?」
加藤、信夫の端末画面をのぞきこむ。
加藤「あ、ヒロちゃんだ。仲直りできたの?お前ら。」
加藤のひやかし口調に、信夫、少しふくれながら、
信夫「君待橋ってどこだよ。」
加藤「知らね。」
信夫「お前、地元の人間だろぉ。」
加藤「地元だって、そんな橋は知らないよぉ。」

○図書館(地図コーナー)

  信夫と加藤が次々に地図をひらいていく。いくつかの橋名のアップが続くが「君待橋」はない。
  信夫が加藤の開いている地図に顔をつっこむ。
信夫「あったかよ。」
加藤「ない。そんな橋、実在しないんだ、うん。」
信夫「ちゃんと探せよぉ。」

○千葉の街中

  街行く人にインタビューして歩く弘子。
弘子「すみません、『君待橋』っていう橋をご存知ですか?」
  しかし誰も知らない。

○マルチメディア・ワークショップ

  加藤がインターネットの地図サイトで「君待橋」で検索するが、該当0件と表示される。
加藤「うん、存在しないんだ、そんな橋は。」
信夫「そんなわけ、ないって。」
加藤「ないもんはないよ。」
信夫「だって、(腕時計を見て)くそ、どうすりいいんだ。」
加藤「…ま、都川だろうけどな。」
信夫「え?」
加藤「千葉市の川っていえば、都川っきゃないからさ。上から1本づつ橋を調べていけば、いつか見つかるだろ。」
信夫「それだ。いくぞ。」
加藤「…いくぞ?。」
  思わず、自分を指さす加藤。

○都川沿い

  信夫と加藤が川沿いの道を走ってくる。信夫がある橋の欄干に名前を読むが「君待橋」ではない。加藤はもうグロッキーぎみである。
加藤「なんで、こんなことしてんだよ。」
信夫「どれかが『君待橋』のはずだろ。」
  信夫、すぐに走り出す。
加藤「なんで、なんで俺まで。」

○千葉の街中

  街行く人にインタビューして歩く弘子。
弘子「すみません、『君待橋』ってどこにあるか、ご存知ありませんか?」
  やはり誰も知らない。

○都川沿い
  走ってくる信夫と加藤。加藤が、これ以上走れないというジェスチャーをして座り込んでしまう。信夫、腕時計をチラと見た後、加藤を放って走り去る。

○千葉の街中 

 街行く人にインタビューして歩く弘子。すると、そのうちの一人が、ある方向を指さしている。礼を言って歩きだす弘子。

○君待公園横

  走ってくる信夫。前方の橋の上に立っている弘子を見つける。弘子は固い表情で、遠くのほうを見ている。

○君待橋の上

  弘子のところへ信夫が息を切らせながら歩いてくる。橋の欄干にもたれて、どっとへたりこむ。
信夫「…ひゃあ、疲れた!」
  その様子を見て、弘子、笑顔になる。背後の鉄橋を電車が通り過ぎてゆく。
信夫「…弘子、こんな橋、前から知ってたのか…」
弘子「名前だけね。ここにあるってことは知らなかったけど。」
信夫「…まぁ、弘子が本気で待ってるってことは、よくわかったぜ…」
弘子「あのさ、なんでこの橋、『君待橋』っていうか知ってる?」
信夫「知るわけないでしょう、わたくしが…」
弘子「それはね、昔々、この橋で、若い男と女がね…」
信夫「(唐突に)あれ!」
弘子「…?」
信夫「加藤の奴、置いてきちゃった!」
弘子「加藤君?どこに。」
信夫「うーん、まぁいっか。」
弘子「(笑って)ねぇ、喉かわいたでしょ。ビールでも飲みに行かない?私おごってあげるから。」
  信夫、笑いながらズボンの埃をはたきながら立ち上がり、歩き出す。弘子、小走りに寄って、そっと信夫の腕に手をまわす。

○君待橋遠景

  君待橋の上を腕を組んだ二人歩いていく。街並みがひろがる。(F.O)

○エンドタイトルの後

  加藤、まだ同じ場所でグロッキー。「はぁ」と大きなため息をつく。(円ワイプ)

(おわり)